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『ピエール瀧の23区23時』〜セカンドシーズン 江東区編

ピエール瀧が東京23区の各区を夜中に散歩したら一体何が起こるのか?!という自由徘徊実験企画。決まっているルールは“23時になったら写真を撮る事”“100円自販機を見つけたら興味本位で味見をする事”のふたつ。それ以外は基本行き当たりばったりのゆるゆる企画。ファーストシーズンは2010年に開始。その模様は『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター/刊)として2012年に書籍化されている。10年後の2020年、セカンドシーズンがスタート。

江東区編

23区_江東区

ゆりかもめ「市場前」駅スタート

−これから夜の東京23区を順番に散歩していくわけですけれども、瀧さんそもそも夜の散歩はいつぐらいから始めていたんですか?

瀧:高校を卒業して、東京に出てきてからかな。最初は姉ちゃんと初台に住んでたんだけど、金もないし暇じゃん。知らない土地だし、俺の住んでる街ってどうなってんの?と思って夜中にウロウロ歩き始めて。夜だと狭い範囲しか見えないから、昼に見てなかったものを見つけたりするし。普段は曲がらない角を“こっちにも曲がってみよう”ってやってるうちに、曲がったことがない角があると気になってしょうがなくなっちゃってさ(笑)それから何度か東京の中で引っ越したんだけど、引っ越す度に同じことやってたのよ。撮影で地方に行っても、夜ホテルの周りをひとりでウロウロしたりしてるもん。まあ趣味なんだよね。

YOUR RECOMMENDATIONS(ピエール瀧のyoutubeチャンネル)でも、ウラジオストクに到着した日の夜に散歩してましたもんね。

瀧:そうそう。自分が今いる場所がどんなところなんだろう?っていうのを知りたいっていうかさ。でも観光スポットとか、どこか目標に向かって歩いていくってのはあんまり得意じゃないのよ。ウロウロ歩くとどこに出るのかな?っていうのが俺の散歩の流儀かな。コロナ自粛期間中も家族と一緒に車で河原や海辺に行って、何時間もひたすら歩いたりしてた。落ち着くしさ。結局まああれだよ、好きなんだよね、こういうことが。

市場前駅

-第1回は江東区です。豊洲市場最寄りの「市場前駅」からスタートして、東京オリンピック会場予定地を経由して若洲公園を目指します。公園で釣りをしてから、市場見学に行きましょう。瀧さん、釣りは以前からよくやられているんですか?
瀧:最近また始めた。だけど陸っぱりからはやってない。大体船に乗ってやってる。やっぱり船に乗った方が釣れるからさ。
-今回歩くエリアは、100円自販機が無さそうですね。
瀧:いやいやいや、絶対あると思うよ。100円自販機業界を舐めたらいかんよ。今日はすげえ距離を歩くルートだけどさ、やっぱり一人で歩くより、誰かと一緒の方がたくさん歩けるよね。
-しかも安倍首相が退任を表明した日ですからね。
瀧:そんな日にオリンピックの会場を観に行くっていうね。だってあの人、オリンピックを有終の美にして辞めるつもりだったんでしょ?それがおそらく思い描いてたストーリーなんじゃないの?
-それがコロナ禍で儚く崩れ去った感じですね。
瀧:前回の「23区23時」はさ、スカイツリーが7割方完成してた時にやってたから、世の中的にもスカイツリーの話ばっかりだったけど、今やもう誰も話題にしてないじゃん。オリンピックもそんな感じになるのかな。お、「有明北橋」だって。一応写真撮っておこう。もうちょっと雑草を刈ってあげれば良いのに。

有明北橋


瀧:すげえな。豊洲の誰も見かけないような場所なのに、夜走ってるランナーいるんだね。おそらく湾岸の高層マンションに住んでる人だと思うけど、どんな暮らしをしてるんだろう?
-瀧さんはマンションに住んだことってありますか?
瀧:住んだことはあるんだけど、一番高くても5階。落ちたら即死んじゃうくらいの高さのところって感覚的に住めなくてさ。だから、高層マンションの上の方に住める人ってのは感覚的に俺とはまったく違うんだろうなぁって思うな。

