見出し画像

[活動報告書]ケニア共和国における孤児と脆弱な状況にある子どもたち(OVC)と保護者を支える生活向上支援事業——在来種野菜と樹木の栽培を組み合わせた農業活動の導入を通じて

はじめに

2018年1~12月に実施した「ケニア共和国における孤児と脆弱な状況にある子どもたち(OVC)と保護者を支える生活向上支援事業——在来種野菜と樹木の栽培を組み合わせた農業活動の導入を通じて」について、かなり堅苦しいのですが、1年間でどのように事業をすすめ、どんな結果が出たのか、noteで実験的に共有してみようと思います。

このnoteはこんな方にお役に立てるのではないかと思います。

・PLASで海外事業スタッフとして働いてみたい!
・NGOで海外事業を担当している
・PLASに寄付をしていて、しっかりと事業について知りたい
・大学などでNGOの活動、開発援助などについて学んでいる
・NGOやNPOの事業評価に関心がある
・開発コンサルや外務省で働いていて、NGOの草の根の活動のやり方に関心がある
・アフリカでビジネスをやっていて、アフリカで活動するNGOの活動のやり方に関心がある

かなり、ニッチです。
でも、少なからずニーズに合う方にはとても役立つ情報になるのではないかと思っています。

では、かなりかたーい文章でつづりますが、お付き合いいただける方は読み進めてください!


1.活動の背景と目的

1‐1.活動地の概要

ケニア共和国ホマベイ郡はケニアの西部に位置し、ヴィクトリア湖沿いの地域である。人口は約100万人で、成人(15歳以上)のHIV感染率が25.7%と全国で一番高くなってる。

改良水へのアクセス(27.8%)や衛生的なし尿処理(41.5%)において、全国平均(それぞれ52.6%、61.1%)と比べ開発状況も低い状態である。

孤児や脆弱な環境にある子ども(orphans and vulnerable children = OVC)は約11万人おり、孤児を抱える約6万家庭の半数が貧困家庭である。OVCは片親、両親または保護者を亡くし、ケアや保護を必要とする18歳未満の子どもを指す。


1-2.農業と生計の課題

事業活動地のビタ準郡はホマベイ郡の8準郡の1つで、人口は約11.1万人(2009)、ホマベイ郡の北西部に位置し、半乾燥地域のため、住民は限られた農業活動の他、小規模ビジネスや薪・石炭売りをして暮らしている。

画像29

スクリーンショット 2020-01-08 14.02.09

漁業も盛んな地域だが、限られた人しか生業として認められていない他、男性の仕事とされている。

当会が2016年に同地で実施した調査(99家庭対象)では、片親家庭の保護者の平均月収は約2,878シリング(約3200円、中間値は1600シリング)でケニアの国の平均(8900シリング)の3割強ほどしかなかった。
もともと農作物だけで生計を立てるのが難しい地域で、自家消費用作物の栽培も困難な家庭があり、食糧不足やベーシックニーズを満たせない家庭も多い。ここ数年、雨期に降る雨量が不安定で、まとまった雨が降らないことで、農作物の生産が落ち、2016~2017年に発生した東アフリカを中心とした旱魃ではこの地域も影響を受けた。

画像29

(写真)ヴィクトリア湖

画像29

(写真)週に1回開かれる青空市


1-3.地域にある資源:在来野菜の活用

持続可能な活動を考えたとき、このような貧困下にある家庭でも、継続的に食糧や栄養を摂れることを計画すべきである。そこでこの地域に既にある資源、在来野菜に着目した。

在来野菜(現地でよく食べられるBoo、Apoth、Osuga、Dek)は、その葉やツル、マメを食用にするもので、現地の人々に広く知られている。
それらの野菜は比較的乾燥や病気に強いため、化学肥料や農薬を必要とせず、堆肥と水だけで育つ。そのため貧困家庭でもあまり費用をかけずに育てることができ、さらに農業の失敗のリスクが低い有用な農業活動であると考えられる。

