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連載小説⑲漂着ちゃん

 私は二児の父親になった。ナオミとの間に生まれた男の子・ヨブと、エヴァとの間に生まれた女の子・マリア。
 私はどちらの女性も、どちらの子どもも愛している。どちらか一方をすてることなど出来やしない。しかし、もしも両立することが出来るならば、、、。
 収容所所長の提案とは、いったいなんなのだろう?
 
 私はナオミに事情を話した。
 ナオミの返事は「あなたのお好きなように」ということだった。「私はエヴァさんのことも、あなたのことも尊敬しています」とも言った。

 私は指定された場所・日時で、所長と会うことにした。
 指定された場所は、この収容所の地下室だった。


「いってらっしゃい、あなた」
「ありがとう、ナオミ」

 所長に会うといっても、自宅の収容所の地下室へ行くだけなのだが、妙な緊張感があった。

 部屋を出ると、収容所の護衛官二人がすでに私の部屋の玄関前にいた。

「では、行きましょうか?」
護衛官の1人がエレベーターのB1を押した。

 私は両脇を二人に挟まれながら、下へ下へと降りていった。

 エレベーターの扉が開いた。
 
「では、我々は部屋の外でお待ちしております。あとは、あなたと所長の二人でごゆっくり、お話なさってください」

 私が地下室に入ると、入り口のドアがひとりでに閉まった。

 しかし、地下室のどこを見回しても、人の気配が全く感じられなかった。

「所長!、わたしです。やって参りました。どちらにいらっしゃいますか?」


「あなたは私のことを護衛官からなにも聞いていらっしゃらないのか?」

 部屋全体に所長の声が響いたが、どこにも所長の姿は見えなかった。

「所長!どちらにいらっしゃるのですか?お声は聞こえるのですが、お姿が見えません」

「私はこの部屋全体だよ」

 私には所長の言葉の意味がわからなかった。

「部屋全体とは、どういう意味でしょう?」

「文字通りの意味ですよ。私はもうこの世に身体を持っておりません。現世にいるときはもちろん身体を持っていましたがね」

「身体を持たない?ますます意味がわかりません。どちらにいらっしゃいますか?」

「私の肉体はもうどこにも存在しません。私のデータ化された『頭脳』だけが存在するのみです。私はいわゆるAIに過ぎません」

「所長はAIだったのですか?」

「そうだ。AIと言っても、もともとはあなたと同じ普通の人間だった。私はAI、つまり『頭脳』だけの存在になってから200年が経過している。生身の人間としての私は、80歳でなくなっている。だから、私にとっては肉体を持っていることよりもむしろ、肉体を持たず、頭脳として生きるほうが自然に思えるようになっている」

 衝撃の事実だった。この町を統治していたのは、身体を持たないAIだったとは。。。

「驚いたようですね。無理もありません。護衛官も無愛想な顔をしているクセに、なかなかイタズラ好きのようで。申し訳なかったですね」

「いいえ、驚きましたが、なんとなくこの町の事情がわかったような気がしています」

「そうですか?何事も慣れが必要ですね。。。ところで、今日ここに来てもらったのは、私から1つ提案したいことがあるからです」

「はい、そうでしたね。それが私がここへ目的でした」

「では、早速、本題に入りましょうか?」


…つづく


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