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明和電機はどのように「明和電機」になった? 「原点」の土地での展覧会  ーー明和電機ナンセンスファクトリー展 in つくば (茨城県つくば美術館)

アートユニット「明和電機」の展覧会「明和電機ナンセンスファクトリー展 in つくば」。その会場の「茨城県つくば美術館」、そしてつくば市は明和電機の「原点」ともいえる場所なのだとか。

「原点」とはどういった意味で、そして「明和電機」という唯一無二のスタイルはどのように生まれたのでしょうか?

会場の「茨城県つくば美術館」

▍”ナンセンス”な作品たちが生まれるまでの過程を体験する「ナンセンスファクトリー」

「明和電機」は、中小電機メーカー風のスタイルで展覧会やライブを行うアートユニット。1点モノのアート作品を制作しつつ、「オタマトーン」のような個性的なおもちゃも販売しています。

会場入り口

今回の「ナンセンスファクトリー」展は、そんな作品(製品)たちが、産み出されるまでの過程を、
 ① アイディアをスケッチして
 ② アート作品として形にし
 ③ おもちゃ (マスプロダクト) として多くの人に届ける
という一連の流れで見ていくことが出来る展覧会。

明和電機の ”頭のなか” をちょっとだけ覗き見られるような展覧会ですね。

青い通路を通って、いざ展示室へ。

展示室に続く青い廊下をわたり、まず展示室の中央に見えるのは「マスプロダクト」の世界。楽しそうなおもちゃたちが並びます。全部、実際に触って体験できるのも嬉しいところ。

マスプロダクトのコーナー。購入可能な「おもちゃ」を大きなサイズで演奏して楽しめます。

展示室の突き当たりには「スケッチ」の展示。おもちゃや作品たちが生まれるまでに描かれてきた30年分、2万枚(!)に及ぶスケッチが。

スケッチライブラリー

そして、中央通路から分岐する4つの部屋で展開されるのは「アート」の世界。各部屋、シリーズごとに作品が展示されています。

・魚器(NAKI)シリーズ
「自分とはなにか?」という課題を、魚をモチーフに26の”道具”で表現した作品シリーズ

魚器シリーズの展示。ぐるっと360°、円環状のパネルで展示されています。(この奥にはもうひとつの展示室が)

・ツクバシリーズ
100V 電流でモータや電磁石を物理的に動かして音を出す、電動楽器の作品シリーズ

・ボイスメカニクスシリーズ
「声」が持つ”機能性”と”呪術性”という二つの面をモチーフとして開発された作品シリーズ

・筑波大学の学生時代作品
美術館ではおそらく初めてまとまった形で展示される作品。明和電機の土佐社長が筑波大学の総合造形領域 に在籍されていた学部時代の課題から、卒業制作、修了制作などが展示されています。

修了制作の展示の再現。展示台などは今回の展覧会のために再制作されたもの。
学部時代に制作された課題作品。山口勝弘先生、篠田守男先生、三田村畯右先生、河口龍夫先生…と、筑波大学時代に影響を受けたという著名なアーティストの先生方のも見られます。

▍明和電機はどのように「明和電機」になったのか? それは 「全部つくばのせい」

「筑波大学の学生時代作品」の展示は、大学〜大学院〜技官と約10年間すごし、「明和電機」が誕生した”原点”である、つくばという土地ならではの企画ですね。

土日に1日2-3回開催される「製品説明会」(ミュージアムトーク)で、社長自らがその「原点」についてお話しされていました。

展示されている修了制作の不可解さ。それは「全部 ”つくば” という土地のせいなんですよ!」という社長。

「製品説明会」の様子

海と山が見渡せる「箱庭」のような瀬戸内の高校から、つくば市のできた1987年に筑波大学に入学。人工的でまるで「月面基地」のようなその土地で「東京で感じる”相対的な孤独”とは違う、つくばの”絶対的な孤独”」を感じたのだそう。

