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後退

中学生の頃、おしゃれで運動ができて、程良くおバカでみんなから一目置かれていたボブのあの子は、芋っぽい彼氏との写真を載せていた。
野球をやっていて「人が寄ってくるタイプ」だったあの彼は、将来の夢のためにアメリカへ留学をしている。
中高と生徒会長で面倒見が良く、歌が上手で成績優秀だった背の高いあいつは、去年休学をしていたらしい。

私は?

今の私を見たみんなはどう思うだろうか。



東京の喫茶店にいる。
「SAVE OUR BEACH」と書かれたTシャツを着てパソコンで作業をする中年男性。our と言われるとそれを読んでしまった私も強引に当事者へと巻き込まれた感覚になる。
おもむろにノートを取り出し絵を描き始めた女性。中学生まで通っていたピアノ教室の先生に似ている。
マッチングアプリで出会ったという男女。話が盛り上がったようでLINEを交換してから店を出て行った。
友人の結婚式の話で盛り上がる男性4人組。

ホットサンドと紅茶を運んできてくれた店員さんの右腕には蝶々のタトゥーがあった。美しい。
やっぱり私もタトゥー入れたいなあ、と思いながらかじったホットサンドからペーストされた卵がポテっと落ちる。
1マス戻る。

背後の窓からは道路を行き交うたくさんの車と人の姿が見えた。
ひとつひとつ、ひとりひとり、それぞれの生活があるのだと、それらに指先だけでも触れてみたいと思うようになったのはいつからだろう。
都会は良くも悪くも人が多い。
この窓のフレームから見えている景色を、文章や音楽や絵、映像などで表現できる力が自分にあればどれほど良いか。


午前中に倒したはずの腹痛が再度顔を出した。
1回休み。

2023.8.20

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