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【スタートアップ4社のデザイン座談会】事業を強くするために必要な、事業外のデザインとは?

スタートアップ企業で語られるデザインの取り組みと言えば、主にサービスやプロダクト自体のデザインが中心。一方で、そのサービスやプロダクトを生み出すための環境デザインや、伝えるためのコミュニケーションデザイン、さらには企業の力を進化させるコーポレートデザインについてはどうでしょうか?

普段は話題に上がりにくい「プロダクト以外のデザイン」の話。今回は、株式会社メルペイ 東野さんの声掛けにより、株式会社SmartHR株式会社トレタ株式会社プレイドの4社に所属するデザイナーの座談会が実現。まずは、「コーポレートデザインってどうしている?」というテーマから、ざっくばらんに話をしてみました。(以下、敬称略)

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― ブランディング?採用のため?コーポレートデザインの目的について

メルペイ 東野
7月からメルペイというメルカリの子会社に所属して、コーポレートデザインに取り組んでいます。かつてはグリーでコーポレートサイトからブランドグッズ、名刺を作ったりしていました。それをなぞるのもやり方としては1つだと思いつつ、別のアプローチができないかと思っていました。その時に、コーポレートブランディングって具体的に何をデザインするものなのかが、ぱっと思い浮かばなかったんです。それで本日は、それぞれの会社のデザイン範囲なども聞きつつ、ざっくばらんに「コーポレートブランディングとはこういうもの」という、それぞれの捉え方を話せればいいなと思っています。

プレイド 鈴木
コーポレートブランディングというと定義が難しいのですが、「何を目的にやるか?」というところが分かると、具体的な話ができそうですね。コーポレートブランディングと言っても、採用に寄与する取り組みを指すのか、企業名がサービス名のような会社であれば新しい顧客獲得のためのマーケティング目的なのか、または従業員の満足度を高めるようなバックオフィスや総務の仕事の領域なのか。

メルペイ 東野
たしかに、目的ありきですね。誰に向けてやるか、何のためにやるのか。それで言うと、メルペイは会社ができたばかりなので、まず、コーポレートミッションやバリューなどをブレイクダウンして、目に見える形で社員に向けて発信していくことが必要なのかも。そのためには、アウトプットベースで目的に沿っているかの確認を積み重ねるほうが浸透度が高そうだと思っています。

↑メルペイ社の最初のコーポレートグッズとして作られた落雁

トレタ 伊瀬
コーポレートイメージ部分で言えば、トレタは社会意義が表からも中からも見えにくくなっている状況だと入社当時感じていて。根本には、「飲食業界の労働環境を改善する」というミッションがあったのですが、プロダクト機能訴求が前に出て来たことで、そのミッションが表に見えづらくなったと思っています。社員数も130人くらいになってきたので、ミッションを見えるようにしてあげないと頑張りづらくなるかもしれないなと。最近では、BtoCのサービスも出ているので、より「何のためにやるか」を理解することが大事。今まではプロダクトの個々の機能を伝えることが中心でしたが、そのプロダクト含めたサービス全体をどう伝えるかという点を強化するフェーズだと感じています。

SmartHR 渡邉
SmartHRはサービスをローンチしてからまだ日が浅いので、CI・VIを細かく設計するようなブランディングではなく、できたものがすべてブランディングにつながっているような印象です。ただ、まだ表層化はしていませんが、インナーブランディングに関しては、トレタさんと同じような課題は生まれそうな気がしますね。最近、自社主催のイベントで、今後新領域に取り組んでいくことを外に向けて発信しましたが、社内メンバー全員が同じような認識で捉えることができているのだろうか、と感じる場面がありました。そうなると、「新領域への取り組みってどんな世界観なのか?」みたいなことを、視覚化して共有するなど、方法は限りませんが、精度高く認識を揃えるために何かできないだろうか、と感じました。

トレタ 伊瀬
ちなみに、プレイドさんの「データによって人の価値を最大化する」というメッセージは、いつ生まれたんですか?