東京オリンピック会場予定地

BMX会場

-あっちに何やらスタンドがありますね。
瀧:なんか観客席あるじゃん。あそこオリンピック会場なのかな?でもなんか狭くない?
-スケボーやB M Xかもしれないですね。
瀧:足場みたいなのが組んである。そしてその向かいにはアンダーアーマーのでっかい建物。さらにその横もスタンドになってる。
-建設計画のお知らせがありますね。「東京オリンピック有明B M Xコース」と書いてあります。
瀧:B M Xか。兄妹揃って有名な選手いたよね。事故でお兄ちゃんが怪我しちゃったけど、その分妹が頑張る!って言ってた…。
オーストラリア代表の、榊原魁と爽ですね。そこを右に曲がると、有明コロシアムがあります。東京オリンピックではテニスで使用される予定ですが、格闘技でもよく使われます。何か観に行かれたことありますか?
瀧:有明コロシアムは行ったことないんだよね。大きいの?
-1万人入りますね。
瀧:そうなんだ。あ、TOKYO2020のマークを発見。

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-今年オリンピックやってたら、観たかった競技って何かありました?
瀧:野球。あと100m走の決勝はやっぱ単純に観たいよね。マラソンはそんなに観たいとは思わなかったし、結局北海道でやることになっちゃったけど、俺ずっと首都高でやればいいのにと思ってたんだよね。散水車に前走ってもらって、打ち水しながらやったら涼しくていいんじゃないのって(笑)
84年のロス五輪みたいですね、あの時も高速道路でマラソンをやりました。
瀧:そうだったっけ。首都高はアップダウンあるから結構な難コースになっちゃうだろうけど。でも、来年本当にやるのかな?
-難しいと思いますけどね。
瀧:そうかもね。なんかこの辺ってさ、子どもたちが学校通うのも大変そうじゃない?

ファーイーストビレッジ


-学校がパンクして大変みたいですよ。高層マンションが一棟建って、そこに若い夫婦たちが引っ越してくると、それだけで子どもが一気に増えちゃうので。
瀧:そうか、そこだけマンモス校になっちゃうわけか。都市計画ってそういうことを考えないで進めちゃうことあるんだな。あそこに見えるヤツも高層マンションだ。名前が「ファー・イースト・ヴィレッジ」=「極東の村」か。欧米の人が考えそうな名前だよねぇ(笑)。しかしホント誰も歩いてない。そして「落書き禁止」の張り紙があった。そういえばタギングもあんまり見ないね
-この辺、人が歩いた形跡があんまりないですよね。
瀧:そうね。夜だけじゃなく、昼間も人歩いてなさそう。コロナとか関係なく。この辺だと歩く用事が無いっていうかさ、まあそりゃそうかもな。そして凄いよ、この壁に貼ってあるステッカー。目が動く。右に動くと、ちゃんと右向いてるように見える。これ結構コストかかってると思うな。

ステッカーcollage


-向こうに有明アリーナが見えてきました。オリンピックではバレーボールの会場として使用される予定です。まだ工事終わってない感じですね……。
瀧:「安全第一」って書いてあるままだし、なんか止まってるね。デカいなあ、ここも。フィニッシュ工事もやれなかったんじゃないの? コロナで。工事予定表が書いてある、本当は去年(2019年)の12月に完成してるはずだったのか。

有明アリーナ
建築主小池百合子

瀧:あ、「建築主 小池百合子」って書いてある(笑)。連絡先が「東京オリンピック・パラリンピック事務局」か。そう言えば、豊洲も元々は埋め立て地だよね?前来たときも思ったんだけどさ、この辺の埋め立て地って土地の神様がいない感じするよね。
-確かに、お地蔵様とか見かけないですね。
瀧:そうでしょ。なんかこう、地神の主がいない感じ。でも風は涼しいな。海沿いだから海風がちゃんとある。

昭和の香り東雲公園

瀧:「東雲2丁目団地入口」。綺麗な団地だね。東雲を歩いてるの生まれて初めてかも。これで「シノノメ」って読むんだよなっていうのは、車で通り過ぎるときにいつも思うんだけどさ。
―普通に走るだけのドライブもするんですか?
瀧:するする。あてもなく走っていって、あてもないところで降りて、あてもなく歩いたりする。
―車、一回映画賞でもらってましたよね。
瀧:2013年の毎日新聞映画賞で男優助演賞を受賞して、ティアナっていう日産の車を新車でもらった。それはしばらく乗って、その後、当時の担当マネージャーにあげちゃった。なんか賞でもらった車を売っぱらって金にするのに気が引けてさ。元々「凶悪」っていう映画がきっかけでもらったからさ、その映画の監督の白石さんに「監督、車乗り換えようと思うんですけど、車を売るのは気が引けるんで映画に関わった人に渡した方がいいかなと思ってるんです。ということで車いります?」って聞いたら、「僕車買ったばっかりなんでいいです」って言われて。そうですかって(笑)。で、マネージャーにあげた。お、公園があった。この感じいいね。この辺りの土地の元々の気質はこの感じなんじゃないの?東雲公園いいじゃん。