また、これらの野菜を1つの畑に組み合わせて植え(混作)、作物どうしが良い影響を与え合い、土壌の成分に偏りが出にくく、1種類の作物の生産性が悪くても他の作物でカバーできるように計画した。

画像29

(写真)在来野菜BOO(受益者の畑から)

画像29

(写真)在来野菜DEK(受益者の畑から)


1‐4.なぜ、これまで有用な在来野菜が積極的に栽培されてこなかったか

こうした有用な資源、在来野菜はこれまで積極的には栽培されてこなかった。

この地域では、農業生産に課題があることから、生計手段の代替としてヤギやウシの家畜放牧が行われている。

そして住民の話からは、この家畜放牧により畑の野菜や灌木が食べられる被害が出ており、そのため、在来野菜を育てることに積極的でなかったという。


1-5.もう一つの課題:樹木の伐採と森林減少

またこの地域では調理のための燃材として薪や炭が使われており、自生する樹木が伐採されている。こうした人間の活動によって、長い月日のうちに草本や樹木が減っていくことで土壌がむき出しになり、土壌からの蒸発が加速する。

さらに、雨による土壌侵食も見られる。樹木は長期的に、燃材、土壌の安定化、土壌改善、家具などの木材利用、果樹、薬用、生態系の保全に効用があるが、人口圧によって伐採が続けば、この地域全体の持続可能な生活が成り立たなくなることが予想される。

画像29

(写真)フェンスの外ではヤギが草を食べている

画像29

(写真)現地の様子、土壌流出が見られる場所もある


1‐6.課題解決の方法:農業用フェンスの設置

そこで、この事業では、各家庭に農業用のフェンスを設置し、そのフェンス内で在来野菜と樹木を組み合わせて植えることを計画した。

フェンスによって住民の野菜栽培の積極性を上げることができ、樹木を組み合わせることで、長期的に家庭や地域の環境改善につながることを期待する。


1‐7.事業の目的

本事業では、上記のような環境で暮らすシングルマザー家庭25家庭(うち10家庭は保護者がHIV陽性のシングルマザー)が、在来野菜と樹木を組み合わせた農業活動の開始によって、自家栽培で収穫できる野菜の量や種類を増やし、栄養や生計が改善することを目的とする。


2.活動の実施経過

1月   現地渡航(事業開始準備) ①
2~3月   受益者選定 ②
4~5月   ベースライン調査 ③
4~9月  フェンス建設 ④
5月   農業技術研修 ⑤
5~10月 ロバの配布 ⑥
7月   現地渡航(モニタリング) ⑦
9月   家畜飼育研修 ⑤
10月    現地渡航(モニタリング・評価) ⑧
1~2月  エンドライン調査 ③


2-1.2018年1月の現地渡航(事業開始準備)

現地パートナー団体であるVIAGENCOと事業内容や進め方について協議した。また農業行政官事務所、森林行政官事務所を訪問し、研修について話し合った。

画像7

(写真)パートナー団体と打ち合わせ

画像8

(写真)農業行政官と面談


2-2.受益者選定

現地パートナー団体が候補にあった各家庭を訪問し、本事業のために提供できる土地の大きさや水場からの距離をアセスメントした。

パートナー団体によるアセスメントをもとに、最終的に25家庭を受益者として選定した。


2-3.評価調査(ベースライン・エンドライン)

2018年4~5月と2019年1~2月には受益者を対象に、家計や野菜栽培についてインタビュー調査を実施した。インタビューは、現地パートナー団体スタッフが質問紙を用いて行い、回答を記録した。結果については「3.活動の成果」を参照。


2-4.フェンス建設

各家庭に農業用フェンス(13.5メートル四方)を設置した。

当初、支柱は木材を予定していたが、木材の共有がケニア全土で減少し、鉄製のものを使用した。支柱は地面に穴を掘り、埋められ、回りをセメントで固めた。そこにフェンスを張っていった。

