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外堀にタツノオトシゴ

交代制の昼休みに、一人きりの喫煙所で伸び伸びタバコを吸っていると、ケアマネのAさんがバン!と入って来て・・・、いや、外だからバン!と出て来たと言うべきか。

3つもベンチがあるし、誰も居ないのに私の真隣にドカッ!と座り「Ohzaさんっ!!」と言う。凄い至近距離。あの、ほら、一か月半前、初対面で灰皿を蹴った恰幅の良いマダムである。

は、はい!?はいはいはい!
何で、こんなに空いているのに真隣?と怯えつつもかろうじて返事をしたところ「お願いだから正社員になって下さい!」とベンチに三つ指をついて頭をお下げになる。ひえー!色んな意味で怖い!三つ指も頭を下げるのも似合わな過ぎる!

まだ勤めて間もない頃、主任ナースのTさんが「正社員になりませんか?」と言って来られたのだが、その時は、そのほんの数時間前に言い争いをしたばかりだったので訳が分からなかった。そうそう、そのつい数時間前に「0点だ、おまえ!もう帰る!」となっていたので「そんなわけないでしょう。」と静かに告げた。
その後、パッタリその話はしなくなっていた。
それがまさか他の人の口から出るとは。

第一、施設長でもないのに、何故にケアマネさんがスカウトするのだろう?そう思いつつも「いえ、施設側が望まないと思いますよ。」と答えると「いやいや、望んでる、望んでる。」。

Tさんが嫌がると思います。

「Tさんは、Ohzaさん以外は嫌だって言ってた!」

施設長が嫌がると思います。

「まだ訊いてないけど、絶対良いって言う!」

他の派遣さんたちの中に嫌な気持ちになる人が沢山いますよ、きっと。

「知るか!そんなもん!」

いったい何なんだろう、この人は。初対面の印象通り色々な実権を握っていらっしゃるのだろうか。

正直、最近面白くなって来たと思っているんですが、出来るかどうか心配ですので、一旦持ち帰り・・・。

「分かった!でも、持ち帰らないで置いてけ!いや、持ち帰っても良い!ごめんなさいね!」

その後、施設長とTさんが同じことを言いに来られた。

やりたくないことはやらないが、この人生、これまでも成り行きで選択して来たことが多いような。
派遣周りをしばらく続ける予定でいたけれど、まあ、ダメ元でやってみて良いかなあ?と思い始めている。

しかし、「皆、強烈だけど、あなたならやっていける!」と言われると「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」と、宙を見て今一度考えたくなる。出来れば平和に生きて行きたいです。

***
初日にライターを貸してくれた介護職員の、これまた恰幅が良い女性は日本人だが、ネイティブアメリカン?というような顔をしている。

その彼女が「良い歳して、肩にタトゥーを入れたいなあ~と思ってます。」と言う。

似合うでしょうねえ。鯉とか?

「鯉を肩に彫りません!」

というから、どんな素敵モチーフなんだろう?と思ったら「タツノオトシゴです。」と仰るので、危うく笑いそうになった。
この人、迫力あるし、まだどのツボで笑いとして許してくれるのか分からない。ので、必死でこらえた。

じゃあ、入れたら絶対見せて下さいね。

と言ったところ「言いましたね?見せてって言いましたね?」。

え?はい、言いましたよ。

「一年後に入れる予定なんで、一年後にもこの職場にいて下さいね。」

・・・・。何なの?今日は。

***

帰宅するとKちゃんが「ねえ、Ohzaちゃんが居る施設に向けて就職活動をしようと思う。」と言う。

驚愕。

派遣だって言ってあるはず。

それなのに、いつの間にか外堀の中に、身内が入っている。

よく分からないから、この件はもうしばらく保留。

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