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深く学ぶためには、ゆっくり学ぶ必要がある【本:RANGE:知識の「幅」が最強の武器になる】

海外渡航前に、古本屋に本を売りに行こうとして、結局購入することになった本たち。その中に、RANGEという本があって、こちらは一気に読み込み、とにかくメモった一冊。

本文まとめ


知識の「幅」が最強の武器になる

ネルソン・マンデラ
ガンジー
ブッダ

1万時間の法則
意識的な練習(deliberate practice)
どんな分野であっても、専門に特化した練習の時間数がスキルの伸びを決める唯一の要因となる、という基本の考え方

意識的な練習とは、学習者に「最もよいやり方を明確に教え」、インストラクターが個別に指導して、「結果に対して、すぐに有益なフィードバックと知識を提供し」「同じこと、あるいは同じようなことを何度も繰り返す」練習方法。

世界が複雑化し競争が激しくなる中で、その世界を渡っていくためには、誰もが専門的な能力を身につけるべきだ(そして早く始めるべきだ)と言われる。

マシュー・サイド氏の本『非才!』では、イギリス政府がタイガー・ウッズのような専門化を徹底できていないと批判する。サイドは、政府の上層部の役人が、ローテーションでさまざまな部署を回らされていることを指摘。

ただ、初期にいろいろ試してみることと、多様性が重要。
ある研究は、早めに専門を絞り込んだ人は、ゆっくり専門を決めた人より大学卒業後しばらくは収入が高いが、ゆっくり専門を決めた人は、より自分のスキルや性質に合った仕事を見つけられるので、じきに遅れを取り戻すことを示していた。

遅くに専門特化すること
5つの仕事を経験したのちに、天職を見つけて世界を変えた画家
数学分野で最も名高いフィールズ賞を女性で初めて受賞したマリアム・ミルザハニは小説家になることを夢見ていた

2008年の世界金融危機のあとで明らかになった、大手銀行組織の細分化。
行き過ぎた専門特化は、各部門が最も合理的な行動を取っていたとしても、全体としては悲劇につながる恐れがある。

ある有名な科学者は、専門特化の傾向が進むにつれて、「平行溝のシステム」ができてきているという。誰もが自分の溝を深く掘り続けることに専念しており、もしかしたら、隣の溝に自分が抱えている問題の答えがあるかもしれないのに、立ち上がって隣を見ようとしない、ということだ。

私たち全員が直面する課題は、専門特化がますます推奨され、要求されることさえある世界で、どうやって幅の広さや、多様な経験や、分野横断的な思考を維持していくか。

1.早期教育に意味はあるか The Cult of the Head Start

「経験が専門的な能力につながるかどうかは、それがどんな領域かによる」
経験はチェスやポーカーのプレイヤーや、消防士の能力向上には効果があるが、金融や政界のトレンドの予測、従業員や患者の能力の予測では効果がなかった。

人間とコンピューターの強みと弱みは正反対
人間は全体像を見る戦略に集中、コンピューターは戦術を担当

経験を積んだ人が柔軟性を失っていく
よく知っているパターンに依存しがちという人間の傾向が、「意地悪」な世界で裏目に出る

カーネマン「強固な統計的規則性」ルールがわずかでも変更されると、エキスパートは柔軟性を失ってしまう

最高レベルのアカデミックな科学者は、本職意外に、本格的な趣味や副業を持っている可能性がはるかに高い

「一つの領域内で取り組む課題を大幅に多様なものにすること」

現代神経科学者サンティアゴ・ラモン・イ・カハル氏
「(趣味や副業を持っている人たちは)遠くから見ていると、エネルギーをまき散らし、浪費しているかのように見える。しかし、実際には、エネルギーを集中させ、強化している」

幅広さが、専門領域の知識からは得られない洞察を生み出す

2.「意地悪な世界」で不足する思考力 How the Wicked World Was Made

現代の若者は、彼らの祖父母の世代よりも、抽象的な言葉に関してスコアが高い。今の若者は、昔に比べて、明示されていないルールやパターンを、よりうまく探し出せる。

農民と読み書きができない地域
1931年のソ連の驚異的な変化
比較対象実験で、変化を加える実験群と比較するためにつくられた変化を加えないグループ
ルリヤというロシアの心理学者は現地の言葉を学び、仲間の心理学者も呼んで、茶店や牧草地などのリラックスした環境で、現地の人と交流した。質問を与えたり、タスクを与えたりして、村人たちの思考について知ろうとした。