丘陵地や道路の整備されていない地区に暮らす受益者も多く、材料の運搬や、作業員によるフェンス設置工事に時間を要した。

画像29

(写真)フェンスの材料の配布

画像29

(写真)完成した農業用フェンス


2-5.技術研修(農業・林業・家畜)

受益者に対する技術研修は、2018年5月に農林業分野を3日、9月に家畜飼育分野を1日行った。農業分野の研修内容については、2018年10月渡航時におさらいした。

また研修実施者は、地域の農業局、林業局、家畜局それぞれの行政官に依頼した。研修内容は以下の通りである(表1)。

スクリーンショット 2020-01-06 16.15.35

技術研修については、本事業の受益者だけでなく、その前年に同様の支援活動を受けた同地域の家庭の参加も受け入れた。各研修への参加者数についても表にまとめた(表2)。

スクリーンショット 2020-01-06 16.17.41

農業技術レベルの向上度合いについては「3.活動の成果」を参照。

画像28

(写真)研修の様子(10月)


2-6.ロバの配布

ロバは、水場から遠距離に暮らす家庭17家庭が対象となった。マーケットにおけるロバの供給状況が不安定であり、ロバの配布は2018年5~10月の間に断続的に行った。

画像15

画像29

(写真)ロバを受け取った受益者


2-7.現地渡航(モニタリング)

2018年7月に現地渡航し、受益者家庭を訪問した。

いずれの家庭でも事業で推奨した野菜をフェンス内の畑に植えていた。これまでも在来野菜を植えたことはあったが、家畜の被害に遭い、思うように収穫はできなかったという。また4種類植えるのも初めてだという。

フェンスによって野菜栽培の管理をできるようになり、収入が自分の思う時期に得られるようになると期待していた。畝立てがきれいにできている受益者とそうでない受益者がおり、できていない受益者にはパートナー団体が指導を行った。

画像29

(写真)受益者と子ども、フェンス内の畑で

画像17

(写真)除草作業をする受益者


2-8.現地渡航(モニタリング・評価)

2018年10月にも現地渡航し、農業行政官事務所を訪問した。農業行政官によると、乾期には、灌漑の問題と家畜放牧による被害で野菜栽培は難しく、普通の農家であれば野菜を栽培している姿はあまり見られないというが、本事業に参加している受益者の畑はフェンスで保護されているため、野菜栽培を継続している。

本事業の良い点としては、フェンスで保護されている土地で農作業ができることと、比較的小規模な農地面積のため管理がしやすいことだと教えてくれた。

また受益者の家庭訪問も行った。どの受益者も本事業より前にも野菜栽培を試みているが、家畜に野菜を食べられてしまう被害を受けていた。

本事業の野菜栽培で得た収入は、子どもの学用品の購入に充てている他、野菜以外の栄養を摂るために、小魚などを買ったという。受益者の1人は、事業に参加するまではこれといった生業を持っていなかったため、子どもたちを就学させるのに苦労していた。本事業に参加し、野菜栽培で収入をあげられるようになり、教育費に使ったり、子どもたちに十分な食事を食べさせたりできるようになったという。

そのことが彼女の自信につながっており、教育費の滞納は無くなり、将来のことを考えて貯蓄も始めている。そればかりか、事業で学んだ野菜栽培の方法を近所の人にも教えているという。彼女は事業によって生活が変わったと信じている。

画像18

(写真)菜園の前に立つ受益者とパートナー団体スタッフ

画像19

(写真)苗木を受け取る受益者


3.活動の成果

活動の成果を確認するために、受益者と共同で行った事業評価ワークショップと、受益者へのインタビューの集計結果の両方を用いる。

受益者と事業評価ワークショップを行った意図は、事業内容や成果について受益者自身が認識し、また農業技術について再確認する機会を提供することである。

インタビューは受益者を対象に、事業開始時点の2018年4~5月と終了後の2019年1~2月に行い、結果を集計した。また一部のデータは、同じ受益者に対して行ったカウンセリング事業のデータも使用した。これは、受益者の負担を減らすために、同様の質問を何度もすることを回避するためである。

