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槇原敬之さんの楽曲はなぜ愛されるのか?その魅力・作曲を分析してみた・中

前半では、槇原敬之さんの初期の楽曲の分析をしていきました。
槇原敬之さんの楽曲はなぜ愛されるのか?その魅力・作曲を分析してみた・前

キャリア中期になると、牧歌的な雰囲気から一転、今度は16分音符を多用する楽曲がヒットし始めたのです。
8分音符で作るメロディは美しく、穏やかな雰囲気を持っている反面、〝聴き飽きる〟要素も持ち合わせている気がします。
そんな8分音符メロディのデメリットを、槇原さんはどのように回避していったのでしょうか?

槇原敬之さんの楽曲の魅力:イメージ転換を軽々とやってのけた

世間が一様にビックリしたのは、1999年に発表されたHungry Spider。メロディが不安定に動き、歌詞の言葉を次々に投げかける作曲手法は、前期のシングルには見られなかったものです。
自身の作品を軽やかに変化させ、卓越した作曲能力を見せつけた、まさに第2章の開幕を思わせる曲でした。

6)Hungry Spider

22thシングル。蜘蛛が蝶に恋をするが、ある日蝶が蜘蛛の糸に引っかかってしまうという内容。衝撃的なPVも話題になりました。
売上:351,590枚

シンコペーションのリズムを多用した曲で、非常に歌唱が難しいです。ラテンリズムのメロディと、情熱的な恋の歌詞がシンクロした名曲と言えるでしょう。フレーズ終わりの不安定な着地が、曲全体の不気味さと不安感を演出しているような気がします。
あえて「カッチリさせない」工夫が見えます。

7)Are You OK?

24thシングル。
売上:37,030枚

16分音符のshuffle(シャッフル)リズムで作られた楽曲。
shuffleとは、別名swingとも言い、ふたつの連続した音符のうち、初めの音符の長さを長めにとり、ふたつめの音符を短くするリズムのことを言います。ジャズ、もしくはジャズに影響される曲に用いられるリズムです。
なんだか言葉にすると難しいですねぇ。
普通の16分音符がカタカタカタカタ。
16シャッフルは、カッタカッタカッタカッタ。
・・・うーん、聴いた方が早いです。(笑)
きっちりした曲を書いてきた、どちらかと言えば地味めな印象だった槇原さんにとって、跳ねるリズムで、華やかなショーミュージックのような雰囲気のこの曲も挑戦的だったと言えます。

【シングル年表②】

●=8分音符 ★=16分音符
※サビの部分で多用されているリズムで分析します。

1998年~2002年
★HAPPY DANCE
★STRIPE!
★Hungry Spider
●桃
★Are You OK?
★雨ニモ負ケズ
★花火の夜

槇原敬之さんの楽曲の魅力:16分音符で〝歌って伝える〟から〝語って伝える〟曲に変化

槇原敬之さんのキャリア中期には、人間愛や倫理観のメッセージを盛り込んだ歌詞の曲を多く発表しています。
その際、メロディアスなキャッチーさは残しながら、リズムを速くすることで〝歌う〟から〝語る〟方向へと、楽曲の形をシフトしています。
より多くのメッセージを伝えたい、親しみやすく話しかけるように伝えたい時に、こういった手法を使います。
フォークシンガーと言われる皆さん、例えば吉田拓郎さん、井上陽水さん、加藤登紀子さん、川本真琴さんや榊いずみさんなども、こういった技法で作曲されていますね。

私たちが普段話している会話のリズムは、実はほとんどが16分音符です。
例えば、「ありがとう」という言葉のリズムは、

「今日のご飯はカレーがいいな」だったら、

このように16分音符は、私たちが普段聞き慣れているリズムなのです。

8)これはただの例え話じゃない

27thシングル。
売上:16,090枚

怒りやその怒りに準じた行動からは、何も生まれないと歌った歌詞を、まるで小説のように言葉の羅列で書かれています。
この時代の槇原さんの曲を象徴するかのような16ビートのリズムです。
特筆すべきは、音域が他の曲よりも低めに設定されていること。
喋る際の音域、すなわちナチュラルボイスを意識しているとわかります。
非常に語りを意識した曲と言えるでしょう。

9)僕が一番欲しかったもの

32thシングル。
売上:80,995枚

この曲を聴くと、美輪明宏さん主演舞台「愛の讃歌~エディット・ピアフ物語~」の中の、
「とにかく与えて与えて与えっぱなし。それが愛よ。」
というセリフを思い出します。
自分本位ではなく、相手本位。見返りなど求めず、与え続けることが無償の愛だということを歌った歌詞です。

前述のこれはただの例え話じゃないに比べると、かなり歌寄りにシフトしていますね。
ドラマティックな山のあるメロディ、繰り返しを伴うキャッチーさ(1段目から4段目までの形が同じですね)もあり、さらに槇原さんの高音の声を生かした作品になっています。

この歌では前述のAre You OK?と同じく、16分shuffleが用いられています。
ミュージカルの楽曲などでは、16分shuffleが使われる場合が多いです。
言葉の伝わりやすさを第一に、聴きやすさ、心地よさを追求した結果かもしれませんね。

【シングル年表③】

●=8分音符 ★=16分音符
※サビの部分で多用されているリズムで分析します。

2002年~2006年
★これはただの例え話じゃない
★Wow
●君の名前を呼んだ後に
★Good Morning!
★優しい歌が歌えない
★僕が一番欲しかったもの
●明けない夜が来ることはない
★ココロノコンパス
★ほんの少しだけ

ポツポツと数曲だけを摘んでいきましたが、曲の傾向は明らかに初期から変化しているのがお分かりいただけるかと思います。

もう一度、前期の楽譜をご覧ください↓

楽譜でチェック→槇原敬之さんの楽曲はなぜ愛されるのか?その魅力・作曲を分析してみた・前

年表を見ても、★の数(16分音符曲)が、明らかに増えています。
長きに渡り、ファンを飽きさせることなく第一線で活躍した裏には、こういった試行錯誤の歴史があったのですね。

そして、そういったチャレンジの真っ只中に誕生したのが、2003年にSMAPに提供した世界に一つだけの花です。

10)世界に一つだけの花

SMAPに提供した楽曲。トリプルミリオンを達成し、国民的大ヒットを飛ばしました。平成で一番売れた曲でもあります。

ノリよく、かつ言葉を大切に出来るタッカのリズムを多用し、速すぎず遅すぎない。
だからこそ誰にでも聴きやすい、歌いやすい、覚えやすい曲に仕上がっています。
タッカのリズムは、8分音符と16分音符が合わさった形。要は、初期の槇原さんのリズム系と、中期の新しいチャレンジから生まれたリズム系が融合された形なのです。
これが一つの完成系だったのかもしれませんね。

2007年に、ある曲がヒットしてから、槇原さんの楽曲にさらなる変化が訪れます。

次回、また分析していきましょう。


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