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事故物件専門不動産

不動産屋事務所(夕)

「あの〜」

若者。一人の冴えなそうな男が訪ねてくる。
スーツ姿の男性がデスクで作業をしている。メガネをかけている。

「はい、いらっしゃいませ」
「事故物件を取り扱ってるって聞いたんですけど…」
「あぁ、どうぞどうぞ。こちらお掛けください」

若者が座る。

「今日はどのような物件をお探しで?」
「あの、家事全般をやってくれる、とかって…」
「あ〜できますよ、たとえば…こちらなんていかがでしょう?40代男性の霊がいる物件なんですけど、だいたいの家事は全部やってくれますね。ただ、料理はあまり評判は良くないっていったところです」
「へ〜、なるほど。こういう感じなんですね。男性か…あ〜、料理は美味しい方がいいですね…」
「なるほど。じゃあこちらなんていかがでしょう?元料理人の霊がいる物件です。イタリアンだったかな?まあでもこの方料理だけなんで。家事とかあんまりなんですよね」
「あ〜、なるほど。家事はやってもらいたいかなって。女性とかの方がありそうですかね」
「あぁ、そうですね。こちらとかいかがでしょう?元々専業主婦の方ですね。この方は料理の評判もいいですよ。」
「専業主婦!いいですね」
「はい。3児の母親だったみたいです。一番下の子が成人した時に亡くなっちゃったみたいで。」
「あぁ、そうなんですか。ん〜」
「どうされました?」
「あ、あの〜、なんていうか〜、もう少し…若い方とかって…いたりしますか?」
「あぁお客さん若くて可愛い霊をお探しなんですか?」
「あ!いえ!そんな!下心とか、あるわけじゃないです!」
「ははっ、そうなんですか。今若い女性の霊がいる物件の空きがなくですね。やっぱり人気なんですよね。霊とはいえ同棲みたいなもんじゃないですか、帰ったら家にいるわけなんで。男性の方にももちろん人気なんですけど、女性からしても安心するみたいで。今予約待ち状態なんですよ」
「あぁ、まあそうですよね…じゃあ掃除と料理だけそれなりにやってくれるような霊がいる物件がいいです」
「なるほど。そしたらこちらなんてどうでしょう?生前ライフハックを紹介してたインフルエンサーの物件で、掃除がピカイチですね。料理も結構美味しいみたいで。若くて綺麗めの男性なんですけど、ちょうど空いたとこなんですよ。」
「あ、うん。いいですね」
「一回見に行ってみます?」
「あ、はい。あのでも僕霊感とかないんですけど…」
「大丈夫ですよ。向こう次第なんで。霊感とかってこっちどうこうじゃないんですよ。向こうが姿を見せるかどうかなんで」
「そうなんですか。わかりました。じゃあお願いします」

マンション室内

「すごい広いですね。しかも綺麗。だいぶ安いですよ。」
「まあまだ事故物件に抵抗ある方も多いですからね。これから上がってくと思いますよ」
「あの〜の…れ、霊はどこにいるんですか?」

幽霊が出てくる。

「はい、挨拶して」
「あぁ、どうも。こんにちは」
「うわぁ」
「あ、驚かないでください。危害は加えませんので。」
「ほら、ちゃんと自己紹介して」
「あ、初めまして。田中と申します。享年23歳です。ここに住み憑いている理由は、誠に勝手な理由で自ら命を絶ってしまったからです。危害を加えるような気性は持ち合わせていませんので、安心してこの部屋にお越しください。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ…よろしくお願いします…」
「掃除と料理を主にやってほしいみたいなんだけど、田中くん得意だよね?」
「もちろんです。任せてください」
「うん!ありがとう。お客様いかがでしょう?気に入っていただけましたでしょうか?」
「はい!すごく感じもいい方で。安心できました」
「よかったです、じゃあ一旦事務所に戻って、その後の流れを…」

大家さん宅(昼)

不動産屋がインターホンを鳴らす。
SEインターホン
大家の女性(60代)が出てくる。

「は〜い!」
「お世話になっております。不動産屋です」
「あぁもうわざわざ!いつもご苦労様ね。」
「いえいえ!たまたま近くを通る予定があったので、先日1件契約したご報告も兼ねてと思いまして」
「あぁ、あのインフルエンサーのとこ?あれ大変だったでしょ!生前のあの子ほんと手つけられなくて。騒音問題起こすわ、退去しろって言っても全然出て行かないわ。大変だったんだから。で、大丈夫だったの?」
「はい、なんとか。教育すればいい状態には仕上がりましたよ。お客様も喜んでくださってると思います」
「あらそう。あなた学校の先生にでもなればいいのに。なんてね。ハハハッ」
「ハハハッ」
「あ!そうだわ。これあまり大きい声で言えないんだけど、〇〇マンションの201号室、大学生の可愛い女の子が入居してるんだって」
「〇〇マンション…へ〜」
「そこの大家とも私仲良しだから!なんかあったら、紹介するからね!」
「いつもありがとうございます。”なんかあったら”…その時はよろしくお願いします!」
「うん、はい、はい。それじゃあ気をつけてね!はい、どうもありがとう」

扉が閉まる。不動産屋が不適な笑みを浮かべている。口元アップ。
環境音、SEカットアウト。少し引きの絵を映し、タイトル。

タイトル 事故物件専門不動産

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