インタビューとデータ入力は現地パートナー団体によって行われ、集計はPLASが行った。受益者25名のうち、いずれのインタビューにも参加できた22名を集計・分析の対象とした。


3-1. 基本属性(インタビュー結果)

・平均年齢45.6±3.85
・女性22名(22家庭)
・養育する子どもの人数平均4.0±0.72 (合計88名)


3-2. 事業の目的に対する受益者の認識

【事業評価ワークショップの結果から】
受益者と行った事業評価のワークショップでは、事業の目的や方法を確認した。まず、事業の目的について参加者に問いかけると、「十分な食糧を確保すること」「野菜栽培による収入を得ること」「栄養改善すること」「農業スキル・知識が向上すること」「生活向上すること」という回答が得られ、計画していたことがカバーされていた。

次に、事業の中で、栽培するよう推進したものは何か聞くと、「Apoth、Boo、Osuga、Dek」といった在来野菜、「Sweet potato、Cassava」といったイモ類、「Fruits tree」といった樹木が挙がった。

「事業の良い点や他の農業活動と異なる点」について聞くと、「農業知識が向上した、特に輪作、混作、農薬を使わない病害虫対策」、「混作をしている」、「畝立てや区画取りを行っている(水やりや収穫時に畑の中を行き来するのが楽、水を節約できる、野菜を種類ごとに分けて植えることができる)」といった農業技術について、「農業用フェンスをしているため、家畜が入ってこない。」「野菜泥棒も入ってこられない。」「いつでも何かしら緑(みどり)がある(フェンスがなければ乾期には野菜を植えないか植えても家畜に食べられてしまう)。」といった農業用フェンスの機能、「畑に樹木も植えている」「樹木により土壌流出が防げる」「樹木の葉が土壌の養分になる」といった樹木の効用が挙げられた。

「在来野菜はなぜ推奨したのか?何が良いところか?」と尋ねると、「病害虫に強い」「乾燥に強い」「栄養価が高い」と重要な点を回答した。「化学農薬や化学肥料を与えなくてよいので、コストが安い」という回答は得られなかったため、説明を加えた。またイモ類についても同様の意味合いがあることも説明した。樹木についても聞くと、「水分を土中に保つ」「葉が落ちて土壌の栄養になる」「防風」「土壌流出の防止」「日陰を作る、日陰による蒸発の緩和」といった意見が出て、事業で学んでほしいことがカバーされていた。

以上から、受益者は事業を単に「在来野菜を植える」だけの活動として捉えているのではなく、目的やデザイン(活動内容や良い点)について深く理解していることが確認された。


3-3. 農業技術

【インタビュー結果から】
農業技術については、研修内容に沿った8つの項目(土づくり、畝立て、苗床、マルチング、水やり、病害虫対策、除草、輪作)について、十分な能力があるかを尋ねた(分からない、十分でない、十分な能力がある、優れている、の4件法)。

「優れている」「十分な能力がある」と回答した受益者は、開始時点と比べて、終了時点で増加していた(図1)。また事業開始時点では、「優れている」と回答した受益者は、どの項目でも見られなかったが、終了後のインタビューでは、受益者の約半数が、それぞれの項目で「優れている」と回答した。

スクリーンショット 2020-01-08 13.38.05

図1:自分の農業技術が「優れている」「十分な能力がある」と回答した受益者の割合(前後比較)

