連作短編集🏩 | 池袋のラブホにて
彼女と二人で、サンシャイン水族館に行った。アシカが頭上を通りすぎるのも面白かったが、クラゲのライトアップが何より幻想的であった。
「きれいですね」
たいした会話にはならなかった。気の利いた言葉が出てこない。はじめてのデートで緊張していたのだろう。
時計を見た。まもなく5時になりそうだった。
「なにか食べて行きましょうか?」
空腹感はなかったが、彼女は少し腹がへっていたのだろう。こちらから言うべき言葉を先に言われてしまったことを僕は恥じた。
「そうですね、食べに行きましょう」
池袋周辺には飲食店は多い。しかし、どこも人でごった返している。二人だけで静かに食べられるようなところは意外と少ない。
「私はコンビニでもいいですよ。公園で座って、お話しましょうか?」
さすがにコンビニでは、と思ったが彼女が言うのなら、それもいいかな。
「コンビニで、本当にいいんですか?」
「い、いえ、コンビニで何か買ってから…」
「買ってから… …」
気がつくと、そこはラブホ街だった。
「泊まって行きましょうか?」
僕はその時、はじめて彼女の肩に手をあてた。そして、彼女の瞳をじっと見つめた。彼女の頬が真っ赤になっていた。
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