東雲公園


―ここはちゃんと人がいそうですしね。
瀧:そうそう。子供がちゃんと走り回った跡がある。しかし東雲公園、なぜすべり台が2つある?(笑)。
―使う子が多いんじゃないですか?
瀧:そう? ブランコでしょ子供が喜ぶのはやっぱし。
―すべり台、なんとあっちにもう一台ありました。
瀧:三つもあるのか!東雲公園(笑)。このブランコなんて、俺が子供の頃くらいからありそう。
―だいぶ年季入ってますね。
瀧:(乗りながら)でも昔と違うのはさ、下にゴムマットみたいのをちゃんと敷くようになったよね。超気持ち良いわ、夜のブランコ。でも通行人2人にすげえ見られた。夜中におっさんがはしゃぎ回ってるから警戒だって目で。

ブランコに乗る瀧


―普段から夜中出歩いてるんですよね?
瀧:相変わらずウロウロしてる。去年の夏頃も、夜中に多摩川まで車で行って、土手を延々歩いたりしてた。コロナで非常事態宣言の時は、車で九十九里の方とかも行ったりしてたよ。まず家で弁当作って、嫁と子供に「どこも寄らないからな」って宣言して出発。サービスエリアも寄らない。で、九十九里の海岸辺りで見つけた四阿(あずまや)で弁当を広げて食べて。食べ終わったらまた車に乗って誰にも接触せず、どこにも寄らずに帰ってくる。でもそれからしばらくしたら、「九十九里海岸の辺りで県外からサーフィンやりにきてるヤツらがいてけしからん」っていうムードになっちゃったのよ。なんか東京ナンバーが行くのがはばかられる感じになっちゃった。じゃあどうしよう?って、また多摩川の土手を延々歩いたりしてた。だけどそれはそれで楽しかったけどな。家族3人で歩くの。
―夜の時間帯ですか?
瀧:そう、夜。子供もずっと学校に行ってないから、それこそ23時ぐらいの時間にふらっとコインパークに車を停めて、家族でお菓子ボリボリ食べながら歩いて帰ってくるだけ。ガス橋とか多摩川下流のあの辺を。「ここ俺が指揮してゴジラにやられたところじゃん」とか言いながら(笑)

車両のベッドタウン

―左側になんか銅像ありますね。
瀧:国際自動車か。国際自動車だからタクシーの会社だ。これ多分創業者の人じゃない?
―あっちに「ソーシャルディスタンス」って旗も見えますね。もうすぐ23時です。
瀧:じゃあ今回の23時の写真はダブルで(笑)

23時ダブル


瀧:やっぱ夜はさ、いろんなことを許してもらえるからいいんだよね。触ったから一応ちゃんと消毒しとこう。そして東北急行バスの会社もあった。江東区ってこんな感じでタクシーとかバスとかのねぐら的な感じにもなってんのかな。土地いっぱいあるだろうから。

東北急行


―板橋の競艇場あるじゃないすか。あそこに競艇見に行ったときに、渋谷の周りで「バニラバニラ高収入」って流してる、キャバクラとかの求人広告トラック、あのトラックが板橋の競艇場の横にすごい並んでて。こいつらはここから来てたのかと思ったことを今思い出しました。
瀧:なるほど。そこが広告を仕切ってる訳じゃなくて、トラックのねぐらになってんのね。途中まで、競艇で負けた奴にキャバクラで働けっていう話で言ってんのかと思ってた(笑)。効率的だなと思いながら。キミ今文無しになっちゃったっしょ?みたいなさ。キャバクラとかも今大変だろうな。
―やばいですよね、ピンポイントで狙われてますからね。
瀧:でも俺、緊急事態宣言が解除された直後にさ、それまでずっと家でじっとしてた人達、例えば地方から単身赴任で来てる人達が「人と触れ合いたい」と思って、キャバクラとか風俗とかに行っちゃった気持ちは責められないと思うんだけどね。そこでコロナにかかっちゃった事実は確かにあるのかもしれないけど。まだ俺ら家族いるからいいけどさ、単身赴任とか、大学生とか、独身一人暮らしの奴で、地方からひとりで東京に出て来てて親戚とかもいなかったら、1ヶ月人と会わずに家でじっとしてろっていうのは苦行だよ。その後、宣言解除ってなって、人のぬくもりを感じたいっていうのは普通のことだと思うんだよね。
―単身者はキツかったでしょうね。

