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幸せを叫んでやる

バス。イヤホンから音楽が流れてくる。軽快に刻むギターとは裏腹に車内はぎゅうぎゅうだけど、それでも心はひろびろとしていた。

ひさしぶりに呑みにいくからか、なんだか不思議な気持ちだった。
おちつかないような、おちついているような。
ウキウキするような、チクチクするような。

また停留所にバスが止まると、たくさんの学生がおりていった。運転席の後ろの席が空いた。このまま立っていたい気もしたけど、せっかくなので座ることにする。
出口のそばのルームミラーに自分が映っているのがみえた。なんだか素敵にみえた。街にでる時、自分はすこしツヤツヤとしている気がする。

お気に入りの曲が流れはじめたころに、バスは目的地についた。すこしだけスキップするように降りた。
コンクリートに足がつく。街はこんなに狭いのに、車内から抜け出しただけで丘の上のように視界が開ける。
大きなビルの向こうに、水色とオレンジの溶ける空が広がっていた。

踊りたいな そうおもった。
イヤホンは耳から脳へリズムを届けてくる。この気持ちのままに走って、跳んで、回ってしまいたかった。
でも、やらなかった。かわりに、少しだけ足元を軽くして歩いた。

踊れないんだなぁとおもうと、なんだかちょっと悲しかった。
そういえば、もっとやりたいことはある。
ぼくは踊りたかったし、歌いたかった。泳ぎたかったし、飛んでいきたかった。
どれだけ空が広くても、ぼくであるだけで不自由なんだ。

でも、涙がでるほどじゃない。
だって久しぶりのお酒が待ってるから。
ウキウキとチクチクは心を揺らすけど、そのほうがきっとビールもおいしい。

狭いこの街の、狭い店で。
白い泡といっしょに不自由をのみこんでしまおう。

そして、おもいきり幸せを叫んでやる。
叫んでやるんだからな。



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