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短編 | 言葉の代わりに

 その女と知り合ってから半年が過ぎた。

「今日はもう少しいっしょにお話しませんか?」
 終電の時間が迫りつつある中、自分でも卑怯だと思いつつ女に尋ねた。

「ありがとうございます。でも、そろそろお暇しなくてはならない時間ですね」

 この半年の間に女との逢瀬を何度も重ねてきた。私から誘ったこともあるが、片手で足りるほどである。ほとんどは女から「会ってくださいませんか?」と誘われて、二人で食事をしながら語り合うという付き合いだ。私に対して好意を持ってくれていることは間違いないと思っている。しかし、会うたびに、私以外の男がいるのではないかとう疑念がわく。だが、その疑問を女にぶつけてしまうと私から離れていってしまうような気がして、沈黙を貫いていた。

「そうですね。もう遅い時間ですからね。今日も楽しかったです。またお会いしていただけますか?」

「ええ、もちろんです。あなたにお会いできて、心が軽くなりました。こちらのほうこそよろしくお願いいたします」

 女の笑顔に私への大きな愛情を感じた。しかし、私は今日もまた、女に指一本触れることは出来なかった。

 精神的な繋がりと身体的な繋がりというものは、言葉でいうほど峻別できるものだろうか?
 身体的な充足感を求めて男に溺れることや女に溺れるということは想像できる。しかし、精神的な深い繋がりを求める時、身体的な交わりを求める欲求が顕在化することはごく自然なことではないだろうか?
 異性ではなくても、肩を叩いたり、ハグしたりということはある。しかし、この女からは、いっさいそのような気配が感じられなかった。
 現在交際しているのは、おそらく私1人である。確かめたわけではないが、間違いないという感覚がある。


 ひとしきりの時が経った頃、女から連絡があった。

「お会いしたいのですが」

「ありがとうございます。僕もお会いしたいと思っていました」

 いつもカフェで待ち合わせた。にっこり微笑む女は、可憐でもあり神々しくもある。こんなに安らぐ時間があって良いのだろうか。

 あっという間に時が過ぎていった。今日もまたお別れの時が近づきつつあった。

「今日もありがとうです。楽しい時を過ごすことが出来ました」

「私も同じです。ありがとうございました。またご一緒出来るのを楽しみにしております」

 私は今日こそは、と思い言った。

「僕はもっとあなたといっしょに過ごしたい。今日はずっと僕のそばにいてくれませんか?」

 女は少し悲しそうな表情を浮かべた。女は言葉を発する代わりにロザリオを取り出して涙を流した。









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