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年収は『住むところ』で決まる─ 雇用とイノベーションの都市経済学

"負の連鎖にはまり込まないうちに、新しい一歩を踏み出す必要がある。もしそれに失敗すれば、その都市は瞬く間に転落し、激しい痛みを味わいかねない。"2014年に紹介された本書は、ICT産業により世界がグローバル化する中、かえってローカル生態系を都市が整備すべき必要性を教えてくれる。

個人的には刺激的なタイトルにばかり注目され、あるいは都合よく流用されて【だから(地方ではなく)収入面から東京や大都会に住むべき】と短絡的・意図的な思惑に導かれない不安も感じましたが。気鋭のイタリア人都市経済学者による本書の論点はもちろん【そんな単純化された所ではなく】デトロイトやシアトルといったアメリカの都市事例を中心に【製造産業から『5倍の乗数効果のある』イノベーション産業へ】雇用の中心が移っている事(その結果として個人の頑張り以上に環境の影響が報酬面でも優先されている事)またその上で、誘致には対面でのローカル生態系を丁寧に整備していく必要性を豊富な資料やデータを使って丁寧かつ論理的に説明してくれていて勉強になりました。

また、本書の後半では別に。文化芸術での地域活性に関わってきた自分にとっては最早定説となっていたリチャード・フロリアのクリエイティブクラスにより『町の住み心地をよくする』事で、都市の経済も活性化されるといった考えに対して(都市の魅力はさておき)ベルリンを例にして【少なくとも雇用は創出出来ていない】と指摘したり。あるいは意図的な大学誘致が大きな役割を果たしたと思われているシリコンバレーの発展についても【スター研究者による単なる偶然】と述べているのは、何事も納得する為に【結果から必然を求める】(金メダルをとった選手は昔から人一倍努力を。。『だから』など)私たちに対して冷静な警鐘を伝えてくれているようで。こちらもなかなかに刺激的でした。

まちづくりや移住、文化、雇用政策といった事に関わっている誰かに。また個人的に引っ越しを考えている誰かにもオススメ。

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