現代的なものに近づいていればいるほど、抽象的な思考力は強化され、具体的な経験を思考の基準点にすることは減っていった。私たちは、「科学のメガネ」で世界を見ている。つまり、直接の経験に頼るのではなく、分類の仕組みを通じて現実を理解し、何層もの抽象的な概念を使って、情報同士の関係を理解する。私たちは分類の仕組みの世界で成長してきた。

概念化
概念化は柔軟な仕組みで、概念化によって情報やアイデアを異なる用途に活用し、異なる領域に知識を移行できるようになる。こうした「知識移転」が現代の仕事では求められる。知識を新たな状況や別の分野に適用する能力。

現代社会に触れることによって、私たちは複雑さにより順応し、それが思考の柔軟性として表れる。このことが、私たちの知的世界の幅に広い意味をもたらす。仕事に自律的な問題解決や、毎回異なる課題が伴うほど、「認知的柔軟性」が強くなる。

現代社会に少しでも関わった村人の質問は想像力に富んだ。しかし、どちらかが絶対的に優れているということはない。社会学の創始者の一人とされているアラブのイブン・ハルドゥーンは、何世紀も前に、都市の住民が砂漠を旅する時には、完全に遊牧民に頼らなければ生き延びられないといった。遊牧民は砂漠にいる限り天才だ。しかし、現在の生活で思考の「レンジ(幅)」が必要なのは真実だ。思考の幅があることによって、遠く離れた領域やアイデアが結びつく。

フリンをがっかりさせているのは、社会、特に大学教育において、こうした概念的な知識や移行可能な知識についてのトレーニングではなく、専門特化が推進されていること。

アメリカのあるトップクラスの州立大学で、神経科学から英語までさまざまな専攻の4年生を対象にGPAとクリティカルシンキングのテスト結果を比較。
経済学、社会学、物理学、論理学の基礎的な概念を、現実世界の問題に適用する力を測るもの。
社会科学の手法を理解していない。各自の専門分野について事実だけを学ぶ理科系の学生。経営学専攻の学生は、経済学も含めて全体的にひどい成績。
経済学専攻の学生は、最もよい成績。経済学は本質的に幅が広い分野で、経済学の授業では学んだ論法の原理を専門以外の問題にも活用することを教える。

計算論的思考では、複雑で大きな問題に取り組むとき、その問題を抽象化し、分解し、問題を適切に象徴することがらを選び出す

学生には、何を考えるべきかを教える前に、「考える」ことを教えなければならない。

統計分析、フェルミ推定
フェルミ推定から学べるのは、「考え方」のほうが事前に細かな知識を持つことよりも重要ということだ。わずかな知識だけを使って、自分が知らないことについて推定するというツール。この「経験なしで学ぶ」こと、新しいアイデア同士を結び付け、領域を超えて考えることができる概念的な推理能力が、急速に変化する「意地悪な」世界で求められている。これからは、一つの問題や領域の概念的な知識を、全く別の問題や領域に適用できるような人が、大きな見返りを手にするようになる

3.少なく、幅広く練習する効果
When Less of the Same Is More 

訓練の幅の広さは、応用の幅の広さにつながる。

クリエイティビティーは育てるのは難しいかもしれないが、阻むのは簡単だ。

「不思議なことに、偉大なミュージシャンの中には、独学の人や、楽譜を読めない人たちがいる。絶対的によい方法があるとは言わないが、今僕のところにはジャズを教える学校の生徒がたくさん来ていて、その生徒たちの音楽はみんな同じに聞こえる。自分の声をまだ見つけていないみたいだ。多分、独学だといろいろ実験をして、どこで同じ音が出せるかを見つけようとしたりするから、問題の解決方法を覚えるんだろうな。」

「誰かが何年も指板をいじくり回してやっと見つけたことを、僕は2分でやってみせることができるが、僕もその誰かと同じように何年もかけていろんなことを見つけてきたんだ。何が正しくて、何が間違っているのかわからないし、答えは頭の中にはない。やるべきなのは、問題の解決の仕方を見つけようとすることだ。そして、50年たってようやく、全てがつながりはじめる。すごく時間がかかるんだよ。でも、そうやって学ぶことに意味があると思う。」

