#6 虐待に出くわして~複雑性PTSD~
(フラッシュバックのある方はご注意ください。)
一人でファミレスに行った日。
私はドリンクバーだけ頼んで、パソコンでレポートを書いていた。
隣のテーブルに両親と5歳くらいの女の子が座っていた。
「食べないと、やるぞ。」
「なんで食べないんだよ。」
「食べないと置いてくぞ。」
父親らしき人が大きな声で女の子に怒鳴っている。
女の子の泣き声。
机がたたかれる音。
ガシャンと音を立てる食器。
何も言わずに笑っている母親。
集中していたはずなのに、
私の手は止まっていて、
動機がして、
泣きそうになって、
頭が真っ白になって、
体がうごかなくなって、
早くここから逃げ出したいと思った。
警察を呼ぶべきなのか。
だけどそんなことしたら、その女の子は親と離れ離れになってしまう。
私自身が体験していたからこそ、それを望まないだろうと思う自分がいた。
高校の担任の先生から、児童相談所の話が持ち出されたとき、
「児童相談所だけは連絡しないでください!」
と必死になって止めていた。
そんなことをしたら母はどんな反応をするか。
家族が崩壊してしまうのではないか。
大学に進学できなくなってしまう。
祖父母とは離れたくない。
恐怖でしかなかった。
私が我慢してもいいから、何もなかったことにしてほしい。
見過ごしてほしい。
荒波を立てないでほしい。
体が勝手に店を出ようとしていた。
会計の時、店員に
「あそこに座っている家族の様子が心配です。
なにかあったら警察に伝えてください。」
と言って店を出てしまった。
店を出た後も、
混乱して、
動機が止まらなくて、
涙が出てきて、
息が荒くなっていた。
何もできなかった自分に嫌気が指す。
あの子はどうなるのだろう。
あの家族の周りにいたファミレスの人たちは、なぜ見て見ぬふりをするのだろう。
これが続くのだろうか。
なぜ「虐待」は加害者も被害者も周りの人も、触れるべきものではないという雰囲気をまとっているのだろうか。
ありふれた問題になった現代、どうか自分事として考えてほしい。