294回 What are you doing?


SNS疲れ、という言葉がある。
X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、YouTube、LINE、Threads、Tumblr、BlueSky、TikTok。そのどれかに触れていない人は珍しいだろう。自分から積極的に書き込んだりはしていなくても、見ているだけ、たまにリアクションするだけ程度なら、殆どの人がなんらかのSNSには関係していると言える。好きなアーティストや友人知人、たまたま見かけて気になった人など、どんどんフォローを増やしていけば、流れる投稿の数も増える。そうなると読むだけでも結構な時間がかかってくるし、なんらかのやりとりをするようになれば、レスも付けなければならない。
なかにはかつて「ツイ廃」と呼ばれたような、X(旧Twitter)に四六時中張り付いてチェックしていないと気が済まない、いやそれどころではなく見ないと不安になるという、一種の依存となってしまったような人も出てくる。そういう人は、見ているだけならまだしも、書き込んだりするともうそれに対する反応が気になってしょうがなくなる。反応がないと落ち込むし、あればあるで良い反応ばかりではなく、アンチがついたりすればその対応に追われる。そうなるとしょっちゅうスマホをいじっているような状態となるので、日常生活にも支障をきたすようになり、そうしてついには疲れ果ててしまう。

一時期「インスタ映え」というのが問題になった。
Instagramに見栄えのする写真を載せて、沢山のいいね!を押してもらうというのが目的である。しかしそのために食べ物を粗末にしたり迷惑行為を行ったりする事例が後を絶たず、社会問題にもなった。なかには映える写真を撮ろうとして崖から落ちて死亡するといった極端なケースもあり、それ程までに承認欲求というものは強いものなのかと嘆息した。
世界中で同じようなことが起こり、あまりにも度を越したため、♡の数やフォロワーの数が一見して他人には見えないようにするなど、Instagram側でも対応を迫られたが、本質的な解決にはなっていない。
対してFacebookは基本的に本名で登録することになっている(実際は結構いい加減)ため、言ってみれば身バレしている。なので実生活でも関係のある人と繋がっている場合が多い。親しい友人だけならいいが、仕事で関係している人とかも繋がらざるを得ない場合もある。そうなると今度はプライバシーの境界をどこに置くかを悩まざるを得なくなる。知られたくないプライベートな様子はおいそれとは投稿できなくなり、公開の範囲を限定したりしなかったりと面倒くさい。
X(旧Twitter)で問題になったのは、炎上だ。気軽に投稿したちょっとした言葉尻を捉えて拡散され、思ってもみなかった規模で燃え上がる。全く知らない他人から極端に攻撃的な言葉を投げつけられるたら、精神的にもかなりのダメージを受けるのは当たり前だ。それが原因で不幸な結果になってしまった事件も記憶に新しい。

そもそもSNS(Social Network Service)はいつ頃から始まったのか。
SNSの歴史はインターネットの歴史と言ってもいいだろう。そしてそれはコンピュータの歴史でもある。インターネットが広く利用されるようになったのは 、パソコン(PC=Personal Conputer)というその名の通り個人で使用できるコンピュータが出現したことに拠る。それまでのコンピュータは、到底個人が使えるような存在ではなかったのだ。パソコンが現れたのが1990年代半ばのことで、いくらパーソナルと言っても当時はまだかなり高価であった。
そして早くも1999年には、あの巨大掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」が登場する。匿名性を最大限に利用した悪名高い書き込みの数々は、SNSというものの本質を見事に表していたと言えよう。玉石混交の情報が飛び交う2ちゃんで「半年ROMれ」と言われて鍛えられた人も多かった。
その頃のインターネットはまだ速度も遅く、画像などもってのほか、テキストデータを送るのがやっとであった。それがADSLの登場により大量のデータを送ることができるようになり、一気にSNSは進化する。満を持して2004年に登場したのが、完全クローズドの招待制SNS「mixi」だ。2004年には世界最大のSNSサービスであるFacebookも登場している。
まだスマホが無い、ガラケーの時代である。これらのSNSはパソコンで利用することが前提であった。

