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この人とは絶対ダメと いつもそう思うのに

初老。しかし、恰幅が良くパワフルなケアマネのTさん(㊛)。

いつぞや、この喫煙所で「正社員になって下さい。」と三つ指をついて仰った方。(出会いの場面では灰皿を蹴った人)

本日も喫煙所で出くわすと「まだ自転車で来てんの?おうちまで何キロくらいあんの?」と。

4キロくらいです。

すると、タバコをふかしながら空を見つめる。「・・・・・。」

どうしたんだろう?と思わず同じ方向の空を見てしまう。

「・・・・。冬は、地下の駐輪場へ降りるスロープが、凍るんだよ。特に雪が降った日なんかは。」

え?あ、そうなんですか。

でも、あたしが毎朝、お湯かけて溶かしてやっからよ。

あ、ありがとうございます。

玄関の雪かきも、あたしがやってやっから。大丈夫だから。」

???
ああ、恐縮です。ありがとうございます。

「安心しな。わかるな?」

はい。ありがとうございます。(全然わかんないけど。)

しかし、あとから気が付いたのだけど、あの人なりの「辞めないでね。」なのだろう。
お気持ちがありがたし。

***

最初の頃から理不尽に怒鳴っていたお婆さん。認知症はほぼ無し。目がギョロギョロしていて、興奮すると余計に見開かれる。
今日は、他のナースに烈火のごとく怒っていた。
聴こえてくる怒鳴り声の内容によると、約束した時間に血圧を測りに来なかったかららしい。

割と大柄なこの女性に上から、しかも至近距離で怒鳴りつけられるので、誰もが首を縮めるようにして謝るのだが、一旦火が着いたら、ずっとしつこく怒鳴り続けられる。それはもうどんな人でも真っ暗闇になるほどの罵詈雑言。
しかも難聴なので、こちらの言葉はあまり聞こえないのと、そもそも聞くつもりもないらしい。

そんなもんだから、皆さん大声を張り上げて謝っているのだが、私はもういい加減そんなに大声を張り上げるパワーがない。

なので、そのナースさんの後ろで無言で両手を合わせ頭を下げ、ごめんなさい!ごめんなさい!とジェスチャーしてみた。
心底謝っていますというのを表現するために両手を合わせ過ぎて、しまいには上下に振り、何かを拝んでいるような姿になっていた。

私の前にいるナースさんから、私の方へと視線が移り、最初はガン無視だったが、またちらちらと見て、とうとう最後に吹き出していらした。
あ。笑った。

後ろに変なやつがいるよ!

多分私だけでなく、この時のナースさんもこの人の笑顔を見たことがなかったかも知れない。

でも、笑っちゃったことに対して照れているのと「絶対許さん!」という気持ちが半分半分なのだろう。余計に大声で「全く!蹴とばしてやりたいわ!」と仰った。

大声を出すのが面倒だけど、この方は補聴器つけてくれる気もさらさら無い。なので大声で言った。

どうぞ!ここを思い切り蹴とばして下さい!と、お尻を差し出した。

すると、お尻ではなく肩を優しく叩いて爆笑して下さった。もはや、震えてるじゃん。
怒っても笑っても、体調が心配だわ。
そして「もう、いい。」と去って行かれた。

しかし、午後になって暇になったのか、また思い出したのだろう。今度は主任に言いつけるために医務課にいらした。「Aっていうナースが約束を破ったのよ!私はここのケアにお金を払ってるのよ!いったいどういうこと!」と。

しかし、主任の後方に居る私に気が付くと「ぷぷっ!」と吹き出してしまわれた。ただ、そこに居ただけなのに。
ビックリして振り返った主任は、私とその人を交互に見た。

「あの人、ほんと面白いわよね。」

(ずっと死ねとかボロクソ言っていたじゃない。初日から何もしていない私に。)

ほんとに滅多に笑わないのだろう。主任が、こんなにわずかな間に汗びっしょりになって「何があったんですか?!」と訊いている。

が、話を逸らすものか!ということで、先ほどのナースの悪口を再開なさる。

怒りが再燃したあたりで、またジェスチャーで訴えかけた。近づいて行って丸めた厚紙を渡してお尻を出すと、その方は「もう!わははは!」と笑い、主任は汗ばんだまま青くなったが。

その攻防を目にしているうちに、とうとう主任も同じタイミングで彼女の方へお尻を突き出した。

「叩かないわよ。蹴とばしもしないわよ。」と上機嫌で去って行ってくれた。

その後ろ姿に向かって「でも、ほんとに皆で気を付けますから!」と叫ぶと、片手をあげて「聞こえたよ」と合図をしてくれた。

人の笑顔って、いいなあ~とつくづく思う。

結局、最後はそう思う。

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