連載小説⑭漂着ちゃん
「もしかして、あなたエヴァさんのことを考えてたの?」
ナオミは話を途中でやめて尋ねた。
「いや、そんなことはない」
「あぁ、やっぱりねぇ。あなたは正直な人。そういうところが私は好きだけど、やっぱり顔に書いてあるのよね。エヴァさんに会いたいって」
私はナオミの言葉を打ち消そうとしたが、やめた。ナオミにはすべてが見破られていると思ったから。
「あぁ、でも恋愛感情とかじゃないよ。この町に来たとき、はじめて会った人がエヴァさんだったから」
「そっかぁ、そういう認識なんだね。あなたにとってこの町で会った人はエヴァさんかぁ」
「あぁ、ごめん、エヴァさんとは初めて『話した人』で、『会った人』はナオミだった。『会った』と言っても、君は気を失っていたから」
「まぁ、そうね。私は話せる状態じゃなかったから。揚げ足をとるつもりはなかったんだけど、でも、あなたにとって初めての人はやっぱりエヴァさんなんだなぁってね。エヴァさんに恋愛感情のようなものを持ったとしても不思議ではないわよ。持っていてもいい。だけど、あなたと私との間には、ヨブがいることを忘れないでね」
「あぁ、わかってるよ。ナオミとヨブから離れたりはしないよ。だけど、エヴァさんと出会うことはもうないんだろうか?ナオミとヨブのことを、見せたいという気持ちもあるだよね。私とナオミが倒れているところを発見して、介抱してくれたのはエヴァさんなのだから」
「そうね、そういうことになっているのね。あなたの中では…」
「違うのか?」
「半分当たってるけど、半分は間違いかな」
「私の意識が戻ったのは、あなたに背負ってもらっているときだった。たぶんあなたの温かさで意識を取り戻したのでしょうね。夢うつつの状態だった。私もよく覚えてないんだけどね、あなたにおんぶされているとき、とても懐かしい気がしました。まるで小さい頃に父に背負ってもらっているような。気持ち良い、半分寝てる状態だったから。ただ黙ってあなたの背中で寝てた」
「それでね、気持ちよく寝ていたら、急にあなたが倒れた。私はあなたをより動かして起こそうとしたけれど、あなたは力尽きていた。どのくらいの時間だったかな?あなたを助けたくて、でもなにもできなくて、何時間かあなたに寄り添っていました。もうダメかも、って思ったとき、たまたま通りかかったのがエヴァさんだったの」
「私も力尽きそうだったけれど、幸いエヴァさんの家の近所だったから、あなたを二人でかついで」
私の知らなかった事実がまた1つ明らかになった。
「ナオミ、疑うようで悪いけど、私は気を失っていたから、本当のところはよくわからない。私にはいろいろまだ知らないことが多いようだ。君とエヴァさんと私が集まって話すことって出来ないのかな?」
「どうでしょうね。直接エヴァさんに連絡する方法があればいいですけどね。収容所の許可がおりるとも思えなくて」
「収容所を取り仕切ってる人ってどんな人なんだ?弥生時代の人か?それとも現代人なのか?」
「それは私にもなんとも言えないわね。お会いしたことすらないから。それはたぶんエヴァさんも同じじゃないかしら。ただ、エヴァさんの言う通り、『漂着ちゃん』の第1号が本当にエヴァさんなら、彼女を救ったのは、この町に住んでいた現代人の誰かじゃないかしら?」
「そうか、現代人の誰かか…とりあえず、その人の許可をもらうか、ここから脱走するか、どちらかしかないようだね」
「そうね、私たち二人だけなら、危険を犯しても脱走を考えてもいいけど、ヨブと一緒だとね。よくよく考えてからじゃないと」
「だな、ここに黙っておさまっていれば無事には過ごせるが、ずっとここに缶詰め状態では、生きている意味が見いだせないよ」
「あれ、あなた、いつの間にか、『自殺しよう』とは考えなくなったようね」
「不思議なものだ。なにもかも嫌になって、死にたくてここに来たのに、生きる理由を見つけてしまうなんてね」
「私のおかげでしょ?、ふふふ」
「そうだね、君を見かけなければ、私はもう本当に自殺していただろうから」
「それで、まだあなたにはエヴァさんへの恋心が残っているのかしら?」
「恋心ではなくて、ただまた会いたいなって思うだけだよ」
「それを恋心って言うじゃないかしら」
ナオミは悲しげに笑った。
…つづく
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