4.速く学ぶか、ゆっくり学ぶか Learning, Fast and Slow

数学の成績の良い国では、「関係を認識する」問題の多くが、クラス全体の半分より少し多いくらいあり、その約半分が最後までその状態を保つ。

望ましい困難 desirable difficulty 
過剰修正効果 hypercorrection effect 
学習者の答えが間違っていて、その人がその答えに自信を持っていればいるほど、正しい答えを学ぶとそれが強く記憶に残るということだ。大きな誤りに耐えることが、最高の学習機会となる。

学習中に正しい答えを出すことは、悪いことではない。ただし、進歩があまり速すぎてはいけない。

米教育省はしっかりとした科学的な裏付けのある学習方法を選び出すよう、6人の科学者と1名の実績ある教師に依頼し、2007年に報告書を発表した。
関係を認識する問題を用いる、間隔を空ける、などいずれも短期的な成果が犠牲になる方法だ。

リンクトインなどのプラットフォームには、最新だが裏付けのない学習テクニックがたくさん掲載されている。

最良の学びの道はゆっくりとしたもので、あとで高い成果を上げるためには、今出来がよくないことが不可欠だ。

心理学者のロバート・ビヨーク「望ましい困難」
「何よりも柱となるメッセージは、学生や教員は現在の成績を学びと解釈してはいけないということだ。確かに、学習プロセスにおいてテストでよい成績を取ることは『知識の習得』を示す。しかし、学習者と教師が注意すべきは、その好成績が示すのは、束の間のはかない進歩だということだ」

今だけを見るのか、長期的に「深い学び(deep learning)」に繋がっているとみられるまで研究を広げるのか。経済学者たちは、学生の今の成績や先生に対する評価だけではなく、教員の長期的な付加価値を計る指標も見ていた。最もよい効果をもたらす教師に、学生たちは低い点を与えているが、より経験豊かで脂質が高い教師のクラスの生徒のほうが、後の「微分積分1」の授業では成績が上回った。

仕事の変化
タイピングやファイリング、工場での組み立てラインの仕事など、やり方が決まっている仕事で、中流階級の給与が得られる仕事がたくさんあった。その後徐々に、予期しなかった問題の解決が、賃金のよい仕事では求められるようになり、多くの場合、グループでそれに取り組む。このように求められる能力が変化しているため、学校への要求も厳しくなっている。

問題は、将来の学びへのインパクトを親や教師がどのくらい評価できるかだ。証拠を見る限りでは、空軍の士官候補生と同様に、あまりうまく評価できていない。目の前の進歩を見せつけられると、本能的に同じことを繰り返したほうがいい、との思いが強くなる。だが、そのフィードバックは間違っている。深く学ぶためには、ゆっくり学ぶ必要がある。

知識の構造がとても柔軟で、新しい領域や全く新しい状況にその知識を効果的に適用できるとき、そうした適用を「遠い移転(far transfer)」と呼ぶ。遠くへの移転を促す、ある特別なタイプの思考方法がある。その思考方法は幅(レンジ)の広い思考の一つで、誰も十分には活用できていない。

5.未経験のことについて考える方法
Thinking Outside Experience

問題解決について、何がわかるか
何らかの目的を達成するために大きな力が必要だが、その大きな力を直接かけることができない場合、さまざまな方法から同時に力をかけても、同じ効果をもたらす可能性がある

問題と答えが繰り返されるような「親切な世界」
経験に基づいた人間の直感

たった一つのアナロジー、特に、非常に似た状況のアナロジーを用いると、それだけでは「内的視点(inside view)」と戦えないという問題が生じる。内的視点はダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが名づけたものだ。目の前にある特定のプロジェクトの詳細だけをもとに判断を下す時に用いるのが、内的視点。
人間が自然に内的視点をとろうとする傾向は「外的視点(outside view)」によって覆すことができる。外的視点は、現在の問題とは異なるものの中に、構造的な類似性を求めて精査することができる。現在のプロジェクトの表面的な特徴は無視して、視点を外に移し、構造的に類似した事例を探す必要がある。そのためには、狭いマインドセットから、広いマインドセットに変える必要がある。

