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トニオ・クレエゲル

"僕は二つの世界の間に介在して、そのいずれにも安住していません。だからその結果として、多少生活が厄介です。あなたがた芸術的たちは僕を俗人と称えるし、一方俗人たちは僕を逮捕しそうになる"当時28歳だった著者が1903年発刊した本書は自伝的作品に留まらず、カフカを始め多くの作家達や若者に影響を与え続けています。

個人的には主宰している読書会の課題本として、同じ著者のドイツ教養小説の名作『魔の山』をとりあげた事から、関連本として何十年ぶりに再読しました。

さて、本書では14歳の夢見る少年トニオが愛情を寄せる男の子ハンス、そして女の子インゲへの不器用な姿を描いた後、31歳と大人になり作家として成功してからも【生活と芸術は両立するものか?】と悩み彷徨う姿が描かれるわけですが。

芸術家志望の若者が感情を吐露する物語と捉えたら『ユリシーズ』で知られるジョイスの『若き芸術家の肖像』の方がまとまりがあって、より好みだと感じつつ。しかし、本書の場合は物語性より"ある人物や状況について一定の表現を繰り返す"【ライトモチーフ】でのコントロールされた【反復による描写、対句的な表現】が効果的に機能しているのが素晴らしいと思いました。(きわめつけは、親しくしている画家のリザヴェータによる『あなたはただの俗人なのよ』(CVは"ハマーン様"こと榊原良子でお願いします)に対する終わりでの手紙での返答か)

また再読して新たに気づいたのは、冒頭近くのやりとり。トニオがハンスに戯曲『ドン・カルロス』を勧めるのに対して、乗馬好きなハンスが戯曲ではなく瞬間撮影での『馬の本』について話す場面。以前は『ドン・カルロス』の方に関心を覚えましたが、美術史を勉強した今回は『馬の本』が、映画の誕生や絵画の新たな可能性を解き放つキッカケになった【マイリッジの連続写真】である事に気づき新鮮な印象を受けました。(年を重ねてからのあらためての再読というのも良いものですね。。)

不器用な青春時代を振り返りたい全ての人に、また何かしらの悩みを抱えつつ、表現活動をしている人にもオススメ。

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