【事業評価ワークショップの結果から】
事業の目的として挙げた「農業知識や技術の向上」について、具体的な成果を尋ねると、「以前にDekを植えたことがありそのときは害虫の被害に遭ったがどのように対処すればよいか知らなかった。事業で研修を受けて、灰と水をまぜて植物にふりかけることで害虫を処理できることが分かった。」、「牛糞から堆肥を作りそれを土壌の肥料にしている。これまで試したことがなかった。」、「樹木によって土壌流出を防げることが分かり、水の流れに対して苗木を植えた。」、「種まきのときに種を、間隔をあけて蒔くことで、より収穫量をあげることが期待できる。」と、研修で学んだ技術をいかして実際の農作業に実践している様子が報告された。目的に対する達成度をパーセントで聞くと、達成度0%が0人、30%が3人、70%が28人、100%は1人だった。

またワークショップでは、「畝立て・区画どり」「たい肥作り」「播種・苗床」「マルチング」「水やり」「化学薬品に頼らない病害虫対策」の農業技術について、小グループで復習をした。グループごとに発表を行い、農業局行政官を交えて質疑応答をした。受益者によるグループワークや発表の姿を見て、受益者が農業技術の知識を得ていることが分かった。

以上から、これまで知らなかった農業技術について研修を通して学び、研修で得た知識を用いた日々の農業活動に活用し、その積み重ねにより、農業技術が受益者の自信につながっていることが確認された。

画像29

(写真)学んだことを整理する受益者

画像29

(写真)整理したことを発表する受益者


3-4.農業活動・植樹活動

農業活動は、事業終了後のタイミングで、昨年の雨期(2017年8~10月)、その後(2018年3~5月)、直近の雨期(2018年8~10月)の3回の時期に、どのような野菜・作物を栽培し、どの程度の収益があったかを尋ねた。

事業で推奨した在来野菜(Boo、Apoth、Osuga、Dekの4種と、Mitoは推奨していなかったが在来野菜の一つ)を栽培する受益者の割合は増加し、在来野菜の栽培が普及されたことが確認された(図2)。

栽培する野菜や作物の種類は、昨年の雨期では平均4.7種類だったのが、直近の雨期では6.1種類に増加しており、より多様な種類の野菜や作物を植えるようになったことが確認された。

また、樹木の栽培については、フェンス内、フェンス外で、苗木を植えたかを尋ねた。

フェンス内では、事業で提供したCasia semia(タガヤサン、燃材や土壌の養分となる)、Gravillea(シルキーオーク、木材として利用できる)、Papaw(パパイヤ)は全ての家庭で植えられていた。

フェンス外でも、各受益者が自分で苗木を購入し、少なくとも1種類の樹木の苗木を植えていることが分かった(平均2.7種類の樹木の苗木を植えていた)。フェンス外に植えた苗木は、Gravillea(82%)、Papaw(45%)、Casia semia(36%)と事業で推奨した樹種の他、Neem(23%)などを植えていた。事業内での植樹活動だけでなく、その効用を理解し、それぞれの受益者がフェンス外でも独自に植樹活動をしていることが分かった。

以上から、事業で推奨した野菜や樹木を植えているだけでなく、植える植物の多様性も改善傾向にあることが確認された。さらに事業の範囲を超えて、自分たちで工夫して野菜や樹木を植えている姿が浮かびあがった。

スクリーンショット 2020-01-08 13.41.38

図2:野菜・作物を栽培するメンバーの割合


3-5.食糧確保と栄養摂取

【インタビュー結果から】
食物摂取の状況は、食物分類別で見ると、豆類、乳製品、肉類、魚類、油、果物、野菜(自給)、他作物(自給)で増加し(特に野菜(自給)は22.73%から54.55%に倍増)、砂糖・蜂蜜、野菜(市場)で減少した。それ以外は、微増・微減だった(図3)。

食物摂取の種類(バラエティー)では、開始時には平均4.86種類だったのが、終了後には5.91種類に増加しており、バラエティーが改善された。

食糧不足の経験得点(4問から成る過去3ヶ月にどの程度食糧不足を経験したかを測定する質問郡、20点満点で点数が高いほど、食糧不足を経験していない)では、開始時点と比較して、終了後のスコアが改善された(開始時平均9.12点、終了後13.14点)。

