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恋愛小説おすすめ本「おまえじゃなきゃだめなんだ」

読書の秋なので、ぴっぴのおすすめ図書を紹介するシリーズです。

普段、あまり小説を読まない私が
タイトルにひかれて手に取った本。

角田光代さんの「おまえじゃなきゃだめなんだ」

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20代~40代の恋する女性が主人公の、23編の恋愛短編集。
1つ1つがそんなに長くないので、さらっと読めちゃう。
23もストーリーがあるので、どれかには自分を投影できるんじゃないかなぁと思ったりして。
「ずっと幸せなカップルなんていない」
…とんでもない帯やな。

その中でも、だんとつ、忘れられないお話が、
タイトルにもなっている「おまえじゃなきゃだめなんだ」。

ここからはちょっとネタバレも含んじゃうので、気を付けてくださいね。

主人公は、アラフォー独身女性。
20代はモテにモテまくっていた彼女。

事態の対処法がわからなかったので、私は求められるたびにその人たちと寝た。食事や遊びに誘ってくれるすべての人が肉体関係を求めたわけではない。でも幾人かはいた。そのようにするのが礼儀だと思っていたし、何もかも支払いを持ってもらっていることへの謝礼の気持ちもあった。
そうして一度寝てしまうと、私は相手に執着した。その執着こそが、恋愛なのだと私は思っていた。

おお。いいかんじに拗らせてるねぇ。
わたしは決してモテてはいなかったけど、分かる気もするよ。
だからわたしは借りをつくらないように、けっこう割り勘推奨派だったな。


そんな中で、主人公はある一人の芦川という男性と出会う。
その人は、他の男性と違って、初めてのデートに「山田うどん」というすこぶるローカルなうどん屋に主人公を連れて行ったのだ。
普段、何万円もするコース料理や懐石料理をおごってもらうのが当たり前だった主人公にとって、それは耐えられない屈辱だった。

「やっぱりこのうどんじゃないと、なんていうか、うどん食べたって気にならないんだよなぁ」
とつぶやく彼。

けれども、いざ食べてみたら、めっちゃふつーのうどんやんか!!!
「たった500円分(うどん代)しか価値のない女、とみなされている!」
と主人公は大憤慨する。
うどん屋に入る前は、めっちゃくちゃいいかんじだったのに。
気張らなくても、自然に笑顔がでてきて、話も途切れなくて。
なのに、なのに。

うどん屋から出た後も、こんな扱いされたことない!と怒り狂って
今までこんな贅沢させてもらってたのよ!と怒りのままスーパーマウント状態で彼に言葉をぶつけるが、「すごいねぇ」と感心するばかりで、
なかなか見下されてはくれない彼に肩透かしをくらい、
やはりそこから発展することはなく終わった、というエピソードが前置きにある。


そして今はというと、40代が目前というときで、
約2年付き合っている彼がおり、それなりに一人の人と向き合うということをするようになっていた。

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そう思ってはいたけれど、
ある日突然、「他の人と結婚することにした」と
青天の霹靂のような一言をぶつけられる。
その新しい彼女には、守ってあげないといけない理由があったのだ。

人目もはばからず泣きながら誠実に謝ってくる彼に対して

あぁ、過去の自分の不誠実が、今こんなかたちの誠実になって返ってきた

と思う主人公。


いろんな気持ちを抱えながら、それでも、
自分の色々やってきたことのしっぺ返しを見事にくらっているわけで
この先これ以上ひどいことなんてないはずだと自分に言い聞かせながら
あてもなく車を走らせる。

そこで目に飛び込んできたのが

そう。 山田うどん !!!

あの忌まわしきデート以来、何十年来にたべる山田うどんを食べながら
昔、母が作ってくれた、やさしいおうどんの味を思い出す。
なんでかわからないけれど、ぽつりぽつり、涙が出てしまう。


山田じゃなきゃだめなんだ、と思わず口走った芦川さんの声がよみがえる。
私は本当は、そういわれる女になりたかったのだ。
ずっとずっと。
宗岡辰平の前で、どうして泣かなかったんだろう。
どうして納得なんかしたのだろう。別れないと叫んだって辰平は私ではない方を選んだのだろうか。でも、叫べばよかったかもしれない。
どうして私は選ばれなかったんだろう。
どうしておまえじゃなきゃだめなんだ、と誰も言ってくれないのだろう。
誰にも言ってもらえないまま、こんな年齢になったんだろう。
うどんが。こんなうどんが、「おまえじゃなきゃだめなんだ」と言われているのに、私は。私ときたら。

あぁ。。苦しい。
でも、泣きながらおうどんをすするアラフォー独身女を
山田うどんにいる他のお客さんたちは、
全く誰も、気にしない。
そこには、やさしい無関心の空間がある。

お葬式帰りの子どもが事態を飲み込めずに
きゃっきゃ騒ぐ、それを見て見ぬふりするような
やさしい無関心だ。

やさしい味のおうどんを汁ごと平らげた主人公は

おまえじゃなきゃだめなんだと言ってくれる誰かと、これから私は出会うのだ。うどんに負けるわけにはいかない。待ってろよ。

という気持ちで店を出る。


なんとも胸がキリキリする小説で、独身時代から何度も読んでしまう。

私もオットと結婚するまでは、
誰かの「おまえじゃなきゃだめ」になりたくて、
色々ともがいてきたなぁと思う。

最初はいい彼女を取り繕うのだけれど、徐々にボロがでてきて
こんなダメな自分でも逃げずに、愛してほしい、と思うのだよね。
重いよね。笑

私の恋愛観を小説にするとしたら

「ダメなあなたを許すから、ダメなわたしも愛してよ」

こんなかんじの、なかなかヒリヒリしてるお題目になるかな。
誰か読みたい人、いる?(イナイヨ)

それはさておき、この「おまえじゃなきゃだめなんだ」は、
運命の王子とまだ出会ていないあなたも
結婚して数年が経ち恋愛とは縁遠くなってしまったあなたも
これは私ですわ。ときっとどこかで共感できてしまう魔法の一冊だと思う。

もうわたしは新しい恋愛をすることはないだろうけれど。
時々手に取って、色々思い出したくなるときに欠かせない一冊なのだ。

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