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時計じかけのオレンジ

"もし善だけしか、あるいは悪だけしか為せないのであれば、その人は時計じかけのオレンジでしかないーつまり色もよく汁気もたっぷりの果物に見えるが、実際には神か悪魔か全体主義政府にネジをまかれるぜんまいじかけのおもちゃでしかないのだ"1962年発表の本書はディストピア小説の傑作にして20世紀の英語の小説ベスト100」の1冊。

個人的にはコロナ禍の中で、世界中で全体主義的傾向が強くなっていたり、また他者をおもいやる気持ちが薄れつつあるように感じている事から本書を手にとりました。

さて、そんな本書はどこかの国、近未来の管理社会を舞台にして、不良少年というには悪逆非道すぎる15才の少年アレックスが仲間から裏切られて捕まり刑務所へ。そこで『ルドヴィコ療法』の被験者にされてしまい、以降は性行為や暴力行為に及ぼうとすると吐き気を催すほどの嫌悪感を覚え何もできなくなってしまうのですが。

まず、有名なスタンリー・キューブリック監督の映画化作品の映像的イメージが強い本書【アレックスの一人称小説としての必然】からページをぎっしりと埋め尽くす、当時盛り上がっていたモッズとロッカーズの抗争で使われていた不良少年のスラングにヒントを得たナッドサット言葉(ロシア語をもとにした造語)が読書としてはかなり人を選ぶのではないかと思います(訳者の苦労や工夫がしのばれます)

一方で、アメリカ国内で出版された時に最終章である7章が意図的に削除され、前述のスタンリー・キューブリック監督の映画化でも同様な終わり方をしていることに著者は不満があったようですが。そんないわくつきの最終章。個人的には映画以上に非道な行為を繰り返すアレックスが、21歳となって幸せな結婚生活をおくるかっての悪友と再会して【今までは若気の至りだった】的に自らの意思で更生していく姿には流石に都合が良すぎるのではないだろうか?(=映画の終わり方の方が良かったのでは?)と違和感を覚えてしまいました。

独特な世界観を持つディストピア小説好きな誰かへ。映画とはまた違う展開、ラストを知りたい人にもオススメです。

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