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ep.4 ギリシャ飯と不穏なメール -サントリーニ島の冒険-

サンセットの眩しさを横目に感じながら、そそられる方向へ足を進める。外の席でディナー中のご夫婦二人が、同時に立ち上がり日没にカメラを向けた。私はその二人の背中を見てシャッターを切りたくなった。

崖肌に連なるようにホテルやレストランが立っている。壁をくり抜いたバーの隣に、レストランの調理場が見える。炭火で調理しており、パチパチと炭のたてる独特の音に耳を澄ます。換気扇をとおって漏れる都会の食べ物の匂いとは違う。素材を目の前で調理している、その匂いがダイレクトに鼻を刺激する。旅をするごとにその国の匂いみたいなものを感じとろうとするが、この炭の音と匂いをサントリーニとして覚えていたいような、心地よいものだった。

目の前にケーブルカーが見えてくる。乗り場と思われる建物までは急な階段になっていて、これをのぼる元気は残っていなかった。おもむろ散歩はここまでにする。途中ロバの集団に出会い、20から30頭ほどのロバがあの急な階段をのぼっていった。そういえば朝の白米弁当からちゃんと食べていなかった私は、空腹で海よりもお品書きに目がいく時間になっていた。このあたりは眺めも良いからかパスタの値段が€18とかで、そこまでのものは今要らなかった。

炭火の匂い

階段をのぼるロバ


小道に入ってしばらく歩くと、ファストフードのような、食欲をそそるに徹した写真に値段がのったわかりやすいメニューが目に入る。カウンターのみのお店、名前はミートコーナー。男性二人がカウンターに立っている。ギリシャのサンドウィッチGyros(ギロス/ジャイロス)が€4ほどで、今夜のご飯はここに決める。優しい口調のお兄さんに注文すると、隣にいた映画に出てきそうなストリートシェフ風のおじさんが数秒で作り上げ、お金を払い終わる頃にはもう仕上がっていた。

カウンターに座って食べ始めると、ソロ旅の人が次々とやってきて並んで食べ始める。調理に数秒しか要しないシェフはほとんどの時間、調理台よりも人々が行きかう通りを眺めている。一瞬、通りすがりの人がミートコーナーのゴミ箱を勝手に使う姿を見て、一気にその目が鋭くなった。ちょっとした行為が地元の人と観光客の間に溝をつくってしまうものだ。

ヒマな私はミートコーナーオリジナルTシャツと、シェフのおじさんを交互に見ながらご飯をいただく。その後のシェフも、興味深そうに道ゆく人々を眺めては、時々微笑んでいた。私はこのシェフが微笑んでいる限りいろんなことが大丈夫な気がして何だか安心した。

グリークフードとの出会いは、大学時代。カナダにいた頃、現地の友達が連れていってくれたギリシャ料理のファストフード店にものすごく感動した時まで遡る。ほうれん草の入ったパイに、ヨーグルトのソースがかかって美味しかった。その味が忘れられず。あの時食べた料理の名前はなんだったのかと、カナダ生活の写真を掘り起こして、何かヒントになるものは残っていないかと探した。日本でもギリシャ料理店を探したり、ロンドンでもいくつか訪れた。そしていつか本場ギリシャで食べてみたかった。今日、人生初めて本場の味にお腹を満たしてもらった私は、お店の二人に丁寧にお礼して、暗くなった道を足早にホテルへ向かう。

ピタパンに薄切り肉や玉ねぎとフライドポテトなどが入っているGyros
暗いのにどこいくの?

ホテルへの帰り道。何だかワクワクしてきた。来た道を戻るとまだあのゴリ押しの客引きの彼がレストランの前に立っていた。明日フェリーでミロス島に行き数日滞在した後サントリーニへまた戻るが、できれば明日もここフィラを散策したい。ホテルにフェリー乗り場までの送迎を頼めば午前中に時間ができるので、そうしよう。そう思って、フェリーの時間を再確認しようとメールを開くと、怪しげなタイトルのメールを発見。「Schedule Change(スケジュール変更)」とある。メールの中身を開けると

ΑΓΑΠΗΤΟΙ ΕΠΙΒΑΤΕΣ, ΘΕ ΘΕΛΑΜΕ ΝΑ…

な、なにぬねの?!

ギリシャ語で書かれており理解できない私のパニックは高速道路へ突入。しかしここは慎重に。メールの画面をスクロールすると「明日のフェリーは悪天候のためキャンセルされた」と英語である。ルンルンしていた気持ちも儚くキャンセルされ、ゴミを捨てる観光客を見たシェフのように、表情は一気に険しくなる。

フェリーが動かないということは、明日からミロス島で予約していた三泊分のホテルがなくなる。代わりに泊まる場所は見つかるだろうか。ホテルに戻ると、レセプションにはコーヒーをいれてくれたあのオーナーらしき男性の姿がなく、やる気のなさそうな若い男性がとりあえず座っている。「とりあえず感」がとても伝わってくるのだ。内心パニックの私は、とりあえずマンの彼に状況を報告しはじめるも全く興味がなさそうだった。

明日のホテルの空き状況を聞いてみると、レセプションすぐ近くの部屋なら1室空いているという。値段は明日の朝、オーナーらしき男性に聞いてくれ、とのことで、もうとりあえずマンには期待しない方が良さそうだったが、ついでに天気を聞くと「明日はかなり悪いみたいだ」と言う。この一言だけはなぜか信頼感を持てた。
フェリーは動かない。


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
今日は雨模様のロンドンです。

「サントリーニ島の冒険」は、100ページを超える手書きの旅誌をもとに、こちらnoteで週更新をめざしています。

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