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日本一の旅館・加賀屋のKPI

以前から何度か書いていることの
繰り返しになって恐縮だが、
趣味と実益を兼ねてマーケティングの
セミナーを主催している。
毎月1回×6か月の「ベーシック」な
コースを企画して、4月から開始。
6月までに3回ほど実施して折り返し、
7月からは後半戦のスタートだ。

6月分は、「Product」をテーマに、
「商品」「製品」「サービス」などの
概念と向き合ったり、商品開発の話を
したり、そして個人ワークを通して
一方通行ではなく双方向での学びを
得てもらえるように設計している。

「Product」と聞くと「モノ」のこと
を思い浮かべる人が多く、またその
方が分かりやすいのだが、
「サービス」も立派な「Product」で
あるので、理解を深める事例として
宿泊サービスを取り上げた。
リッツ・カールトンや帝国ホテルと
あわせて、日本が誇る老舗名門旅館の
加賀屋について話したのだが、今日は
その話を少しばかり紹介したい。

日本を代表する、温泉旅館の最高峰で
ある加賀屋。
残念ながら私は泊ったことはない。
1泊最低でも2~3万円はする、石川県の
和倉温泉にある老舗である。

能登半島の丁度ド真ん中あたり、
決して交通の便が良いとは言えない
が、少なくともコロナ禍の前までは
かなり賑わっていたはずだ。

加賀屋というと思い出すのが、
「陰膳」のエピソード。
年配女性の一人旅のお客様を接客した
仲居さんが、そのお客様から
「主人と来たかった」
という本音がポロリとこぼれた。
よくよく聞いていってみると、
つい最近ご主人を亡くしたばかりで、
こんな素敵な場所に是非二人で
来たかった、と漏らしたのであった。

仲居さんはすぐに動いた。
調理場に速やかに連絡を取り、本来
1人分の夕食の準備を2人分に増やし、
準備を整えさせる。
いざ、夕食の時間となって部屋に
お膳が運ばれてくると、1人しか
食べないところになぜか二膳の
準備がなされた。
不思議そうな顔をするお客様に、
「ご主人とゆっくり召し上がって
下さい。」
と声を掛けて下がったというのだ。

そのお客様は涙を流して喜び、
温かい気持ちで、天国にいるご主人
とのゆったりとした夕食の時間を
満喫したであろう。

記憶を元に書いているので、細かい
部分は異なっているかもしれないが、
概ねこんな話である。
加賀屋の伝説的なサービス力を、
端的に表現しているエピソードと
して秀逸極まりない。

これに類するような様々な伝説的
サービスを生み出す加賀屋の力が
どこから生み出されているのか?
そのカギは、これも手元に元ネタ
がないので記憶頼りなのだが、
実のところ仲居さんたちの接客力
である。
そして、その接客力をお客様の満足
に転化するために採用している
KPI(Key Performance Indicator)
なのだ。
さて、一体どんなKPIだろうか?

聞くところによると、加賀屋のKPI、
それは「接客時間の長さ」である
というのである。
仲居さんが、出来る限り長い時間を
かけて接客するのだ。

長ければ長いほど、お客様のことを
理解するチャンスが広がり、陰膳の
準備に至るようなエピソードを聞き
出せる程に、信頼関係を構築できる
可能性が高まる、ということなのだ
ろう。

そして、この「仲居さんが極力長い
時間接客に時間を使う」ことのため
に、お膳を各部屋に運ぶためのシス
テムに多額の投資をするなど、やる
ことが徹底しているのが素晴らしい。

ちなみに、KPIは「目標」とは違う。
「目標」を達成するために、
「これをやれば自ずと目標の数字へ
と近付いていく」はずの行動指標
である。
「結果」指標ではない、あくまでも
「行動」指標であるというのが大切
なところ。

石川県は、10年前くらいに出張で
金沢に行って以来、行く機会のない
ままだ。
死ぬまでに一度は是非とも行っておき
たい場所の一つ、早めに実現させたい
ものである。


己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。