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ワーホリでカナダに出発する当日


成田空港から出発する

 前日から荷物の超過が防げないことは、気づいてた。
 なので、超過を覚悟して受付を待っていったのだけれど、乗務員さんが段ボールに入れることができれば超過料金はかからないからと言ってくれた。
 それに荷物を入れることで超過を防ぐという手法のため、私は必死に詰め込んだ。エバー航空のスタッフのみなさんがいい人すぎて、私は心から感謝した。
 成田空港にいると、不安や寂しさが込み上げてきて、訳もわからず大泣きしてしまった。ここ4年ほど、色々なことが積み重なり、人生で一番しんどい思いをしていたから、そういうのもきっと込み上げてきてしまったんだと思う。
 パートナーと離れる寂しさもあったのかもしれない。
 31歳になっても、私はずっと子どものままだ。
 ただ、泣いても「行かない」という選択肢は自分の中にはなく、「私は行かなくちゃいけないんだ」という直感に従うほかなかった。
 昔からそうだった。周囲に変だと言われても、自分自身「なんでこんなしんどい道に進もうとするんだ」と思っていても、私は何か動かずにはいられないのだ。


早速ものをなくして、やらかす

 ひとしきり泣いたあと、出国の審査をしにいった。
 リュックがセンサーに引っかかった。筆箱がダメだったらしい。
 「筆箱の中身はスキャンできないから、確認しなくちゃいけないんだよ」と、陽気なおじさんに言われた。
 そのアクシデントと、緊張のし過ぎのせいなのか、保安場にコートとマフラーを忘れた。ボーイングタイムきっかりにゲートにつき、マスクを取り出そうと鞄をごそごそしていたときだった。?マークがふと浮かんだ。
 自分、身軽すぎないか?
 何かが足りない。こんなに荷物が少ないわけない。
 そう思ったとき、ぴんときた。

 コートとマフラーがない!

 気づいて大慌てで走り出すが、保安場が思ったより遠かった。途中で引き返し、汗だくになりながら、諦めかける。
 自分は本当にあほだと思いながら席に座ってから、友人から「諦めるな!」というLINEが届いた。早々に忘れ物をしたことを報告していたのだ。
 その一言でとりあえず少しの気力を取り戻し、スマホで調べてみると、「搭乗員さんに聞くと良い」という当たり前だけれど素晴らしい指摘の内容を見つけた。
 勇気を出して聞くと、当然のようにスタッフの人たちの顔が曇る。
 完全に私が悪い。搭乗時刻の15分くらい前の出来事だった。
 スタッフの人たちは迅速に動いてくれた。
 一度保安場から「見つからない」という回答がきたが、違う女性が機転をきかせて違うフロアにも電話をかけてくれていた。
 私は搭乗するように言われ、搭乗した。
 出発時刻になる。
 スタッフの女性がコートを抱えて入ってきた。
 私は心の底からお礼を言って、エバー航空さんの良さをみんなに伝えたくいと思いながらコートとマフラーを抱きしめた。
 もう2度とこいつらを手放さないと、恋愛ドラマのラストシーンのように自分自身に誓う。


台湾行きに搭乗し、台湾桃園空港に到着

 台湾行きでは機内食が出た。
 機内は英語と台湾語なので、何を言っているのかよく分からない。
 悪あがきで英語の勉強をしたり、うたた寝をする。映画や音楽を聴いてみたものの、特に面白くなかった。
 台湾は日本との時差が1時間らしい。

 台湾桃園空港のトランジットはスムーズに終わり過ぎて、私はちゃんとセキュリティチェックを通ったのか不安になった。ボディチェックもなかった。もしかしたら、エバー航空で台湾にきたからなのかもしれない。「エバー航空の人はこっちだよ」と、スタッフに案内されたからだ。

