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関係代名詞主格の省略に関する一考察

最近、Kazuo Ishiguro の
'The Buried Giant'(忘れられた巨人)を再読している。

作品の内容を楽しむというより、文章を追って文法的に面白いところを探すという楽しみ方をしている。

カズオ・イシグロの英語の文体は、私が思うに「受験英語」を極めた人の英語のようだ。方言はほとんどなく、そのまま暗唱して覚えれば、受験や資格試験の英語の答案で模倣して借用しても良さそうだ。それに対して、スタインベックの作品の英語は、方言が多用されていて、そのまま試験の答案用紙に書いたらバツをもらいそうだ。


ところで、「忘れられた巨人」の原文を読んでいたら、次のような文章に出会った。

…there's something came to me also, …

前掲書p87

There's something comes back to me,…

前掲書p88

私はこの文章を読んで、なんとなく気持ち悪さを感じた。というのは文法的に「破格」なのではないかと。

本来ならば、それぞれ

…there's somthing (which) came to me also,…

There's something (which) comes back to me…

のように、「which」(あるいは「that」)がないと、文として成立しないのではないかと。

というのは、関係代名詞の「目的格」は省略可能だが、この文のような「主格」の場合は、関係代名詞は省略できないからだ。

少なくとも「学校文法」では、そう習った。


資格試験や受験の英語の問題が出題された場合や、論文などでは、関係代名詞の主格は省略しないほうが無難だと私は思うが、次のような場合は、関係代名詞の主格でも省略されうるという。


「連鎖関係代名詞」の場合。


よく高校生の文法参考書に載っているような文だと、

The man (who) I thought was honest betrayed me. 
(私が正直だと思っていた男が私を裏切った)。

この文は、
The man betrayed me. と
I thought he was honest.という文を、関係代名詞を使って1つの文にしたものだ。
「The man = he」だから、主格の関係代名詞「who」が使われている。
しかし、その後ろに「I thought」というように「主語+動詞」がつづくので、目的格が来るように感じられるから、主格にも関わらず「who」を省略しても良い。


「There is, There are」の構文の場合


さきほどのイシグロの文だと、
There is something. と
It comes back to me. という二つの文を1つにするわけだから、本来なら、

There is something which comes back to me. となるはず。主格だから、関係代名詞は省略できないはずだ。

しかし、「There is ~構文」の場合、動詞の「is」よりも前に「there」が来るから、あたかも「there」が主語のように思えるから、「something」は「補語」のような位置にきている。

「それは私です」という場合、
「It is I.」が文法的に正しい表現だが、
「It is me.」のほうが自然に響くのと似ている。

だから、
There's something comes back to me. という言い方も、口語表現では許容されるのだろう。

あるいは私が思うに、
「There's~」「There're~」が、単に存在を表す「副詞」のように、話者が感じるからかもしれない。

こういう例は、(関係代名詞ではないが)ほかにもある。

I have no idea of what to do.
(どうすれば良いかわからない)が文法的に正しい表現だが、「同格のof」を省略して、
I have no idea what to do. という言い方も可能だ。

「I have no idea」が「I don't know」と同じことを意味するから、「of」を省略しても不自然さを感じないのだろう。


むすび


ちょっと細かい文法にこだわってみた。
何らかの参考になればうれしい。


今日はたくさんコングラボートが届きました。何枚か消してしまいましたが。
たまには貼っておこう。


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