2007年にApple社から「iPhone」が発売された。スマホ時代の幕開けである。
Twitter自体は2006年にリリースされていたが、日本語にローカライズされたのは2008年だった。日本語で140字以内、「いまなにしてる?」という気軽さと即時性。これがスマホとの相性が抜群であったため、あっという間にTwitterは人気を席巻した。TwitterがXになった今でも日本では高い人気を誇るSNSだ。
2012年には携帯電話が「4G」化し、料金も定額制になったことで、俄然画像などの大きなデータをスムースに送受信できるようになった。そこで台頭してきたのが、InstagramやYouTube、そしてLINEである。LINEは個人間のクローズドなチャットツールとしての姿が基本だが、Instagramは写真や動画による開かれたコミュニケーションを目的にしている。YouTubeはSNSとしての側面はこれまであまりなかったが、今では個人でも気軽に利用できるようになった。
現在世界中で1番利用されているSNSは、依然としてFacebookだそうだ。2位がYouTubeで、インスタは4位。X(旧Twitter)はかなり下である。日本ではダントツでLINEが1位、2位はYouTube、3位X(旧Twitter)、4位Instagram、5位TikTok、6位Facebookとなっている(2024年5月現在、順位は結構入れ替わり年代によっても異なる)。
全年代のSNS利用率は8割弱であり、80歳以上でも5割近くが利用していることから、SNSはいまや我々の生活必需品となっていると言ってもいいだろう。

私もSNSは頻繁に利用している。性分としてはTLを全部確認しないと気がすまないたちなので、あまり多くはフォローしていない。
Xは、Twitterの時代から使っている殆どの人は感じているだろうが、おそろしく使いにくくなった。Xに変わり収益の場と化してしまってからは、情報を得ようとしてもインプレゾンビの群れに阻まれて辿り着けない。またあまりにもお手軽に知らない他人にレスを付ける人が増えたせいで、気軽に呟けなくなった。「いまなにしてる?」など書いたら、あっという間に個人情報を特定されてしまう。物騒な世界になったものだ。そういえば「なう」という言葉を見なくなって久しい。
Facebookでは何十年ぶりかで高校の同級生と繋がったりして、それなりに良いこともあったが、安心してプライベートなことを書くために、新しいフレンド申請は滅多なことでは受け付けないことにしている。
Instagramは画像のみ、LINEは友人とのやり取り、Tumblrは放置、Threadsはやっていない、TikTokは動きが苦手。結局手を広げ過ぎても扱いきれないのがわかったので、実際にSNSとして使っているのは、今も仕方なくXということになってしまう。

SNS疲れというのは結局は「知らなくてよいことを知ってしまう」に尽きる。
世界はもはや情報過多である。悲惨なニュースやスキャンダルにネタバレ、誹謗中傷。
匿名だから何を書いても良い訳ではないことは自明なのだが、勘違いしている人がなんと多いことか。攻撃的な言葉を使えば軋轢が生じるのは当たり前だろう。140字という短い文章で議論はできない。それを無理やりやろうとするから、売り言葉に買い言葉になってしまうのである。ストレスになって当たり前だ。
面と向かって言えないことは書かない。知らない人に無礼な文言を投げつけない。
言葉には常に責任が生じる。
それを肝に銘じながら、今日も疲れない程度にSNSを利用する私である。


登場したSNS:mixi
→mixiといえばオレンジ色。クローズドのコミュニティに分かれている仕様は、同好の士が集まる倶楽部のようで安心感があった。mixiが廃れたのは、単に他の選択肢が増えただけでなく、招待制を止めたせいが大きい。
今回のBGM:「みくみくにしてあげる♪」by ika feat.初音ミク
→言わずと知れた初音ミクの、いやVOCALOIDを代表する楽曲。ボカロ曲の隆盛はインターネット及びSNSの進化と共にある。


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