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ワーク・ライフ・インテグレーション

「ワーク・ライフ・バランス」の
コンセプトが叫ばれて久しい。
今更その中身について説明する必要も
ない位、誰もが内容を理解していると
思える。
調べてみたら、
2007年の「骨太の方針」に盛り込まれ、
同年に「憲章」の制定へと至っている。
その頃には既に、一般的な用語に
なっていたということだ。

「ワーク・ライフ・バランス」と言えば、
真っ先に思い付くのはこの人だ。

株式会社ワーク・ライフバランスを
2006年に創業した、小室淑惠さん。
早や15年目を迎えるということで、
経営者としての有能さを既に存分に
証明したと言ってよいだろう。
「経営戦略としてのワーク・ライフ
バランス」を提唱し続け、
今や第一人者としての名声を
確固たるものとしている。

コンセプト自体が生まれたのは、
1980年代のアメリカにさかのぼる
ようだが、日本では1990年代のバブル崩壊
以降、激変した労働環境に伴ってこの
コンセプトがうたわれ始め、
2000年代に入って益々その必要性、有用性
が認められるようになった。
この辺の歴史的な事情は、こちらのサイトに
よくまとまっている。

このようなワーク・ライフ・バランスの
議論の進展を踏まえつつ、2004年に
「ワーク・ライフ・インテグレーション」
のコンセプトをいち早く打ち出していた
書籍に出会った。
ここ半年ほど、幸運にも個人的に面識を
得ることができて、著書や講演を通じて
学びを頂いている小杉俊哉さんと、
ノンフィクションライターの神山典士さん
との共著になる
『組織に頼らず生きる』
である。

ワークとライフをバランスよく生きる、
という考え方は、ワークだけに偏っていた
「昭和」的、あるいは「高度成長期」的な
考え方へのアンチテーゼと言える。
しかし、ワークが好きで好きでたまらない
人だっているわけで、無理にライフとの
バランスを取りなさい!というような主張
になるとしたら、本末転倒になる可能性も
あるだろう。

その点を早くから喝破し、
ワークとライフをうまくインテグレート、
つまり統合するという考え方に立つべきだ
というのが本書の主張である。

小杉さん曰く、
「この本は、出すのが早すぎた」
そうだ。
事実、私も読んでみて、その主張自体
今伺っても全く古びていない。
いや、むしろ今に即している。

コロナ禍で、外へ出る機会が減った分、
中で色々と考える時間が増えたという
こともあるのだろう。
「これから、いかに生きるべきか?」
「自分は、本当は何をしたいのか?」
そんな根源的な問い、哲学的な問いを
自分に投げかけ、将来を模索する人が
増えているように思われる。

これは、言い換えれば、
ワークとライフの関係性を模索している
ことに他ならない。
そして、必ずしもこの二つはバランス
させなければならないものではなく、
ワーク=ライフの人がいてもいいし、
ノーワーク=ライフの人がいてもいい
はずである。
そのような考え方こそが、
ワーク・ライフ・インテグレーションと
いうコンセプトが提唱された根にある
のだと思っている。

敢えて言うならば、取り上げている
「キャリアのモデル」となる人たちの
人選が、どうしても時代の制約を受けて
いる点は少々気になるが、それもご愛敬。
キャリアのモデルとして登場するのは、

マネックス証券創業者 松本大氏
元読売巨人軍 清原和博氏
NPO全国認証No.1 ふらの演劇工房
元プロサッカー選手 中田英寿氏
報道キャスター 古舘伊知郎氏
恵比寿系ネオブランドのリーダーたち
指揮者 佐渡裕氏

という顔ぶれ。

そんな彼らから、キャリアの
キーワードとして、

自己理解
認知
バイフォーカル(複眼思考)
リスクテイクとリスクヘッジ
自己成長欲求
自己表現
ギフト(天から授かった才能、資質)

というコンセプトを引き出し、
インタビュー内容とその解説とで、
コンセプトを多面的に理解できるような
構成になっている。

発行年月日こそ古いが、15年以上もの
月日を経てなお新しい、そして面白い
この本が、ワンコインで読めるのは
幸せである。


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