予期せぬ問題を前に、どれだけの幅(レンジ)のアナロジーを使えるかによって、どれだけ新しいことを学べるかが決まった。ダンバーのプロジェクトの期間中に、何一つ新しい発見ができなかった唯一の研究室では、全員のバックグラウンドが似ていて、非常に専門に特化しており、アナロジーは使われなかった。「研究室の全員が活用できる知識が同じである場合、みな同じような考えを持っているので、問題が生じてもアナロジーを生み出すための情報は一人分しかない」これが、ダンバーの結論だ。

早期教育や早期の専門特化がユーザーにとってひどい長期戦略であっても、それを売り込もうとする勢力が世の中にあふれている。これは問題だ。なぜなら、あらゆることの中で最も重要な知識や見聞は、ゆっくりと身につける必要があるからだ。その重要な知識とは、「そもそもあなたは何に取り組むべきなのか」「何があなたに合っているのか」だ

6.グリッドが強すぎると起こる問題
The Trouble with Too Much Grit

ローリングは20代の頃は仕事でも私生活でも大失敗ばかりしていた、と本人が語っている。失敗によって、「自由になり」、自分の才能や関心に合うことをしようと踏み出した。

1960年代後半には、その後ノーベル経済学賞を受賞するセオドア・シュルツが「経済学は、高い教育を受けた労働者ほど生産性が高いことをよく示しているが、教育のもう一つの役割を無視している」と主張した。それは、学生が教育を受けながら自分が何者でどんな仕事に合っているのかを探す間、専門特化を遅らせる役割だ。

どの国でも、どの大学の課程でも、学生は専門的な分野のスキルを学び、それを通じて選んだ分野と、自分とのマッチ・クオリティーを知ることができる。学生が早く専攻を決めれば、専門的なスキルをより多く身につけられる。反対に、いろいろな学問を試した後でゆっくり専攻を決めれば、就職する際に、専門分野の知識は少ないが自分の能力や性質に合った仕事がどうかを、よりはっきり感じられる。果たして、どちらのほうがいいのだろうか?

「マッチ・クオリティーの向上による効果は、スキル取得の遅れによるマイナス分を上回る」学問やスキルを学ぶことは、自分自身について学ぶことほど重要ではない。

自分のことをよく知るようになるにつれ、目標や興味の対象は変わり、それは私の生きる力となる仕事に出会うまで続いた。その仕事とは、関心のある事を幅広く調査することだった。

ギャラップ社の150か国2000人超の社会人調査
85%以上が、仕事に「熱心に取り組んでいない」と答えた
このような状況では、海に漂うゴミのように流されるまま仕事を続けるよりも、やめるほうがむしろエネルギーがいるという。問題は、人間が「サンクコスト(埋没コスト)の誤り」にとりつかれていることだ。つまり、何かに時間と金を費やすと、すでにその時間も金も消えてしまっているのに、それが無駄になる気がして、手放すのが嫌になるということだ。

実際の経験に応じて方向を変えるのはとでも重要だが、そのためには、自分に最適な対象を見つける確率を高める行動が必要になる。ただ、その行動は、人生の戦略としては一見よくないように思えるかもしれない。なぜなら、その行動とは「短期計画」だからだ。

7.「いろいろな自分」を試してみる
Flirting with Your Possible Selves

「非常に曲がりくねったキャリアパス」に関しては、ハーバード大学の「心と脳と教育プログラム」のディレクターであるトッド・ローズと、計算論的神経科学者のオギ・オーガスによって、幅広く研究されてきた。

彼らは、「私は遅れてしまった」とは考えず、「ここに現在の私がいて、私のモチベーションがあり、好きだと分かったことがある。ここに私が学びたいことと学ぶ機会がある。チャンスはいくつかあるけれども、現在の私に合っているのはこの中のどれだろうか。もしかしたら、1年後にはもっとよいものを見つけて、また別のことをしているかもしれない。」

オーガスの「標準化誓約(standardization convenant)」
自分を見つめて曲がりくねった道を行くのではなく、明確な目標を定めて早く始めるほうが安定を確保できるので合理的とする考え方