スクリーンショット 2020-01-08 13.43.08

図3:インタビュー前日に本人または家族の誰かが食事を摂った家庭の割合(食物分類別)

【事業評価ワークショップの結果から】
事業の目的として挙げた「食糧確保と栄養改善」について具体的な成果を尋ねると、「これまで栽培したことのなかったサツマイモや野菜類、果樹を植えた。今日はサツマイモ、明日は違う野菜というように、日によって異なる野菜を食べることができるようになった。」と、食べる野菜の種類が広がったというストーリーが話された。「畑の野菜を売って、牛肉を買うことができたので、家族で食べることができた。」と、野菜栽培の収入によって、それ以外の食品も摂取できるようになったというストーリーが聞かれた。「私の家庭は農業用フェンスの建設が遅かったので、まだ始めたばかりである。」という声も得た。「その日は家にある食糧の在庫が無かったが、畑で野菜を収穫して食べたので、空腹のまま寝ることにはならなかった。」といったストーリーも聞くことができた。

目的に対する達成度をパーセントで聞くと、達成度0%という人は0人、30%が20人、70%が12人、100%は0人だった。ワークショップの開催時期が乾期であり(2018年の2回目の雨期の時期がズレて、本来8~10月に降る雨が降っていなかった)、野菜栽培や収穫に影響していることも考慮されるが、活動としてまだ参加者が期待したような大きな成果には結びついていないと考えている人がいることが分かった。

以上から、食糧確保については野菜栽培それ自体と、収穫物の一部を販売し、他の食糧を購入したことで、改善傾向にあり、食糧不足の経験も減ってきている。まだ受益者の期待したレベルまでの成果をあげていないが、菜園活動を繰り返し、樹木が生長することで、更なる成果が出ることが予想され、引き続きのモニタリングが必要である。


3-6.収入

収入については、同じ受益者に対して行ったカウンセリング事業で取ったベースライン(2017年11月)、エンドライン(2018年8月、本事業も開始されており農業活動も始まっている)と、本事業の終了後(2019年1~2月)のインタビューを比較した。

農業収入は年間収入を12ヶ月で割って月収として算出した。2017年11月では農業収入を得ている家庭は6家庭のみであったが、事業が開始し、2018年8月には20家庭、2019年2月では21家庭まで増加した。

月収総額、また農業収入額では、2018年8月が一番高く(総額4,222.3シリング=約4,640円、農業収入1,077シリング=約1,180円)、2019年2月では微減した(総額3,375.8シリング=約3,710円、農業収入660シリング=約720円)(図4)。

これは、2018年8月の収穫期の前の雨期(3~5月)の雨量が2回目の雨期(8~10月)より多く、それが収穫と収入に影響したと考えられる。また幼稚園教員をしていた受益者1名が教員でなくなったため、比較的高額の収入が減ったことが「それ以外」の収入の平均値の減少に影響した。

スクリーンショット 2020-01-08 13.51.12

図4:月収(農業収入とそれ以外の収入)の推移


3-7.シングルマザーの心理状態

事業によるシングルマザーの心理面への影響については、自己効力感、労働によるストレスによって評価した。

こちらは、同じ受益者に対して行ったカウンセリング事業で取ったベースライン(2017年11月)、エンドライン(2018年8月)と、本事業の終了後(2019年1~2月)のインタビューを比較した。

自己効力感得点(7問から成る自己効力感を測定する質問郡、35点満点で点数が高いほど、自己効力感が高い)では開始時点と比較して、終了時点のスコアが改善された(2017年11月平均22.50点、2018年8月平均27.44点、2019年2月平均30.44点、図5)。

