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槇原敬之さんの楽曲はなぜ愛されるのか?その魅力と作曲を分析してみた・前

シンガーソングライターの槇原敬之さんが覚せい剤の所持で逮捕されてしまいました。
青春時代をマッキーの歌を聴いて過ごし、大人になった今も新曲をチェックしたりしていましたから、僕自身とてもショックで、非常に残念です。
日本全国に同じ気持ちの方、たくさんたくさんいらっしゃることでしょう。

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30年間音楽界の第一線で活躍し、強いメッセージ性のある歌詞を、大らかな声と穏やかな音楽で歌い、聴く人に暖かい気持ちを届けてくれました。
今回から初期・中期・現在に渡って、槇原敬之さんの曲の魅力を分析していきたいと思います。

槇原敬之さんの楽曲の魅力:8分音符を駆使するスペシャリスト

初期の槇原敬之さんの曲は、ほとんどの曲で8分音符を多用してあります。
8分音符の曲は、牧歌的な雰囲気を持ち、かつゆっくり聴きやすいリズムで、言葉も丁寧に残っていきます。
それが、ご自身の柔らかな声質や人間味のある歌詞、繊細な恋心などとマッチしたのでしょう。

たとえば、童謡などでは8分音符がほとんどです。
・お正月
・春よこい
・夏の思い出
・赤とんぼ
・虫の声
・ゆき

日本人には昔から馴染みのあるリズムだと言えますね。
ただ、逆に言えば、作曲する上では、牧歌的になりすぎる、新鮮さに欠ける、幼く聴こえるという難点もあります。
難点を克服しながら、槇原敬之さんがどのような楽曲を生み出したのか、楽譜で分析していきましょう。

1)どんなときも。

どんなときも。教材

3rdシングル。ご自身最大のヒット曲にして、国民的名曲。
売上:1,669,980枚

タイトルを畳み掛けるように8分音符で歌った後、「好きなものは好き」「言える気持ち」「抱きしめてたい」とゆっくりメッセージを伝えるようなリズムになっています。だからこそ、様々な人の琴線に触れたのでしょう。童謡でも使われるリズムばかりですが、僕が僕らしくあるの部分のコードが、

G♯m→A♯→D♯m
となっており、未来への不安や気持ちの高ぶりを和音で表している感じがします。
このコード感が、童謡と一線を画すのでしょう。
ちなみに童謡なら
G♯m→A♯m→D♯m
というコードになるでしょうね。

2)もう恋なんてしない

もう恋なんてしない教材

5thシングル。ドラマの主題歌として大ヒットしました。
売上:1,396,680枚

♪言わないよ絶対~という歌詞に「言わないんかい!!」と当時はみんながツッコミを入れていましたが、オチの前にメロディが盛り上がる山場があるからこそ、このボケが生きるのです。この2小節だけで1オクターブの音域差があります。童謡に比べるとメロディの跳躍、自由度が大きいのです。
冒頭の部分は、聴く人が覚えやすようにホップ・ステップ・ジャンプという3段活用の作曲法が用いられています。
以前の記事にも書きましたので、ぜひこちらもお読みくださいね。

Lemonはやっぱり凄かった!米津玄師に学ぶ「ポップステップジャンプ」作曲法!

3)SPY

SPY教材

12thシングル。こちらもドラマの主題歌としてヒットしました。
売上:866,000枚

マイナー調の曲でも、8分音符作曲は健在です。アウフタクトを使ってメロディで焦燥感を演出しています。アウフタクトというのは、小節線の前に現れる音のこと。このアウフタクトメロディが、恋人の密会現場を目撃してしまった歌詞と見事にマッチしているのです。

4)素直

素直教材

17thシングル。初の試みとして、ピアノ1本のみの弾き語りで作られたバラードです。
売上:145,150枚

シンプルな美しいメロディがほぼ同じ形で4巡繰り返され、ピアノ1本でも印象に残る曲に作られています。曲全体を聴いていただければ分かるのですが、とても〝間〟のある歌です。僕なんかは間が怖くて、ついついメロディや言葉で埋めたくなってしまうのですが、この歌は間さえも音楽として成立させています。ピアノの余韻が残る空間に、静かな時であったり、静かな心の動きや決意が感じられるのです。
槇原敬之さんの8分音符作曲メロディとお声を、最大まで生かし、追求した傑作と言えるでしょう。

【シングル年表①】

1990年デビュー当時~1998年初頭まで
●=8分音符 ★=16分音符
※サビの部分で多用されているリズムで分析します。

●NG
★Answer
●どんなときも。
●冬がはじまるよ
●もう恋なんてしない
●北風~君に届きますように~
★彼女の恋人
●No.1
●ズル休み
●雪に願いを
●2つの願い
●SPY
★SECRET HEAVEN
★COWBOY
●どうしようもない僕に天使が降りてきた
●まだ生きてるよ
●素直
●モンタージュ
●足音

このように、初期は8分音符をかなり多用なさっていますが、キャリアの途中でSECRET HEAVEN、COWBOYなどのマッキー洋楽POPS(全英歌詞)とも言える楽曲を発表しているのも面白いです。

5)SECRET HEAVEN

Secret Heaven教材

これまでの楽曲とは、明らかに音符の形が違います。
槇原敬之というアーティストとしてのブランディングをしながらも、新しいことにもチャレンジする時期だったのでしょうね。

歌詞を変えアレンジを変え、調を変えメロディを変え、数々の8分音符の曲を世に送り出してきた槇原敬之さん。
稀代のメロディメーカーと呼ぶにふさわしい名曲ばかりです。
このメロディたちに、どれだけの人が心癒されてきたでしょうか。
このまま去ってしまうには、あまりに惜しい才能だと思ってしまいます。

さて、そんな槇原敬之さんも、1998年以降から少し作風が変化していきます。
次回、また分析していきましょう。

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