人間は変化する。仕事や生き方の好みは、ずっと同じではない。
喜びや安心、成功、誠実さなどの価値観も変化し、休暇や音楽、趣味などの好みは変わり、友人すら変わった。

「本当は、私は何になりたいのか」という問いに鉄壁の答えを出そうとするよりも、自分自身の研究者となって、小さな問いを立てて実験してみるほうがいいということだ。「試して学ぶ、であって、計画して実行ではない」。

AirbnbやDropboxなどを育てた、インキュベーターのYコンビネーターの共同創業者で、コンピューター科学者のポール・グレアムは、高校の卒業式に出席する生徒に向けたスピーチを書いた。

「自分が何をしたいのかは、簡単にわかる気がします。でも、本当はとても難しい。その理由の一つは、仕事の正確な姿を知るのが難しいからです。」
「アメリカ中で、「夢をあきらめるな」がテーマの典型的な卒業式のスピーチが繰り広げられます。その表現がよくない。そのスピーチでは、前もって立てた計画に拘束されることが前提になっているからです。コンピューターの世界では「早すぎる最適化」といいます。」

「先の目標から逆換算して歩き始めるのではなく、今有望な状況からスタートして、前に進んでいきましょう。」

チリの友人の「英語が上手じゃないから、と、既にオーストラリアで仕事と英語クラスに通うことを決めて、その後半年後には中国の奨学金をもらって大学へ行く計画。」を思い出した。

「計画して実行」と「行動してから学ぶ」対極モデル

8.アウトサイダーの強み The Outsider Advantage 

例:マッキンゼー
1970年代の大学院で、ビンガムと同級生は、特定の分子をつくる方法を編み出さなければならなかった。しかし、うまい方法を見つけ出す人は、決まって通常学校では習わない知識を使って考え出されているということだった。

数年後、ビンガムは製薬会社のバイスプレジデントになり、科学者が問題を抱えていた21の問題をウェブサイトに載せて、誰でも閲覧できるようにしていいか、同社の幹部に尋ねた。ウェブサイトに問題を公開すると、その問題に関わっていた科学者たちが全員、「あれは極秘情報だから、公開は認められない」と最高科学責任者に訴えた。しかしビンガムは粘る。

秘密主義の弊害

その後、弁護士からも回答が寄せられる。

大学院の教授が、官僚内の秘密保持が厳しすぎて、研究が進まないと言っていたのを思い出した。

大企業はいわゆる「ローカルサーチ」によって問題に取り組むとビンガムはいう。ローカルサーチとは、一つの領域の専門家だけを活用して、以前に成功したやり方を試そうとすることだ。

アウトプット・インの考え方
ビンガムの会社「イノセンティブ」では、さまざまな分野の企業がチャレンジをウェブサイトに掲載。さまざまな分野の解決者を引きつけられるようにチャレンジを説明すること。これまで掲載された問題の3分の1強が、完全に解決した。

専門家が情報をたくさん生み出すほど、好奇心の強い素人が、広く公開されているが分散している情報を繋ぎ合わせて貢献できる機会が増える。スワンソンはそれを「未発見の公的知識」と呼んだ。人間の知識が拡大し、それにアクセスしやすくなるほど、好奇心のあるアウトサイダーが最先端の分野で知識を結びつけるケースが増える。専門外のアウトサイダーにとってのチャンスを作り出すのは、新たな知識の拡大だけではない。最先端を目指す競争の中で、役に立つ多くの知識がすぐに忘れ去られ、朽ちていく。だが、そこから新たなチャンスが生まれる。過去を振り返ることで、前に進むことができる。古い知識を発掘し、新たなところで活用する。

9.時代遅れの技術を水平思考で生かす
lateral Thinking with Withered Technology 

「水平思考」とは、1960年代につくられた言葉で、情報を別の文脈に置き換えてイメージし直すことを意味する。任天堂の横井「枯れた技術の水平思考」と名付けたアプローチで仕事をする。枯れた技術とは、古くから存在し、よく理解され、簡単に手に入り、専門的な知識も必要ない技術を指す。安くてシンプルな技術を、これまで誰も考えつかなかった方法で使う。
意図的に最先端から身を引き、ものづくりに邁進し始めた。技術を古いほうへ遡る。

「聖書や伝記へと、時代の古いほうへ遡る」

横井は、自分のチームが大きくなる中で自らの哲学を広め、全員に古い技術の新しい利用方法を考えるように言った。

優れた物理学者で数学者のフリーマン・ダイソンは、横井と同じような考えだが、彼ならではの表現をする。「私たちには、焦点の定まったカエルと、視野の広い鳥が両方とも必要だ」。

