見出し画像

スカイ・クロラ

"ヘッドライトをつけると、ボンネットの先に蛾が飛んでいた。二匹。車は、二人を駐車場から連れ出す。どこからでもいい、どこへでもいい、きっと、連れ出してほしい二人だっただろう。"2001年発刊の本書はシリーズ1作目として"ここではないどこか"で繰り返し戦う永遠の子どもたちの物語。

個人的には押井守による劇場アニメ作品を先に観て『レシプロ機が空を舞う世界』というので、どこかジブリ的、非日常的楽しみを勝手に想像して【あっさり裏切られた!】そんな記憶があった事から、原作となる本書をあらためて理解のために手にとってみました。

さて、そんな本書は現実とはやや違う世界を舞台にして、永遠に生きることを宿命づけられた“キルドレ”と呼ばれる創られた子どもたちが民間軍事会社による"ショーとしての戦争”で戦闘機に乗って戦い続ける日々が、新しく着任したパイロットであるカンナミ・ユーヒチを語り部にして描かれていくのですが。

物語としては、戦況に関する説明もほとんどなく、終始淡々と展開していくてはいえ、まず本ならではの魅力と言える、各章毎の冒頭に引用されるサリンジャー の『ナイン・ストーリーズ』。著者による改行も含めて、どこか【詩的。繊細かつ乾いた文章構成】に魅力を感じました。(同じ著者による理系ミステリィの『すべてがFになる』とも、また違った印象)

また本書を読んでもう一度、劇場アニメを観てみたのですが。本作は非日常的な刺激を求める観客に意図的に『繰り返しの日常を』しかも、同監督の『ビューティフル・ドリーマー』の『祝祭的な日常』ではなく、あえて『退屈な日常』を見せることで【それでも自分なりに生きろ】というメーセッジを込めていたんだな。とようやく理解が追いつきました。(ラストの改編も、アニメの終わり方の方が本書よりスッキリ感はあります)

とにかくレシプロ機が登場する作品が好きな人、また宮台真司の『終わりなき日常を生きろ』ではありませんが、退屈で繰り返される日常を描く作品が好きな人にもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?