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精神科の身体拘束について

精神科病棟で見る患者は多彩だ。

妄想がひどく、自分は安倍総理の一番弟子であるとか、宇宙をまたに掛ける旅行者であるとか、食事に毒を入れられているとか、犯罪者組織に電磁波を当てられて常に監視され命を狙われているとか、ふなっしーの正体は私なのよと真面目な顔で言ってみたりとか。

かと思えば、その辺にいる近所のおばちゃんみたいな人も多い。あれ、この人なんの病気だっけ。いつまで入院してるんだろう、早く退院すれば良いのに、みたいに思ったりもする。

そんな中、ひどい興奮状態で暴れ回る人もいる。自宅近所で暴れて警察官通報されてぐるぐる巻き状態で来る人もいれば、スタッフに妄想を抱いて攻撃的になったり、自分に攻撃が向く人もいる。

こんな状態の場合、私達は隔離や身体拘束という手段をしばしば選択する。隔離とは部屋の外から鍵を掛けて、個室内から出られない状態にすること。周囲との人間関係や、生活音、テレビや新聞などの情報など、生活上のあらゆる刺激を遮断する。身体拘束とは四肢、体幹の全て、あるいは一部をベッド上にベルトで固定して、身体の自由を制限する行為である。

身体拘束を実施するに当たっての要件は、自傷他害のおそれがあること。つまり自傷行為や自殺企図、あるいは他者への物理的攻撃のリスクが著しく高い状態であること、である。

この隔離拘束は、最終手段であり、なるべく使用しない。というルール化にあるが、実際にはかなり多用され、日本の精神科医療で横行しているだろう。H27年の調査でも、全国で年間1万人を超えているというデータがある。改めて不必要な隔離拘束はしないという原則の徹底を要するのは言うまでもない。

とはいえ、精神科においては避けられないのも事実。

世間一般において、ニュースの特集やインターネット上でも隔離拘束の問題が取り上げられ、非人道的と批判される場面をしばしば見かける。この前もNHKの特番で見かけたのだが、2017年にニュージーランド人の若者が日本で身体拘束を受けて、10日後に死亡した、という件に関する特集だ。

ニュージーランドでは、隔離拘束による治療は全く使用しないのだと言う。だから日本で横行しているこの問題に対して強く批判的であり、今回の死亡事件に関しては到底理解できない、といった内容。

番組ではニュージーランドでの患者との向き合い方について強く語られていた。詳しくは覚えていないが、「私たちは患者全員に対して尊敬の念を持って接しているのよ」「どんなことがあっても患者を否定しないし、どんなときでも患者自身を受け入れてあげる、耳を傾けるの」といったような内容だ。

精神医療従事者には当たり前のことである。

私はこの番組に対して、なんとなく不快感を感じたのだが。まず精神医療従事者に対して、なんの啓発にもなっていないこと。不穏患者への対応、日本でいう抑制せざるを得ない状況にあった場合、ニュージーランドではどのように対応しているのか、全く具体性がない。当たり前の精神論、倫理観が語られているだけであること。

さらに医療従事者じゃない人へのメッセージとしては、ただ隔離拘束に対しての非人道性を謳っているだけであるということ。

基本的に精神医療従事者は、常に隔離拘束は最低限であることを意識しているはずだ。この番組のメッセージとしては、安直な隔離拘束をしている病院を含め、医療全体への警鐘なのかもしれないが、あまりに言葉足らずと言った印象だった。

ニュージーランドは広い。

人間にとってのびのび暮らせる自然豊かな国だと勝手に認識している。日本の人口密度と比較するとどれだけの違いがあるだろうか。過密した住宅地やマンションで奇声をあげたり迷惑行為が発生したりすれば、すぐさま警察官通報をされ、入院させざるを得ない、というのはニュージーランドも一緒なのだろうか。

日本とニュージーランド、全く環境の異なる二者。この違いを置き去りにして問題のみをクローズアップ、比較、批判するのはずるいんじゃないか。

そんな苦虫を噛み潰したような感覚。

良いことばっかり言って遠回しに批判されているような感覚。

そんな梅雨空の午後。

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