 台湾桃園空港では、シャワーを浴びた。
 事前に調べていた無料のシャワールームが見つからず、一生懸命探す。乗り換えの時間もそこまで長くなかったため、私はかなり焦っていた。
 広い空港内をぐるぐると彷徨う。そもそも、私はほとんど空港に来たことがなかったので構造がどうなっているのかさえもよくわからなかった。
 何度か諦めそうになったけれど、どうしても入りたかったので、汗だくになりながら探した。
 ネットで調べた場所にシャワールームがなく、このままでは時間が足りなくなると思い、仕方なくプレミアムラウンジの人に聞いた。
 当然のように英語だった。looksしか聞き取れない。
 値段を渡してきたので、「利用するなら金を払え」ということだけはわかった。
 おかしい。無料だったのでは?と困惑していると、あまりにも私にお金がなさそうに見えたのだろう。
 向こうだと言うように反対側を指差された。無料のシャワールームを教えてくれたのだ。
 お礼を言って、その場から離れる。
 私は心底焦っていたので、シャワールームのサインを見つけたときは心から嬉しかったの同時に、「ネットで調べた情報と全然違う!レストランに囲まれたところにあるなんて誰も思わないだろう!」と少し腹が立った。
 幸いなことに誰も使っていなかった。
 シャワールームに入ると、私は一人で「ありがとう!ありがとう!」と思わず叫んでいた。
 荷物を減らすために着込んでいたから、ものすごく汗をかいていた。気持ち悪い、嫌な状態だった。
 「台湾桃園空港さん、無料にしてくれて本当にありがとう!助かる!ほんとに!神様はいたんだ!」と言いながら、シャワーを浴びた。
 水を買いたかったが、LINE Payが使えず断念する。日本じゃないんだと思った。


カナダ行きに搭乗する

 カナダ行きの飛行機に乗った。
 自分の座席に座るとき、すでに座っていた隣の老年のご夫婦に早速、ネックピローを放り投げてしまう。荷物を整理しようと思っただけなのに、何かひとつドジを踏まないと気が済まない体質なのかもしれない。
 一瞬びっくりしたように目を丸くした老夫婦は、そのあと笑っていた。私は、慌てて謝った。
 乗務員さんが水を配りにくる。私は水に氷を入れてくれるように英語で頼んだでみた。
 飛行機はやけに揺れた。
 私は眠るためにヘッドフォンをつける。ノイズキャンセリングのヘッドフォンはすごい。何かの拍子に外すと、周囲の音の大きさにびっくりした。

 今度は飲み物を配りにきてくれた。水を頼んだ。そのあと、水をくれたので自分の水かと思って、受け取るとどうやら隣の老年のご夫婦の水だったららいい。奪おうとしてしまって、恥ずかしい。飲み物を2つも頼めるんだと知らなかった。多分隣のご夫婦からしたら、こいつ何?と思われるような人間になっていると思う。

 機内食は意外と量が多い。
 お腹がいっぱいすぎて元気になる。歯磨きがしたくなった。
 しばらくしてトイレの中に行くと、さっきまではなかった歯ブラシセットのアメニティが補充されていたので、歯磨きをする。
 歯ブラシの精度がとても悪くて驚いた。
 歯の部分が大きく、歯並びに沿ってやや婉曲した形状だった。歯を擦るたびにブラシ先がバラバラにほつれそうになる。口の中にはほつれた歯ブラシの毛先が少し残った。
 こうならない日本のアメニティグッズは、すごいと思う。

 夜はちゃんと眠れた。一時間に一度くらいの頻度で起きてトイレに行ったけれど、足にむくみなどの問題はなかった。
 トイレの中で両手を上げると、両肩がものすごく痛かった。恐らくリュックが重過ぎるので、肩がいかれたんだと思う。

 隣の老年のご夫婦にトイレに行きたいと起こされる。旦那さんは陽気な感じで、奧さんはお上品な雰囲気だ。英語で話しかけてくれるが、相変わらずよく分からないので、ニュアンスで受け取った。
 毎回、奥さんにものすごい力で腕を掴まれるので、少し驚く。
 メニューを渡す時、どうぞ、の一言が出てこない。英会話レッスンだと使わない言葉だった。

 朝食の機内食が出た。正直あまり動いていないので、食べる気力がない。お粥にした。フライドポテトみたいに浅くスライスされた芋が入っている。一口食べると、初めて食べる風味だった。混ぜて食べると美味しかった。残すか迷い、隣の奥さんが残していたので、私も残すことにした。

 私がトイレに立つと、隣のご夫婦もトイレに向かう。2人とも行きたいんじゃないかと思っていたので、よかった。
 トイレに並んで待つ。乗務員さんに邪魔だから退けと手で追いやられた。ジェスチャーには感情がよく見えると思った。
 前の人が、なかなかトイレから出てこない。私の前に並んでいた人は、「Are you OK !?」と言っていた。「どうしたんだろう?」と思っていると、女性が赤ちゃんと一緒に出てくる。どうやら赤ちゃんのオムツを変えていたようだった。
 並んでいた人たちはその赤ちゃんを見て、にっこりと笑顔になる。赤ちゃんはすごい。

 あと一時間で着く。ここまではコートとマフラーを一度無くしかけた以外順調だ。あとはビザ発給だけ。緊張する。

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