鳥は空高く飛び、広い数学の世界を水平線まで調べる。そして、別々の場所の多様な問題を組み合わせ、考えをまとめようとする。カエルは沼地に住み、近くに育つ花だけを見る。カエルはある決まった物の細かな部分に関心を持ち、一度に一つずつ問題を解く。

世界を開拓するには、鳥とカエルが一緒に働く必要がある。ダイソンが心配するのは、科学の世界にカエルがどんどん増え、狭く限られた教育を受けるので、科学自体が変化する中でその人たちが変われなくなっていること。

情報がより広く散らばるようになったので、スペシャリストに頼らなくても、幅を広げて、ものごとを新しい方法で結びつけやすくなった。

不確実性。
私の問題解決の仕方は、物語を作るプロセスに似ている。
まず、核となる問いを考え、専門知識を持っている人にそれを質問する。
もし専門家にアクセスできないネットワークにいたら、うまくいかないと思う。

ユタ大学教授のアビー・グリフィンは2人の共同研究者と共に、シリアルイノベーター(何度も連続してイノベーションを起こす人)を研究し、特徴を洗い出した。
・不確実性への耐性
・システム思考
・類似の領域をうまく活用して、イノベーション・プロセスの材料となるものを見つける
・隣接する分野についての技術的な知識
・今入手できるものの使い道を変えて使う
・バラバラの情報を新たなやり方で結びつける
・さまざまな情報減から情報をまとめる
・複数のアイデアを次から次へ飛び回る
・興味の幅が広い
・複数の領域にまたがって、学ぶ必要を感じる
・自分の領域意外の専門知識を持つ多様な人々と、コミュニケーションをとる必要を感じる
・他の技術についてより多く(また、より幅広く)読み、専門外のことに幅広く関心を持つ

「幅広い興味を持っているかを探ろう。仕事とは、直接関連しない技能や趣味を複数持っているか。自分の仕事について話す時、他の領域との境界や接点にフォーカスする傾向があるかどうかを見よう。」

10.スペシャリストがはまる罠
Fooled by Expertise

多くの専門家は、たとえ間違った結果を前にしても、自分の判断に本質的な欠陥があるとは決して認めない。一方で、予測が当たったら、それは完全に自分の実力であり、専門的な能力によって、世界を解明できたという。

優れたチームのやり方の特徴は、心理学者のジョナサン・バロンが「積極的なオープンマインド(active open-mindedness)」と呼ぶもの。
彼らはチームメイトを納得させようとするのではなく、チームメイトが自分の考えの誤りを指摘してくれるように促す。人間にとって、これは普通のことではない。自分の考えが間違っている理由をネットで探そうとはしない。
イエール大学教授で、法律と心理学が専門のダン・カハンは、政治的に意見が分かれる科学の問題では、科学的な教養のある成人のほうが独断的になることを示した。カハンはその理由として、彼らが自分の考えの裏付けになる証拠を見つけるのがうまいからだと考える。

自分の信念を上手くアップデートできる人は、よい判断ができる。
その人たちは、賭けをして負けたら、勝った時に信念を強化するのと同じように、負けたロジックを受け入れ修正する。

「学習」だ。学習では、経験をすべて脇に置かなければならない場合もある。

11.慣れ親しんだ「ツール」を捨てる
Learninig to Drop Your Familiar Tools

人事部マネージャーの実験では、標準の手法(それが何であれ)と、それとは反対のやり方を促進する力のバランスをとる組織文化が、問題解決に強いことが示された。もし、マネージャーが標準のプロセスに従うことに慣れているのであれば、自主性を持つよう促すことで「両手利きの思考」が生まれ、それぞれの状況で何が効果的なのかを学習できるようになる。反対に、マネージャーたちが即興的な動きに慣れているのなら、忠誠と団結を促せば、同様の結果が得られる。ここで鍵となるのは、まず中心的な組織文化を認識し、続いて反対方向で文化を多様化し、組織のレンジを広げることだ。

