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『ONODA 一万夜を越えて』 2021年10月13日(水)

『ONODA 一万夜を越えて』を観た。
174分という上映時間に少し構えていたが、結論から言うと没入感があって短く感じるほどだった。

(ネタバレあり)

小野田寛郎の物語は、日本敗戦を知りながらも長くフィリピンの島に残り続けて、日本の冒険家が小野田さんを探し出して説得して日本に戻した、という概略だけは以前NHK BSプレミアムでやっていたその冒険家のドキュメンタリーを見て知っていた。
(確かそのドキュメンタリーでは冒険家は雪男も探していた)
映画では冒険家を仲野大賀が演じている。

小野田寛郎の狂気の一面をこの映画は炙り出していて、しかもそれがフランス人監督の手によるものであるということに驚く。はたしてこの映画がフランスの人々の琴線に触れるのかわからないが、キャストがほぼ日本人、日本語で演技しているのを映画化しようと思うところがとにかくすごいと思ってしまった。

劣勢のルバング島に小野田がやってきて、部隊はゲリラ戦でバラバラとなっていき、やがて共に行動するのは4人となる。
そのうちの一番若い、井之脇海演じる赤津は仲の良かった島田が亡くなり二度目の脱走(一度脱走している)を図り、後のシーンで小野田らを探しにくる。映画では省略して描かれているが、おそらく保護されて日本に無事に帰還できたから探しに来たのだろう。
つまり、赤津は生存しているわけである。

小野田寛郎は日本に帰ってから大きく報道されることになるだが(この映画では描かれていない)、赤津の帰国は当時報道されなかったのだろうか。
赤津のような戦争に駆り出され、敗戦後も苦労して命辛々に日本に帰ってきた人は多くいたのは想像できるので、もしかするとその他大勢のような扱いになったのかもしれない。
年齢的に今も存命かどうか微妙なところだろうが、赤津の話を聞いてみたい。
彼は日本に帰ってからどのように生きたのだろうか。映画を観ていてそう思った。

小野田がルバング島を去るときの津田寛治の顔がとても印象に残る。3時間近く観てきているため、もう小野田寛郎にしか見えないのだ。
それと雨のシーンが多く、じとっとした熱帯性の雨季が小野田らの心象のように描かれている。
また、途中日本が敗戦したことを知りながら、それは何かの陰謀ではないかとこじつけて解釈しようとする姿は滑稽でありながらも現代性があり興味深かった。まんま今じゃないかとさえ思えてしまった。

多くの説明が無いため、人によってさまざまな思いをこの映画を観て感じるだろう。フランス人監督の狙いはそこにあるのかもしれず、そうであるならば見事にはまったことになる。

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