卒業制作の ≪妊婦ロボット≫ (1990) 今回の展覧会のために筑波大学の学生さんたちと再制作されたもの。

「孤独」で自分を見つめざるを得なくなった中で、「自分とはなにか?」という課題から、「魚」をモチーフにして表現する「魚器(NAKI)シリーズ」の原型が生まれます。

黒板パネルに取り付けた修了制作の6つの魚器

一方、クリエイションは「つくること」だけではなく「みせること」が同じくらい重要。でも、修了制作当時は「みせる」方法はまだ不十分で、タキシードを着て修了制作のパフォーマンスをおこなったものの、違和感があったのだとか。

なぜ「魚」にたどりついたのか?は、こちらのジャーナル&修士論文に。会場で閲覧&物販で購入出来ます。

「スタイル」が必要だと考えた中で思いついたのが、父親の経営していた「明和電機」という中小電機メーカーのスタイルであり、当時のニュー・ウェイヴのブームの中に見られた非個性的な「制服」のスタイルだったそう。

トークでは、そのスタイルに至るまでの心境や、お兄さんとユニットを組んでデビューするまでのエピソード、筑波大学時代の話などもたっぷりお話ししてくださり、真面目で、ものづくりで大切なことが詰まった話ながらも、笑いっぱなしの30分間でした。

作品の根本は同じでも、プレゼンの仕方で全く違って見えるのは、やっぱり「明和電機」というスタイルの発明が、社長のおっしゃるとおり、すべての作品と同じくらい重要なことなんだなぁと伝わってきます。

▍美術館を出て 街に広がる作品たちを体験!

そんな明和電機の「原点」の土地での展覧会。「関連イベント」として、つくばの街では複数のイベントや展示も開催されています。

・ジャイアントオタマトーン

磯崎新建築の「つくばセンタービル」の広場に巨大なオタマトーンのオブジェが登場。もともと備え付けられた彫刻作品かのようになじんでますね… 裏はチラシ入れになっていました。

不思議なほど 建物となじんでいます

明和電機 ナンセンスおもちゃ研究室 (co-en)

「つくばセンタービル」の1Fにある一部屋が「ナンセンスおもちゃ研究室」に。明和電機のかわいいおもちゃや、マスプロダクトに囲まれた部屋が登場。(2022年4月6日(水)~5月29日(日))

明和電機 ✕ SAZA COFFEE オタマトーンカフェ

大きなオタマトーンの模型も。お手洗いにも是非立ち寄ってみてください。

筑波大学の中にある「サザコーヒー筑波大学アリアンサ店」が期間限定で「Otamatone Cafe」に。店内がたくさんのオタマトーンで彩られ、コラボコーヒーも限定販売されています。

その近くには、土佐社長が学生時代を過ごしたという学生寮「平砂宿舎」も(現在は廃墟とのこと)。部屋が五角形で使いづらかったそう。外から見ても不思議な形の建物です…

平砂宿舎

・2010年代、デビュー当時の1994年を再現したコンサートも
つくば駅近くのイベントホール「つくばカピオ」では、明和電機のルーツを振り返るように、2010年代、そしてデビュー当時の1994年を再現したコンサートも開催されました。(2022年5月7日8日)

特に、1994年のコンサートは、たくさんの「自動演奏楽器」に囲まれたコンサートとは異なり、手動で演奏する作品たちに、当時のパフォーマンス。次に何が起こるのか予想が付かない…貴重な体験でした。

それにしても、30年前の作品が今でも動いて、同じメンバーで再びコンサートができるのって、実はすごいことなのでは…と、30年の重みをあらためて思うコンサートでした。

コンサート終了後の会長&社長

「明和電機 ナンセンスファクトリー展 inつくば」は5月22日(日)まで。5/21, 22には、美術館でのミュージアムトーク&自動演奏、サイン会も1日2-3回開催されます。

【展覧会情報】 明和電機 ナンセンスファクトリー展 inつくば

日程:2022年5月3日(火・祝)~5月22日(日)9:30~17:00
会場:茨城県つくば美術館(茨城県つくば市吾妻2-8)
入場料:一般・・・800円 学生・・・400円 未就学児・・・無料

※ つくばのサザコーヒーで開催されたトークイベントの様子がYoutubeで公開されています。

つくば美術館のトークにもあった筑波大学時代の話やデビューまでの話など、詳しくお話しされています。


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