プレイド 鈴木
コーポレートサイトを作り直すタイミングで明文化されたものです。始まりは会社からで、「採用、社内、投資家向けに、今のサイトだと役割を果たしきれないので変えたい」というお題がありました。その段階では、ミッション、ビジョン、バリューが言語化されていなかったので、それを受けて考えていきました。まずは、全社員向けに、「この会社らしさはどういうところか?」とヒアリングするアンケートを出して。会社らしさを考える材料を集め、経営層に渡すような形で、言語化してもらうところに力点を置いていました。

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― 社内で、デザインのキャッチボールをどうやるか

トレタ 伊瀬
私がトレタに入社した時はもともとあったミッションやバリューを今一度見直そうとしていたタイミングでした。 

トレタ 山田
その頃はちょうど、それまで人数やプロダクトが少なかったので、代表の中村の指し示す方向性をみんな認識して反映できていたものが、人数もプロダクトも増えてきて今まで通りでは上手くいかないと気づいたタイミングで試行錯誤していたんですよね。
優秀な人はそれぞれ意見を持って自走するので、大枠で会社としてのコンセプトを維持する難易度も上がります。
最初のアプローチとしてキーワードを掲げて方向を指し示すという方法を取ったのですが、綺麗な言葉でまとまったキーワードは日常の中に浸透しにくかったという印象を受けています。

プレイド 鈴木
たしかに言語化は、思考に制約がかかるみたいなところがある気がしてはいます。その場では社内で価値観が合意できたとしても、共通理解には至っていなかったり、経営層はその先の未来を見るので、時間の経過で発信するメッセージが変わっていったり。
それなら固定化するよりも、直近で重要視していることを出して、それが変わっていってもいいのかなとは感じていて。外部へのアウトプットとしては決まった言葉を出すけれど、内部では流動的に変わっていてもいいのかもしれないですね。

メルペイ 東野
共感や合意を得る点では、社内メンバーをどう巻き込むかも重要ですよね?

プレイド 鈴木
コーポレート関連のデザインを外注できないのってそこだと思います。どこまで巻き込むかも課題で、発散させて少し収束して、参加させる人を絞っていくという。ウォーターフォールで進めていこうとしても、やっぱりこうだろう、という巻き戻しみたいなことがある。それを外部の会社に依頼しようとすると手戻りが発生してしまいます。でもいいものを作りたいから、中でできると理想なんじゃないかなというのは感じたりしています。

メルペイ 東野
社内で、メッセージの情報共有やデザインのトンマナについての周知はしていますか?

SmartHR 南
社内資料は使いやすく整っていて、デザインがコントロールできている状況です。Keynoteの資料1つにしても、基本的にGoogleドライブに保存してあり、そこから使う文化が根付いています。

メルペイ 東野
デザインに関する承認フローはありますか?

SmartHR 渡邉
無いですね。その点ではデザインの細部までコントロールすることはとても難しいと思っています。他の人に渡した後は、細部までどう使ってもらっているか、を追うことは難しいので。強いて言えば色とフォントを決めて、数種類のテンプレートを用意しているだけです。展示会などの制作物で、僕らが直接触ってアウトプットするものは細部までしっかりとコントロールしたいですが。

トレタ 山田
たしかに、そもそもトンマナ揃えることは、営業の人の目的にはならないですものね。コーポレートデザインのアプローチとしては、そういった方法でコントロールしようとすること自体が間違いだと思うんですよね。そうではなくて、ストーリーを見せたり、会社の雰囲気づくりの方にベクトルをもっていく。トレタの場合は、伝えるというキャッチボールの方法に、言葉というものがあっていなかったんだろうと思っていて。例えば雰囲気を伝えるんだったら、会社に来て見てもらった方がいいみたいな。受け渡しをするものを、何にするかでいろいろなことが解決できそうだと思っています。

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― 自分たちらしさのデザイン

トレタ 伊瀬
SmartHRさんのサイトを見ると、必ず3つのポイントで説明していますが、どう情報を分解して伝えるのかは決めていますか?

SmartHR 渡邉
偶然かもしれません(笑)。僕が入社したての頃は、サービスの主要機能が全て同じボリューム感で均一に紹介されていたんですが、それだと何を伝えたいのかが分からないことがありました。そういった場面では、各機能を均一に並べて見せるだけでなく、紹介全体のストーリーを作りたくなってしまいますね。

メルペイ 東野
分かりやすい伝え方はいつも試行錯誤してます。。コーポレートサイトをリニューアルしたのですが、メルカリとメルペイの関係性や、どのような事業をするのかが伝わりづらいということも背景にありました。中から見た会社のイメージと外から見た会社のイメージの違いが思ったより大きいんだなと感じました。

SmartHR 渡邉
少し前の、外注が難しいという話に戻るんですけど、ウェブの記事か知り合いの言葉かで「クライアント力が大事」という言葉に触れたことがあって。依頼する制作会社さんの優秀さも大事だけど、依頼するクライアントが丸投げだと何も伝わらないものになってしまうというもので。

今は何を押すべきなのか。会社の方針なのか、機能なのか。そういった目線をあわせるためにもクライアントの伝える力が重要なんだなと考えていました。鈴木さんは、コーポレートサイトのプロジェクトとしては外部の立場でありながら、ほぼ中で制作されていた状況かと思いますが、外から見たときと、中に入ったときの違いはありませんでしたか?

