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「素直に泣ける夜があってもいい」

苔の毒々しい紫色の花

幼かったわたしは綺麗だと想った

素直に綺麗だと想った

それを片手で摘んで父に見せた

ぼんやりだけど覚えてる

父は笑顔でわたしを迎えてくれた

綺麗だねと言ってくれた

それはとてもあたたかく

ピュアで

しあわせだった

いつからだろう

自分を変えたいとずっと思ってきた

何かおかしい

わたしではない 

想ってきた

何も変わらない

いつもの満員電車

人ごみに押されてタイムカードを押して

夕暮れのホームからひとりで帰る

電気がついていない玄関のドアの鍵をまわして

いつものテレビ

いつわりのしあわな世界

また同じ明日がくる

眠れない

眠れなくて

いやになって

死んでもいいかなと想った時

あの

あの幼ない時に摘んだ苔の花を思い出した

突然に

父の笑顔

わたしは

自由だった

美しいと思えるものに素直だった

やさしさを受け入れていた

涙がこぼれた

誰にも知られないような

涙が

明日もきっと変わらない

でも

でも

でも何かを信じてみようかと

想った

今夜は

泣いてもいいかな


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