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創作のための翻訳 | カズオ・イシグロ | 忘れられた巨人 / The Buried Giant


はじめに

 なにか小説を書いてみたいのに、書き始められないということがある。

 職業小説家ならば、締切や連載があるだろうから、書かざるを得ない状況にある。
 趣味であったり、誰からも依頼を受けているわけでもない小説家を志す人は、アイデアがなければ無理して書かなくてはならないという義務はない。

 しかし、趣味小説家といえども、淡い期待であったとしても、少なからず向上心はあるだろう。


 私は「趣味小説家」だから、書く義務はない。だから、書くことがなければ書く必要はない。しかしながら、小説を書く力を向上させたいな、と思ったときには翻訳してみるようにしている。

 翻訳することが、どれほど小説を書く力を向上させるのかは分からないが、文豪の中には翻訳を試みた人は多い。

 「源氏物語」は、谷崎潤一郎、瀬戸内寂聴、与謝野晶子などによって現代語訳されているし、川端康成は「小公女」、村上春樹はチャンドラーやフィッツジェラルドなど数多くの作品を翻訳している。

 趣味小説家が超一流の職業小説家の真似をしたからといって文豪になれる可能性は低いかもしれないが、翻訳していると創作意欲がかきたてられる。また、剽窃するわけではないが、目を通しただけでは分からないリズム感や文章の練り方を意識するようにはなる。
 小説を書く前に少し翻訳してみると、執筆意欲が不思議とわいてくるものだ。

 この記事では、カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』(土屋政雄、ハヤカワ文庫)とその原文 Kazuo Ishiguro, 'The Buried Giant' を対照しながら、小説の解釈および文体について考察しようと思う。

⚠️テキストとして次のものを使った。
引用のページはこれらの本(↓)に依る。


原文(英語)


冒頭より(原文前掲書、p3)
Chapter 1 

⚠️説明の便宜上、①、②、③という番号をつけて、改行した。


①You would have searched a long time for the sort of winding lane or tranquil meadow for which England became celebrated.

②There were instead miles of desolate, uncultivated land; here and there rough-hewn paths over craggy hills or bleak moorland.

③Most of the roads left by the Romans would by then have become broken or overgrown, often fading into wilderness. 


同箇所の翻訳(土屋[訳]、前掲書p11)

イングランドと聞けば、後世の人はのどかな草地とその中をのんびりとうねっていく小道を連想するだろう。だが、この当時のイングランドにそれを探しても、見つけるのは苦労だったはずだ。あるのは、行っても行っても荒涼とした未墾の土地ばかり。岩だらけの丘を越え、荒れた野を行く道らしきものもないではないが、そのほとんどはローマ人がいたころの名残で、すでに崩壊が進み、雑草が生い茂り、途中で消滅していることも少なくなかった。

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