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私的:ドミニク・ミラー考察その②

スティングの2023年の来日からちょっと書くのに時間空いてしまいました。
自分は3/11日に観て来ましたが、アリーナの音のすごく篭っている席だったため、あまりドミニクの音がソロパート以外はきちんとしたバランスで聴こえなかったので、残念ながらこの日の感想はきちんと書くことが出来ません。後半はだいぶ良くなりましたが。

いかにもドミニクらしい演奏が聴ける「Heavy Cloud No Rain」や、ここだけ青のテレキャスに変えての「Mad About You 」や 、やっぱりカッコよかった「Roxanne」は聴けたので、まあ今回はいいです。「King of Pain」はもうちょっと弾いて欲しかったかな。

ほとんどの皆さんにとっては「スティングのバックバンドのギタリスト:ドミニク・ミラー」なんでしょうが、私の感覚では最早「スティングはあくまでドミニクの仕事の一つ」なんですね。

彼のソロ作を全部聴いている人なら、ドミニク自身が本当にやりたい音楽は、スティングとは別の物だという事は理解できるでしょう。なので、個人的にはもう「Shape of My Heart」ばかり取り上げられてしまいがちですが、スティングでの演奏に関しても、この曲以外の所での「ドミニク・ミラーの演奏」についてもっと皆さんが注目してくれたらな、という思いが強いです。まぁ、ああいう代表作ができてしまうと、アーティストはどうしてもそれを求められてしまいますから仕方がないんでしょうけどね・・・。

けどこのアルバム「Ad Hoc」収録の一曲目、「Exiting Purgatory」(煉獄を出る)

この凄まじい緊張感の畳み掛けるアコギの音、最後の叫びにも似たエレキの咆哮を聴いて、「俺に”Shape of My Heart”ばかり求めんじゃねー!俺の音楽は違うんだぁーーーー!」という彼の心の叫びを感じて、最初にこれ聴いた時は笑ってしまいました・・・。まぁ、最後のアコギの音でちゃんと救われますけどね。(あくまで個人的推測です。根拠はありません。)

まあ、「Shape of ~」を求めてる人はこれ聴いたらビックリするでしょうからね。自分はなんか嬉しくて「ドミニクもっとやれやれ~!」って思いましたし、もう本当に大好きな世界です。

というか彼は実は1996年のスティング「マーキュリー・フォーリング」のツアーの途中で「このツアーでもうスティングのとの仕事は辞めて、もう一度自分を見つめ直すつもりだ」とハッキリ言ってるんですよね。(出典:「Player」1996年11月号」)まあでも30年経っても未だにやっている訳なんで、何かあったんでしょうね。知らんけど。とにかく、スティングはドミニクの言葉を借りるなら、「僕の歌い手」であります。

彼の場合、とかくアコギの演奏に注目が集まりがちですけど、やっぱりエレキ弾いたって凄いんです。彼の最大の特徴は音作りの巧みさと、全体の曲とバンドサウンドの中で「自分がどういったプレイをするべきか」というその判断力と、バランスの取り方というのが本当に凄いと思います。
特にそれが表れているのがこの動画です。

もうこれを表現するいい言葉が見つからないくらい素晴らしいと思います。「深い」「円熟」「美しい」「味わい深い」などの形容詞さえ陳腐に感じるくらいの凄い演奏だと思っています。「絶妙な塩梅」ってやつですかね。もう一生延々この音を聴いていたい感覚にするくらい素晴らしく気持ちがいい演奏と音です。

彼は良く繰り返し言ってます。「演奏することよりも聴く事が鍵だ。聴くことの方が重要だ。」と。そして「個人的なエゴを捨てろ。曲全体にとって何がベストかを考えて曲を引き立てるパートを作る事が重要」と。ドミニク・ミラーというのは、その演奏能力の技術だけに重きを置かれて重宝されているギタリストではないな、というのが本当によくわかる動画だと思います。

彼が主にエレキ方面で影響を受けていると公言しているのは、ジミ・ヘン、ジョン・マクラフリン、パット・メセニー辺りが多いでしょうか。まあ、なんかわかるわ、ってメンツです。バンドサウンドとしては圧倒的にグレイトフル・デッドの影響を受けた様です。デッドに関しては、バークリー時代に「デッドが好きだ」と言うと周囲には全く理解されず「なんであの良さがわからないんだ!」と思ったそうです。そしてやはり、ジェフ・ベックは大好きみたいですね。クラプトンではなく(笑)。

個人的にもベックとドミニクは音楽の追求の仕方、アプローチの面で、非常に似たタイプだと思っています。「One Note」へのこだわり方、どんな器材でも自分自身の音にするタイプ。あくまでも「どんな音を出すかは自分自身の問題であって、器材に左右されるものではない」という感じ。ベックは弾くけどドミニクは弾かない、という違いはありますが。

実際ドミニクはギタリストの中ではどんなギターを使うかは比較的拘りが少ないと思います。スティングの仕事初めても長い間はフェルナンデスの5万くらいの安いギターを使ってて、ある時とあるアーティストのレコーディングでプロデューサーから「ヴィンデージは持ってないのか」と聞かれ、「持ってない」と答えた所、その人がヴィンテージを探して来て弾かせた、という話があります。そしてそのギターは録音が終わったら貰う事ができた様です。太っ腹な人もいたもんだ。

昔はストラトを使う事が多かったですが、最近はテレキャスを使う方が多い様です。「ストラトよりもあらゆる倍音を拾ってくれる気がする」と言っています。
特に2022年6月に買った、68年製の非常に美しいメープル指板のテレキャスはお気に入りみたいで、今回のスティング公演でもエレキは1曲除いてこれのみでした。でもそれまではナッシュビルのテレを使っていたので、今まででは一番高い買い物だったようで、「自分へのご褒美として本物を買ってみようか」と思ったそうです。

そしてこう述べています。
「最初はナッシュほどの音ではないかな?と思った。しかし、半年ほど飼い慣らしてみた所、10倍は良くなったと思う。音はすぐには出て来ませんでした。音はすぐには出てきませんし、自分で見つけなければいけません。良い楽器であればあるほど、すぐに良い音にするのは難しいと思います。」
なんかすごくドミニクらしいコメントって感じがします。

ちなみにストラトでの彼の音が良くわかるのがこの辺りでしょうか。後半ソロ部分、それはもう美しい音であります。

昔彼が参加していたジュリア・フォーダム、キング・スワンプ、ワールドパーティ、プリテンダースあたりの音源を聴いても、一度彼の音に慣れるとすぐにドミニクの演奏だな、と分かります。そういう意味では彼はセッション・マンとしてはかなり個性が強いタイプかもしれませんね。彼のこの音色というのは、かなり全体の中でも強く印象が残るので、逆にそれを本当に求められているのだろうなと。
この複雑で美しい音は、曲全体に対してすごく立体的・色彩感を与えて、アーティストの求めている世界観を構築するんだと思います。

しかしドミニクはもう普段はやはり自分ではあまりエレキは弾かないみたいですね。彼の核はどうしてもアコギなんでしょう。練習も主にバッハ。そして指を強く保つための練習としてオクターブ単位でのクロマチックスケールの練習。そして曲を弾くときは「音に意識を集中する為」に”超”スローで弾くそうです。
また、エレキを弾くときも先にアコギに30分くらい触るそうです。そして「音」に関しての感覚を研ぎ澄ます。本当に彼らしいな、と思います。

次回からはECMに移籍してからの傑作2作について考えて行きたいと思います。
ちょっと纏めるのに時間かかりそうだけど。


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