チャレンジャー号の打ち上げの決定では、NASAの「なせばなる」文化が、極端なプロセス順守という形で、集団主義的な規範と組み合わさって現れた。プロセスが非常に硬直化していたため、いつもの決まりに合わない証拠は拒絶された。データが無ければ「上司の意見が常に自分の意見より優れている」ということだ

健全なエコシステムには、生物の多様性が必要だ。

12.意識してアマチュアになる
Deliberate Amateurs 

現代を生きる人々を満足させることよりも、未来を生きる人々に可能性を与えられることに興味がある。そのひとつの手段として「教育」が挙げられると思うけれど、今の教育現場では、本当に助けたい人を助けられない気がするし、そもそも教えることに魅力を感じないし、自分自身が教育現場(小中高)に良い思い出が無いので、そこに自分が身を置くことは幸せではないな。と。

12.意識してアマチュアになる
Deliberate Amateurs 

枯れた技術:4世紀頃に錬金術師が書いた、製法
を利用して、中国の女性としてはどの分野でも初めての受賞だったノーベル生理学・医学賞受賞者:ト・ユウユウ氏

バイク事故で、偶然近くにいたベトナム人に差し出された中国語が書かれた消毒液のようなものを思い出した。それは、シンガポール産となっており、今でもあの時の鮮明な記憶が思い出される。悪いことだけではなかった・

カサデバール氏「医学や基礎科学の教育で、私たちは学生に知識を詰め込んでいる。しかし、それらの分野で必要なのは、ある程度の背景知識と、思考のためのツールではないかと思う。(現在は)すべてが間違ったやり方で構成されている」

「中世にヨーロッパでギルドが台頭してきたのは、職人や商人が専門的なスキルや仕事を維持し守るためだった。そうしたギルドでは、長年の見習い期間でその仕事を習得させ、非常に専門的で訓練された人材を生み出した。しかし、ギルドは保守主義を助長し、イノベーションを抑えた」


著者あとがき

自分にとって最適な場所にたどり着きたいなら、実験の旅に出なければならない。

私が探究しようと決めた問いは

「超専門特化がますます求められ、また自分が本当にやりたいことがわからないうちに何になるかを決めなければいけない中で、幅(レンジ)や多様な経験や領域横断的な探究を、どうやって実現するのか」ということ。

「遅れを取ったと思わないこと」
自分を誰かと比べるなら、自分より若い他人ではなく、自分自身と比べよう。成長のスピードは人それぞれである。あなたは恐らく、自分がどこに行こうとしているのか、まだわかっていないのだろう。だから、後れを取ったと思っても、何の助けにもならない。その代わりに「実験」を計画しよう。たとえば、あなた流の「土曜の朝の実験」だ。

あなただけのプロジェクトに取り組もう。
その過程では、意欲を持って学び、道を進む中で順応して、時にはそれまでの目標を捨てる。完全に方向を変えることにも躊躇しない。

解説

社会からの大学への要請は多岐にわたる一方で、国の厳しい財政状況を反映して、研究費の獲得競争は厳しさを増している。研究とは直接関係のない大学運営、入試、そして研究費の会計処理のための膨大な書類作成に時間を奪われ、本来の仕事であるはずの研究や教育に充てられる時間を捻出するのに四苦八苦している研究者は多い。

外資企業
誰よりも、まず社員を守る。出戻りもOK。
カルチャーがとにかく大事。

経済学や心理学、脳科学など様々な学問領域の研究を紐解く。
大学の研究者のみならず、行政や企業にも役立つだろう。また、専門の選択や転職など今後のキャリア形成に悩む学生やビジネスパーソン、子育て中の親や生徒・児童指導にあたる学校や塾の教員にも有用と思われる。

質の高い幼児教育は「寄り道」「試行錯誤」を推奨
一見、効率的に見える人的資本への投資は、実は非効率であり、遠回りになっている可能性を指摘している。

一方、近年の有力な経済学の研究には、幼児教育の投資対効果が高いことを示すものがある。ただ、そのあとに続く様々な研究は、貧困世帯の子どもに質の高い幼児教育を受けさせた場合、学力テストなどで計測できる認知能力に与えるプラスの効果は小学校入学後に消滅するが、自制心、意欲、忍耐力といった非認知能力へのプラスの影響は長期にわたって持続することが明らかにしたものが多い。