プレイド 鈴木
恐らくあったと思いますが、自分の場合は意思決定者と隣でやれたので、深掘りできたのだと思います。経営層のクライアント力が高かったのだと。

メルペイ 東野
渡邉さんは1人目のデザイナーだから、中と外から見える距離感のバランスが良さそうですね。

SmartHR 渡邉
自覚はありませんけどね(笑)。ただ、エンジニア向けの制作物を作る際に「中にいるエンジニアのこの面白さが、どう外に出したら伝わるかな?」などは、いつも考えています。例えば資料でいうと、きれいに整えたフォーマットで伝えるより、整ってはいないけれど、ぎっしりとテキストや内容が詰まったエンジニア自身の作成した資料の方が、想いが伝わるんじゃないかとか。

トレタ 山田
雰囲気をつくれるようにする。それを取り扱えるというのがクリエイティブの強みだと思います。繰り返しになりますが「キャッチボールを、どの言語でやるか」ですよね。話が飛びますが、うちのオフィスの8階に、カウンターがあったんです。それが無くなって、気づいたことがありました。

トレタ 伊瀬
そうそう。普通の会社だと、セールス、ビジネス、開発と分かれている印象があるのですが、カウンターがあったときの会社は、座ってコーヒーを飲んだりお酒を飲んだりして会話ができたと聞きました。コミュニケーションの取り方がフランクだったと思いますが、今思うと、そういったコミュニケーションを生み出すための環境づくりもブランディングの1つだったのだと思います。

トレタ 山田
形容詞で言うと「いきいき」みたいな感じがあったと思います。決して言葉で、「いきいきしていよう」と伝えたわけではないのですが、オフィスに入って、カウンターを見て皆が実感していた。それが、「自分たちらしさ」なんですね。そういった感覚をうまく取り扱っていく。言葉以外の要素で、ブランドパーソナリティみたいなものを育てていければと思っています。

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― 今回は、座談会形式ということで大きな結論は出ませんでしたが、スタートアップ企業におけるデザインの取り組みが、同じくデザインの仕事にかかわる人への小さなヒントとなれば幸いです。今後も、企業の垣根を越えたデザイナー同士の会話を届けていきますのでお楽しみに。最後に、今回の感想をいただきました。

メルペイ 東野さん
今回はお時間いただき、ありがとうございました!「コーポレートブランディングとはこういうもの」という定義が少しでもできれば良いなと思っていましたが、会社のフェーズや状況によって、必要なことがこんなに違うんだなというのが率直な感想です。コーポレートデザインについて、社内のデザイナー間でも、もっと深く、もっと話す機会を増やしていこうと思います!
SmartHR 渡邉さん
横のつながりを作らなければ..と考えていたタイミングだったため、とても貴重な機会でした。ありがとうございます。
自社のデザイナーが少なく、デザイナー同士での議論にも限りがありました。そのため、各社デザイナーが会社やサービスとどう向き合っているのか、どこに課題を感じているか、といった観点を共有し合うことが大変参考になりました。
また、鈴木さんが今回の場を、「座談会をレコーディングする試験的な場」としても活用されていたのが良いなと思いました。
試験的な場であったり、情報交換したり、つながりをつくるなど、今後もデザイナー同士のコミュニケーションの場を増やして行きたいです。
トレタ 伊瀬さん
なかなかブランド(コーポレート、インナー)の開発を内部でしているデザイナーさんとお話しする機会が無かったので大変刺激になりました。
私自身はベンチャーやスタートアップ、事業会社勤務も初なのでスピード感や課題感の持ち方なども前職のブランディング会社での感覚とだいぶ違っていて参考になりました。成功例の発表でなく、「どうしてる?」と言った半熟な状態で話ができたことも新鮮でした。もっとこう言った横のつながりを活発にしていきたいですね!
トレタ 山田さん
貴重な機会に参加させていただきありがとうございました。
クライアント力の話とか「ほんとそれ!」って思いながら、自分もそうなる場面もあるので気をつけようと思いました。
サービスや、チームのデザインに活かせそうな内容を持ち帰らせていただいたので、これから知恵として活用していきます。
また、機会があれば絶対参加したいです。
プレイド 鈴木
プロダクトが事業の基盤であるスタートアップにとって、自社のコーポレートブランディングやインターナルマーケティングに内側からコミットされている方とお話する機会がなかったため、大変刺激と学びになる時間となりました。
実験的なレコーディングのご依頼にもかかわらずご快諾いただきありがとうございました!

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