都営バス


瀧:ホントだよ。そしてあそこも都営バスのねぐらになってる。そうか、意外に始発で乗れていいみたいなのはあるかもしれないよね。「座って出勤できます」みたいな。
―確かに銀座くらいまでならあっという間ですしね。

意外な100円自販機


バイカー

瀧:お、ここバイカーそろい踏みじゃんか。バイカー連中がなんか集まってんね。
―そして自動販売機がいっぱいありますね。
瀧:これは珍しいマシンだな。100円?違う、90円か。紙パック?これはありかも。今までなかったパターンだ。この中だったら…、8種の野菜のクリーミーポタ? ポタージュのポタか! うわあ真夏にポタージュかよ(笑)。じゃあ行くしかないな。

自販機collage

うわ、デカッ!え?冷たい……。氷が入ってる……。では、いただきます(飲む)。うん、みんなが思ってる粉末の野菜スープあるじゃんか。あれの冷たいやつだ。8種類はわかんないけど、旨味はある。
―僕も飲んでみます、次いつ出会えるかわかんないんで。
瀧:塩分は取れるよ。今のこの、汗をかいてる瞬間にはいいかも。冷たいのはいいんだけどさ、氷が入ってるのはちょっと嫌だわ。
―飲んでみます。ああ、なるほど(笑)。
瀧:冷たいクノールじゃない?(笑)。

ポタージュ飲む瀧

二輪はなんか無理

―瀧さんって二輪免許持ってます?
瀧:ない。原付しかない。欲しいなとはちょっと思うんだけど、それは仕事上で取っとこうかなと思うだけ。バイクいいなぁとは思うんだけど、絶対にコケない自信はないっていうかさ。もし事故ったら痛いじゃ済まないじゃん。膝が逆に曲がってるのとか見たくないなって。
―すごい乗りたいは乗りたいんですけどね。
瀧:それはある。だから今四輪のやつあるじゃん、曲がるの大変なやつ。あれとかならノーヘルで乗れるし良いと思うんだけど。でも湘南の方に住んでるならまだしもさ、東京であれだとちょっと邪魔かなって。この場所はなんでみんな集まるんだろうね。ツーリングで来た人が、ここで集合&ひと休みみたいな感じなのかな。
―バイク乗りの人たちって、バイクで集まれる場所の情報網をちゃんと持ってるんですよね。
瀧:ああ、何か横の繋がりとかありそうだもんね、バイクの世界って。

江東幹線

瀧:これどっち行くべきだろう。
―首都高に沿ってずっと歩くって感じですね。
瀧:行き先に箱崎、浦安って書いてある。
ブオンブオンブオンブオン~(爆音のバイクが数台通り過ぎる)
瀧:今のは浦安の子達じゃない、多分(笑)。そうか! これ、レインボーブリッジから来て、浦安の方に抜ける高速(東関道)の下の道だよね。
IKEAとかがある方ですね。でも、この辺も人が歩いた形跡がないですね。
瀧:そうね。朝おばあちゃんとかが犬連れて散歩するくらいかな。ここって車が通る道じゃなかったんだ、急に細くなっていく。

スケボーの道?


―もうこれ、どこ通るのが正解なのかわからないですね。
瀧:どういう意味の道なんだろう。若い子達この辺でスケボーやりゃいいのに。ここなら別に怒られないだろうしさ。
―人もいなさそうですもんね。
瀧:やっぱりこれ東関道だ。上しか走ったことないな。
―これから上を車で走るたびに、「ああ、ここ歩いたなあ」って思うんでしょうね(笑)
瀧:そうね(笑)。この道、江東幹線て言うんだ。「辰巳の森緑道公園」がある。ちょっと地図を見よう。俺らこの若洲公園に向かってるんだよね?すげえとこに行こうとしてるね、こうして見ると。

案内板


―江東区は東京23区の中では6番目に広いんですよね、ちなみに1位は大田区です。
瀧:やっぱエッジの区、端っこの区の方が面積は広いんだね。
―あと、大田区と江東区は増えますよね、埋め立て地があるから。
瀧:そっかそっか。海方向に伸ばしていける。昔から埋め立てて拡げていった土地だもんね。前の本の時も話したよね、埋め立て地だから神社仏閣がないのかもって。とはいえ、大田区の方だと海に向かっての神社があったりするじゃない。海神様的な感じのやつ。でも江東区は今のところその感じ見ないね。

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