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読書は旅に似ている。

これは、大人になってから読書の魅力にどっぷりはまってしまった、わたしの持論である。

本を読む余白のなかったあの頃

わたしは以前、そんなに本を読む人間ではなかった。
小学生頃までは、よく図書館に行っていたと思うのだけれど、いつのまにか読まなくなってしまった。

理由はおそらく、交友関係の広がりと共に、友達との時間に忙しくなったこと。

母曰く、中学で吹奏楽部に入り、そこからわたしは目覚めていったらしい。
確かに、小学生頃までの記憶はあまりない。
別に辛い過去があって記憶を消し去ったわけではないはずなので、小学生まではまだ眠っていたのだろう。

友人との共通の話題といえば、ドラマや音楽、好きな芸能人、読んでいる雑誌の話。
わたしは結構ミーハーなところがあるので、そういった情報についていくのは嫌いじゃなかった。

それ以外の時間は、部活、受験、バイト、旅行、仕事、飲み会、デート。
大人になっていくどの段階でも、忙しい毎日を好んだわたしは、常に予定を入れていた。
手帳はぎっしりだった。そのことが、わたしを満たしていた。

1冊の本との出逢い

今の夫と、まだ付き合って1年目のクリスマスイブ。
六本木ヒルズの展望台に並ぶ列を見て、彼は「やらなきゃいけないことがある」と、待ち時間は各々自由に過ごそうと提案してきた。

今までそんな自由な人は、友達も含めて初めてだったので、些か驚いた。
しかしまぁ、「ディズニーランドでデートしたカップルは別れる」なんてジンクスもあるくらい、待ち時間の話題の枯渇は死活問題だ。
わたしはその提案に乗ることにした。

文房具を買いに彼が入った蔦屋書店。
わたしも時間つぶしに、スタバのジンジャーブレッドラテと、雑誌でも買おうかなと書店の中を歩いてみた。
そこで目に入った1冊の本が『君の膵臓をたべたい』だった。

満開の桜の下に少年少女が描かれた、青春の一コマを切り取ったような美しい表紙。
それと対照的な、ホラーのようなタイトル。
このミスマッチが、わたしの好奇心をくすぐった。

帯などを見る限り、わたしの苦手なホラー系ではなさそうだ。
むしろ、薬剤師のわたしが興味をそそられる医療が関連するものらしい。
このタイトルの意味が知りたい。この違和感を解消したい。
こうして急遽発生したクリスマスデートの待ち時間のお供は、この本に決めたのだった。

物語に没入する得意技

読み始めてみると、一気に物語に引き込まれた。
クリスマスデート中であることも、これから綺麗なイルミネーションを見にいくことも忘れ、気分はすっかり制服を着た高校生だ。

わたしは、想像力を働かせることに長けているらしい。
映画やドラマを見ていても、まるでその世界に入り込んだような感覚になる。
友達の話でもするかのように、ドラマの話をすることも多い。
大学は理系の学部に進んだが、圧倒的に文系の科目の方が得意。数学の偏差値は30程度と理系を名乗れないほどの成績だった一方、高3の現代文のテストで学年1位を取ったときには、担任の先生に進路の心配をされた。

こうしてわたしは、社会人になって5年目の聖夜に自分の持つ特技を再発見し、読書の魅力に取り憑かれていくことになる。
読書愛に火をつけてくれた住野よる先生と、本を読む余白をくれた彼には、心から感謝している。

(今回は読書感想文ではないので、物語の感想や詳細は省くが、とても読みやすく、予想外の結末に本をめくる指が止まらなかった!)

読書は旅に似ている

それ以降、わたしはたびたび本屋を覗いては、気になった本を次々と買うようになった。
本選びは、基本的には実際に見て、ぱっと目が合ったものを「君に決めた!」と連れて帰ることにしている。本に呼ばれるような感覚を通して購入するのが楽しい。

不思議なもので、呼ばれるまま手に取った本はすべておもしろく、わたしはますます本の海に溺れていった。
読書をほとんどしなかったはずのわたしは、かばんにいつも本を携えて出かけるようになった。

なぜ本を読むことが好きなのか。理由を改めて考えてみると、「旅」と共通点があることに気がついた。

本を読むことで、知らない世界に行くことができる。
本を読むことで、新しい文化に触れることができる。
本を読むことで、自分とは違う考えの人に出逢うことができる。

もちろん、映画やドラマもその手段のひとつだろう。
でも本には、余白がある。
言葉によって紡がれる世界は、読んでいる側が自由につくり上げることができる。

中でもわたしは、長編小説が好きだ。読了後は、長い旅から帰ってきたような気持ちになる。
短編小説は、日帰り旅行だろうか。手軽で読みやすいが、わたしにとっては没入感にちょっと欠ける。最近は長編に少し近く感じる連作短編にはまっている。
ビジネス書や自己啓発本はセミナー、エッセイはカフェや居酒屋にいるような気分だろうか。ためになるが、日常の延長といった感覚だ。

各々いいところがあるが、旅気分を味わうなら、やはり長編小説がわたしはいちばん好きだ。
コロナ禍で旅に行けない日々も、いつも本がわたしを知らない世界に連れ出してくれた。

きっと、好きな旅のスタイルがあるように、それぞれ好きな本は異なるだろう。
旅のお土産話を聞くように、みなさんにとってのお気に入りの本の話を聞いてみたい。

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