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童話 『癌が良い? 抗癌剤が良い?』 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2021年4月号

#開業医のひとりごと
#月刊ピンドラーマ  2021年4月号 HPはこちら
#秋山一誠 (あきやまかずせい) 文

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むかしむかし、あるところにヒトがいました。

普通の所で、普通の生活をする、普通の人でした。

普通の所とは、他の人もいっぱいいる街でした。

普通の生活とは、皆と同じように朝起きて、朝ご飯ぬいて、仕事行って、お昼ご飯は外食して、夜はお酒飲んで帰る毎日でした。

普通の人とは、平均的な身長、平均的な体重、平均的な嗜好、平均的な思考、平均的な志向、平均的な学歴をもつヒューマンでした。

​黒い板が言いました。

「これ食べたら甘くて美味しいよ」

ヒトは食べてみたら美味しくて、とても好きになりました。

違う黒い板が言いました。

「これ甘くて、油っぽくてもっと美味しいよ」

ヒトはそちらも食べてみたら、もっと美味しくて虜になりました。

また違う黒い板が言いました。

「こちらは、肉汁と脂がいっぱい出て、信じられない美味しさよ」

一回目に食べた時は胃にもたれたのだけど、ヒトは口を通過していく時の美味しさが忘れられなくなりました。

さらに違う黒い板が言いました。

「美味しいだけではなく、直ぐに食べられますよ。あっという間!」

ヒトはなんと便利だと喜んで生活に取り入れました。

街を歩いていると、大きな絵画に出会いました。絵は綺麗な人が口から煙り吐いてます。ヒトは思いました。

「自分も煙吐いたら、綺麗になるんだ」

煙吐く習慣も採用することにしました。でも、そのうち、大きな絵画の綺麗な人がなにやら見たことのない装置を手に持つようになりました。よく観察すると、絵画に字が書いてあります。

「煙吐くの身体に悪いよ。こちらの装置は同じ効果で健康的です!」

ヒトは身体に悪いモノは嫌なので、早速いわれた装置に変えました。

​白い箱が言いました。

「歩いたり、動いたりするの、面倒でしょ?この中で分身を作ってあげるから、分身が歩いたり動いたりしてあげます」

ヒトは考えました。

「分身が動いてくれて同じ生活ができるのであれば、絶対便利だぞ」

それで、歩いたり動いたりは白い箱の中の分身にまかせる事にしました。

別の白い箱が言いました。

「あなたの個人情報や生活風景を言ってもらえたら、世界中の人に発信してあげます。世界中の人とつながれますよ!」

ヒトは考えました。

「自分のことを教えたら、世界中の人とつながるんだ。これは便利、自分の情報なんてお安いもんだ」

それで色色白い箱に教えてあげました。

黒い板が言いました。

「これ飲んだら、気持ちよくなりますよ。カッコ良いし」

ヒトは気持ち良いのは好きなので、飲んでみました。なんととても気持ちよくなれるじゃないですか! ヒトは毎日飲むようになりました。夜もよく寝られるし。それにカッコ良いし、言うことなし。

​そんなこんなで、美味しく、便利で、世界中の人とつながり、ヒトは楽しく生活をしていました。まあ、体重が増えて身体が丸くなってきていたのですが、周りをみると、皆同じような感じだし、体調も春に鼻がグズグズするくらいで、別に問題はありません。幸せです。チョー幸せです。

仕事で予防が大事と言われたので、色色検査をすることになりました。ヒトは自分は幸せな生活をしているので、全部大丈夫と安心して検査しました。何日か経って、検査をした病院へ出向くと、結果が発表されました。なんと。癌の診断です!ヒトはびっくりしました。

「えー?良いと言われた事を全部した生活してるし、体調も悪くないのに。ウソでしょ?」

初めは誰でも、嫌な事実は疑いにかかります。でも、診断は正しく、ジタバタしても、結果は変わりません。そこで、癌の治療をすることになりました。抗癌剤を使った治療です。

ヒトは抗癌剤治療を始めました。病院へ行って、体内に薬を注射する治療です。一回目が終わった時にヒトは思いました。

「なんだ、しんどいとか聞いていたけど、全然大丈夫じゃない。これだったら楽勝楽勝」

二回目、三回目と回数を重ねていきます。

始めは大したことないと思っていたヒト。段々しんどくなってきます。吐き気はするし、眩暈はするし、不整脈がでるし… 皮膚は痒いし、頭髪はぬけるし… 食欲はでないし、倦怠感もひどいです。とうとう仕事に行くことが困難になりました。ヒトは嘆きます。

「抗癌剤だけじゃないじゃない! はき止めはいるし、降圧剤もいるし、不整脈治療薬もいるし、かゆみ止めもいる」

薬だらけ。それで、今度は抗癌剤の副作用を抑える薬の副作用もでてきました。

ヒトはいつものとおり、白い箱の中の世界中につながっている人達の情報をみてみました。みんな元気で、綺麗で、格好良くって、抗癌剤でヒーヒー言って、禿げている自分が惨めになりました。ヒトは嘆きます。

「えー。元気だったのに。幸せに生活してたのに。なんでこんな目に遭わないといけないんだあ」

でも、癌は治療の効果もあり、小さくなり、そのうち見えなくなりました。喜んだヒト、幸せな生活に戻ります。

「いつもやってきたことをするのが大事だと言われてるし」

抗癌剤は止めです。

『で、ここで、普通の童話であれば、「治ったヒトはいつまでも幸せに暮らしました。チャンチャン」なのだが、相手は癌なのでそうは問屋がおろさない』

幸せな生活をしてたら、また癌が再発しました。再発なので、初回より悪質の癌だと言うことです。ここでヒトは選択を迫られます。

〜もっと苦しいキツい抗癌剤を使った治療をするか。キツいので死ぬかもしれません。〜

〜治療せず癌を進行させて、その内多分苦しんで死んでいく。〜

どっちも苦しい。どっちも死ぬかも。

さあ、ヒトはどちらを選択したのでしょう?

『このコラムの24人の読者様はどうされます? キツい選択ですね。どちらも嫌ですね。一番良い答えは、ここまで行かない、つまり、癌にならない、でしょう。癌の発生要因は生活だけではないのですが、癌になりやすい生活というものは判明してきてます(註1)。コロナ禍で癌の話をするのもなんですが、今医療が逼迫してますから、癌だけではなく、入院のお世話になるような疾病は現在診てもらえない可能性が高いので、できる限りさけるにこしたことはないと思います』

註1:日本の国立ガン研究所に色色記載があります:https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html

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診療所のホームページにブラジル・サンパウロの現状をコメントした文章を記載してますので、併せてご覧いただければ幸いです。


秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、予防医学科)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。


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