フォローしませんか?
シェア
SAYURI
2021年7月13日 12:21
クリスマスが近かった。街は煌びやかさと共に、どんどん寒々しくなっていたが、私の心は暖かだった。これまで生きていて、こんなに心弾んだ日々はなかったからだ。年老いた私にとっては彼女の歌だけが生きがいだった。さほど酒も飲めない私だったが、彼女の歌を聴くために、あの酒場へ週に何度も通っていた。肉体労働で得たわずかな給料のほとんどを、この酒場に通うことで使った。とはいっても、酒が弱い私は注
2021年5月15日 03:05
【ショートストーリー】藤枝がアヤと出会ったのは友人の結婚式であった。男女の出会いのシチュエーションとしては良くあるパターンだが、この結婚式と言うのが中々変わっていて、全国各地に顧客をもつ編集者の社長が大金をかけて、北は北海道、南は鹿児島で結婚パーティを行うと言う、常軌を逸したイベントだったのだ。その結婚式ツアーイベントで、カメラマンとして仕事をしていたのが、アヤだった。気になった女性が、綺
2021年1月6日 09:59
呼吸が苦しい。私はなぜこんな夜に、海沿いのアスファルトをひたすら走っているのだろう。吐きそうだけれど、吐けない。苦しいけれど、立ち止まることもできない。まだ、まだ。きっと、もう少し走った時に、倒れそうな時に、何かが変わるかもしれない、なんて淡い期待があるのかもしれない。走ろうが何しようが、世界は何も変わらない。きっと残酷なまま。でも、あと少しだけ。本当に倒れ
2021年1月6日 09:37
「聞いた?お前の元カノ、彼氏できました~って、SNSに写真載せてるらしいよ。」「へえ。ま、よかったんじゃね?ま、もう関係ないしな。」僕は友人の前で、できるだけ関心なさそうなそぶりをして、つけたばかりの煙草を灰皿に押し付けた。「そっか、そうだよな。別れてから全然会ってないんだったよな。」「うん、ほら、こっちもさ、今の彼女が嫌がるからさ。」「そっか。でもそんな風にSNSにわざわざ出
2017年10月11日 16:33
「ほんっとお前のお母さんって料理上手いよなぁ。」シュウは、うちに来るたびに毎回同じことを言うな、とオサムは思った。シュウは父親と二人暮らしだけど、父親の仕事が不規則で帰りも遅いから、ほとんどうちで晩飯を食うのが当たり前になっていた。母ちゃんも、シュウがいる方が嬉しいみたいで、毎日シュウのぶんまで準備している。俺たちは偶然、同じ文字で「修」と書いて、オサムとシュウ、それぞれ別の読み方
2017年9月13日 02:54
「あ~もうイライラするなぁ~なんで女ってあんなに責任感ないの?」 私が愚痴を聞かせるために呼び出した男友達は、 「まあ、そんなもんでしょ、女子は。」 とさらっと話を終わらせた。 居酒屋の目の前に置かれたメニュー札に、 『おかげさまで3周年!最初の1杯すべて半額』と書いてある文字を見て、私はふと思い出す。 「ね、そういえば、もうすぐ誕生日だっけ?」 「あ、そう