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無題

すごく煌めき深い思い出があった場所、いけないと思いながらもつい立ち寄って眺めたら、とんでもない悲しさでいっぱいになった。
思い出は大抵、思い出すという動作と一緒にあるのに、どのように思い出すか/どういったものを思い出すのかは、自分の意思ではコントロールできないのが悲しい。

白いコンバース、ブランドロゴのガラス窓、土砂降り、不愉快な湿気、愉快なネオン、何でも出来そうな気持ち、濡れたアスファルト、街灯のぼんやりした光。
世界の至る所にそれらは転がっている。ふとした時に私を甘い気持ちに浸らせたり、悲しませたり、そうしながらお互いに荊の棘のついた唇で接吻していた。幸せの中にとんでもない不安定さと苦味が息をしているのに、額に、瞼にキスされる度に耐え難い痛みがやってくる。それなのにどうにか耐えてしまう歪さを備えてしまっていたのだった。
だから今は思い出を抱き締めて眠ることさえしたくない。朝が来たら要らない遠慮と素直じゃない顔を洗って、暖かいトーストと目玉焼きを食べよう。清潔なブルーのシャツを着よう。裸足の爪先と目を合わせてそう頷き合った。

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