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推理小説 | アパートの一室の恐怖

アパートの一室の恐怖

 あの忌まわしい事件が起こったのは、8月の暑い、否、熱いと言っていい程の日々が途切れ、一気に寒さを感じるようになりはじめた、9月の半ばのことであった。

 いつしかセミがなくのを止めてから、だいぶ時間がたったかに思えた、あの日。世間を戦慄せしめ、未来永劫まで語り継がれるであろう、あの嫌悪すべき事件が起こったのは・・・。

 その事件は、閑静な、とあるアパートの一室で発生した。「閑静な」と形容したが、そのアパートが「完成」してからは、およそ10年ほどの時が経過していた。まだ、いくぶん建物自体の新しさが残っているにもかかわらず、いまだ入居者で埋まっていない部屋も散見された。立地も悪くない。

なぜ?

 近隣の相場価格を考慮すれば、格安のマンションであるはずなのに。。。
 みな、この事件が起こることを、無意識に意識していたからかもしれない。

 事件の概要をお伝えしよう。

 報道によれば、黄茶婆(きちゃば)というアダ名で呼ばれていた68歳の女性は、密室のアパートで殺害された。無惨なことに、銃殺であった。

 頭部と左大腿部に銃で撃たれたあとが残っていた。黄茶婆さんの命を奪ったのは、頭部への一撃であった。

 当初、警察当局が不思議に思ったのは、傷口が2ヶ所あるにもかかわらず、銃弾が1つしか発見されなかったことである。2発撃たれたのは間違いないのに、発見された弾は一発のみ。

 この不思議な密室事件は、不謹慎にも、数多くのミステリーファンの興味をひくこととなった。

 2発なのに1発。2発なのに1発。
流行語のごとく、みな口ずさみながら、事件の考察をはじめた。

 しかし、事件は思わぬ証言から急転直下、解決へと向かった。その証言とは次のようなものであった。

「黄茶婆さんは、最近、ヨガに凝っていたよ。わたし、本人から聞いたことあるもん。」

警察は、黄茶婆さんは「ブリッジ」をしているときに撃たれたのだと断定した。


初期の作品の再掲です。


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