同様に、ストレス得点(12問から成るストレスや満足度を測定する質問郡、60点満点で点数が低いほど、ストレスが少ない)でも改善が見られた(2017年11月平均35.05点、2018年8月平均33.24点、2019年2月平均28.75点、図5)。

カウンセリング事業終了後もいずれの得点でも改善傾向にあることから、本事業による野菜栽培の技術と収穫や消費により、自己効力感が向上し、またストレスは軽減された。

スクリーンショット 2020-01-08 13.52.37

図5:自己効力感とストレス得点の推移


3-8.貯蓄・学費支払い

貯蓄額もカウンセリング事業のベースライン(2017年11月)、エンドライン(2018年8月)と、本事業の終了後(2019年1~2月)のインタビューを比較した。

本事業の終了後のインタビューでは、全ての受益者が貯蓄をしていた。平均貯蓄額、平均借金額ともに、カウンセリング事業終了時と比べ、本事業の終了後では減額していた(図6)。

貯蓄額の減少については、12月のクリスマス時期の出費や借金返済、学費支払いに充てられたと予想される。

学費支払いについて、ケニアでは延滞することがあり、子どもの学費支払いを延滞したかを尋ねた。カウンセリング事業終了時では、延滞の無い者が40.9%、遅れたが払った者が59.1%、滞納した者は0%だった。本事業終了後も同様の結果で、学費支払い状況は維持された。

以上から、貯蓄額は減少してしまったが、子どもの学費支払いには影響していないことから、収入が少ない時でも学費や食糧購入などの家庭で必要なものには支出をしていると考えられる。

スクリーンショット 2020-01-08 13.54.13

図6:貯蓄額と借金額の推移


3-9.総合評価

以上の結果を総合的にみると、事業によって受益者は技術を身につけ、農業用フェンスの支援を受けることで、在来野菜の栽培活動を開始した。

フェンスをして一定の範囲に畑を絞ることで、管理しやすく、家畜などから野菜を守ることができる。またそのために、樹木の苗木を植えたり、乾期でも少ない量ではあるが野菜を収穫したりできるようになった。

野菜の収穫からは、自家消費だけでなく販売収入を得ることができ、その収入で食糧や学用品を購入していた。

事業によって受益者の生活に一定の変化を起こしており、成果をあげていることが確認された。収穫については、まだ期待したレベルまでは到達しておらず、更なるフォローアップが必要である。

データの制限
・インタビュー時期が、農業活動では2018年5月と2019年2月、またそれ以外では2017年11月、2018年8月、2019年2月と、異なる月に実施したため、農業・家計・教育費支払いの状況に影響を与える環境や外部要因の条件が異なっていると考えられる。
・インタビュー質問に対するメンバーの自己申告を回答とし、申告状況を確証することをしていない。


終わりに

いかがでしたでしょうか。

普段、PLASが発信しているアフリカレポートは、なるべくわかりやすく、ご支援くださるみなさんに活動の様子をお伝えできるよう、写真やエピソードをいれて書いています。

今回は、玄人向けに、活動のニーズから実施、評価までを、一部は社内で使っている言葉をそのままに掲載しました。

国際協力の世界で活動したい、働きたいと思っている方、すでに働かれている方などに少しでもお役立ていただけたらと思います。

そして、現在PLASではこのレポートにあるような地道な活動を一緒に展開してくれる仲間を募集しています。PLASの海外事業のアシスタントマネージャーに関心がある方は、ぜひこちらの募集ページをご覧ください!


また、支援をご検討の方、寄付で応援したいと思ってくださった方は、マンスリーサポーター募集キャンペーンについて、ぜひご覧いただきたいです。現在プラスでは「2020年、アフリカのママと子ども1000人の未来を支えたい」と題して、50名の方にサポーターとして仲間入りしていただくことを目標に、サポーター募集キャンペーンを実施中です。


いただいたご支援(サポート)は、PLASの活動を通じてケニアとウガンダのエイズ孤児支援のために使わせていただきます。