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連載小説(33)漂着ちゃん
エヴァに感じたこの違和感はなんなのだろう?しかし、エヴァの話自体には何の矛盾も感じることはない。ただ、直感としか言えない漠然とした不信感が頭をかすめた。
九分の信頼と一分の不信を抱えながらエヴァの言葉を聞いた。
懐かしい茅葺き屋根のエヴァの家が目の前にあった。
「こちらへどうぞ」
私はエヴァのあとに続いて、私も中へ入ろうとしたとき、マリアの寝顔が見えた。
「マリア、お父さんが来ましたよ」とささやくようにエヴァが言った。
「よく寝ているわ。収容所にいるときに目を覚ましていたら、マリアがかわいそうだったけど、何事もなかったみたいで」
私は目の前の我が娘を見た。かわいいと思ったが、ヨブに接する時とは異なり、微妙な違和感があった。
「あなた似ね。マリアは」
「そうかな、エヴァさんに似ているように思いますが」
「マリアが起きたら、鏡をご覧になって見比べてみてください。どうみてもあなた似ですよ」
マリアはよく眠っている。
「エヴァさん、所長がいないこれからのことですが…」
「今はその話はよしましょう。とりあえず、ごゆっくりなさってください。お疲れでしょう。いま風呂を沸かしますから」
夜になった。今日1日のことを振り返った。ナオミに見送られたのは、今朝のことだったのに、遠い記憶に感じる。
所長との面会、エヴァとの遭遇、所長というAIの停止。そして今隣りに寝ているのは、ナオミではなくエヴァだ。
「マリアはきっと弟が欲しいって言うと思うの」
私は驚いた。その発想はまったくなかったからだ。
「マリアはまだ何も話せないじゃないですか。お姉ちゃんになりたいかどうかはまだわからない」
「いえ、二人の子どもをもつことは、一人の子どもを作った親の義務だと思うのです」
「確かにきょうだいがいたほうが、マリアにとっても楽しいことかもしれないけれど、いなくても…。それより、今は所長がいなくなったこの町をどうしたらよいのか、考える時なのではないでしょうか?」
「町がどうなるかより、私にはマリアの幸せのほうが大切よ。私はもう一人子どもが欲しい」
潤んだ瞳のエヴァを見た。とても美しかった。エヴァが瞳を閉じた。口唇を重ねた。無我夢中だった。気がついたときには、私はエヴァの体内に飛び散っていた。
…つづく
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