著者は、早期の専門特化に焦点を当てて述べている。

マラマッドの論文は、1980年にイギリスの大学を卒業した約2000人のデータを用いて、大学における専攻の決定時期が就職後の賃金や転職に与える効果を推定。

慶応義塾大学総合政策学部では、学生は文理に関係なく自由に専門分野を選ぶ。ある専門分野では意欲的ではなかった学生が、別の分野で見違えるように実力を発揮し、活躍している例が山のようにある。日本では競争の厳しい大学受験に合格することばかりに意識が向き、大学入学前に「自分の関心や興味、適性に合った学問分野は何だろうか」と吟味しなかった学生も多い。

時間やお金がないと、人々は効率を求めるようになりやすい。

エビデンスに基づく政策形成
Evidence Based Policy Making 
本書の合意を踏まえれば、私たちは、教育の「成果」をどう測るかということに、よりいっそう、思慮深くあらねばならないという思いを強くした。

短期的な効率性を求めることと、長期的に成果を上げることは、必ずしも一致しない。日本の厳しい財政状況を考えれば、納税者である国民に対して、政策にどのような効果があるかの説明責任を果たすことが重要なのは明らかだ。しかし、諸外国と比べて様々なデータへのアクセスが困難な日本では、教育の成果を学力テストの点数など「計測しやすい」「手に入りやすい」もので把握しようとしがちである。教育に、それらの「寄り道」を取り込む余裕があるのか?

読み終わった後の感想

「退屈なのは、世界か、自分か?」という問いを考えた。

結局、何が正解がわからない世界だからこそ、とにかく自分の「人生実験」に夢中になっているほうが面白いんじゃないか、という私の結論。そして、今の人々を満足させるより、次世代の未来の可能性に少しでも貢献したい。

SNSの時代だからだろうか、今を生きる人々で、特に大学生や大学を卒業して就職して数年の人々は、とても「効率よく生きる」ことに熱心な気がする。失敗したくない。無駄な時間は過ごしたくない。ありとあらゆる人々の話を聞いて、できれば失敗談や後悔談をも聞いて、同じ「過ち」を繰り返さないようにする。学生の頃に何をやっていれば良かったか、と聞かれる。

あえて言うのならば「世界を旅する」というのは、いつの時代をも越える回答かもしれない。学生は、時間はあるけれどお金が無いので、その「学生」ステータスを使って、ありとあらゆる安宿に泊まり、無視されてもいいからとにかくあらゆる人々に話しかけて、語学を磨く。自分にとっての第二言語が確立されたら、追加で第三言語(できればマイナー言語)を学ぶ。言語を学ぶということは、言語を学ぶという目的だけではなく、人間として成長させてくれる。あらゆる経験、知識、知恵、サバイバル精神、柔軟性、人間性、相互理解が身に着くことほど、長期的な投資効果が高いものは無い。人生そのものだからだ。

世界が複雑化し競争が激しくなる中で、その世界を渡っていくためには、専門的な能力を身につけるべきだ(そして早く始めるべきだ)と言われる中で、「初期にいろいろ試してみることと、多様性が重要」「幅広さが、専門領域の知識からは得られない洞察を生み出す」と、世界中の経済学、心理学、脳科学等の研究を紐解きながら議論するRANGE著者。

ともすると、日本の組織は「ジェネラリスト」育成型であり、官公庁は特にジョブローテーションが数年単位であるので、「良いのでは」と考えてしまいがちだけれど、日本の考え方ではジェネラリストというと「仕事」の領域からはほとんど出ない気がする。そうではなく、著者が挙げる人々は、例えば経営者がアートや武道など芸術分野でも非常に才能を発揮していたり、研究者が小説を出版している等の例であった。

この本の声を届けたい人々に届けるにはどうすればいいんだろう。そんなことを思いながらも、実際は、大学や官公庁等の組織を見ていると、何よりも報告書作成や会計処理の書類作成などに膨大な時間を奪われすぎているのと、納税者への説明責任に過度なエネルギーを使っていることが否めないのだ。そして、そんな環境にいる人々ほど、時間がなくて「効率化」だけを求める傾向にあるから、きっと本を読んでいる時間がない、となってしまう。

大学でいうと、長期的なプロジェクト評価も研究も教育も大事だからこそ、組織内の各業務の透明性と知識移転を高めて、負担をなるべく軽減することが求められている気がしてならない。









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