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ガザの現実を見なかったことにはできない~8年前に出会った方々の無事を祈って~

ガザ地区とイスラエルに暮らす数え切れないほど大勢の子どもたちの命が奪われる未曾有の人道的危機が起こっているなか、以前に同地で出会った人々の無事を祈る日々が続いています。

今から約8年前の2015年2月。当時関わっていた団体の活動でパレスチナのガザ地区に入域し、前年の2014年に起きたイスラエルによる大規模軍事侵攻後の支援活動に携わりました。滞在したこの1カ月間は、私の人生において生涯忘れることのできない日々となりました。

攻撃と隣り合わせ ガザ地区の「日常」

ガザ地区にて(2015年)

ガザ地区と聞くと、皆さんは何を想像するでしょうか。衝突が起きたときにしか報道されないこともあり、紛争地のイメージが日本では根強いかと思います。しかし、当たり前ですがそのような場所でも私たちと同じような日常が営まれています。おしゃれなカフェや衣料品店、土産物屋などもあり、初めて街中を歩いた際には「想像よりも色鮮やかなところだ」との印象を受けました。

そこだけ切り取ると、他の国や地域と何ら変わりないと錯覚しがちですが、やはり大きく異なるのは、いつでも攻撃と隣りあわせということと、子どもも若者も大人も、多くの方々がこれまでの紛争により心に大きな傷を負っているということです。

「戦闘員になるのが僕の夢」

ガザ地区に滞在中、イブラヒムという名の幼い男の子に出会いました。2014年の軍事侵攻により、彼が通っていた幼稚園は空爆によって破壊されてしまいました。一緒にこの幼稚園を訪ねた際、イブラヒムががれきのなかに埋もれたおもちゃや絵本を一つひとつ拾い上げていく姿を目にしました。

がれきのなかからおもちゃや絵本を拾うイブラヒム

おもちゃを見つけた彼の嬉しそうな表情だけを見れば、微笑ましい瞬間です。しかし、その表情の背景には、がれきと化した幼稚園が無残な姿をさらしていました。あまりに対照的過ぎて、何とも言えない気持ちになったのを覚えています。

その後、イブラヒムのご家庭にお邪魔した帰りがけに皆で外に出ると、突然イブラヒムが落ちていたパイプを手に取り、バンバン!と言いながら一人で遊び始めました。その様子を微笑ましく見ていたときに、お父さんが私にこう言ってきました。

「息子は今、兵隊の真似をしているんだよ。彼の夢は、戦闘員になってイスラエル兵と戦うことなんだ」。
そう言うお父さんの顔はどことなく嬉しそうで、息子のことを誇らしく思っているようでした。

小さい子の夢が、兵士になり、戦うこと。

「戦闘員になることが夢」だと語ったイブラヒム

それまで子どもの夢は、明るいポジティブなものであると思っていた私にとって、かなりショッキングな言葉でした。

紛争が、市井の人々、幼い子どもにまで復讐心や憎しみを芽生えさせている現実。それまで人が持つそうした感情に触れる機会があまりなかった私は、大きな憎しみの渦に飲み込まれそうな気持ちになったことを覚えています。

憎悪が憎悪を生み出す悪循環。どうやったらこれを断ち切れるのか。あまりにもこの悪循環が巨大で、途方もなさすぎて、無力感を覚えました。

別のご家庭で会った子どもたちは、2014年に起こった軍事侵攻以降、少し風が強く吹いて窓ガラスが揺れただけで、泣き出してしまうようになったそうです。爆撃によって窓ガラスが揺れたことが忘れられず、そのときの恐怖を思い出してしまうと。

私含め多くの人々が「今日は風が強いんだな」程度に思う、窓ガラスの揺れ。しかしガザには、それを爆撃によるものだと真っ先に思ってしまう幼い子どもたちがいるのです。

見て見ぬふりはできない

これまで多くの方から「ガザに行ってみてどうだった?」という質問をいただきました。私はそのたびに、「現実を見てしまった、知ってしまった、と思っている」と答えています。

2023年10月7日以降、私が過ごしたガザ地区の様子が毎日テレビで映し出され、心を痛めています。滞在中に訪れた地域の名前を耳にするたびに、そこで出会った方々の顔が鮮明に思い浮かびます。目を背けられない現実がそこにあり、過酷な環境で日々の生活を送っている方々がいます。
私のなかの価値観や考え、ありとあらゆるものが、ガラガラと音を立てて崩れていくような感覚になりました。

見てしまったからには、知ってしまったからには、見て見ぬふりはできません。
私にできるやり方で、これからもずっとこの問題に関わっていこうと思っています。
どうか、ガザにおける完全な停戦が一日も早く実現しますように。
ガザに暮らす人々、ガザでお世話になった方々、ガザに住む友人たちが無事でありますように。
あのとき出会った子どもたちが無事でありますように。
イスラエルの方々が無事でありますように。
そして、支援に関わる方々の活動が安全に守られますように。

プラン・インターナショナル マーケティング・コミュニケーション部 稲井あずさ

「ガザ・中東人道危機緊急支援」