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夢Ⅰ(21)

第1話:夢Ⅰ(1)はこちら

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☆主な登場人物☆

❖ ❖ ◇ ◇

リック達が大鳥を集落に持ち帰ると、各家が総出で狩人達の帰りを出迎えた。大鳥の狩りは、ヌエ達にとって、とても大切な感謝の祭事だった。

高く積み上げられた櫓から上がる炎が、明々と夜の世界を浮き上がらせている。

炎に照らされ、大鳥の体がサラサラ、キラキラと艶めかしく脈打つ。

 

大鳥の運び込まれた集落では、休む間もなく仕分け作業が始まり。ヌエ達は今まで聞いたことない声音で祝音を上げ、授かった恵に感謝した。

リックは「休んでもいい。」と言われたが。彼らに混ざり祝音を上げ、初めての作業に見様見真似で加わった。

 

大鳥の仕分け作業は、夜通し続いた。

 

リックの体はこれまでない疲労を訴えていたが、頭は冴えわたり、今まで感じたことのない高揚感が体を動かしていた。ヌエ達からもらった服は、汗でずぶ濡れになった。

 

地平から射し込む白い日の光が、涼しく世界を照らしている。大草原を流れる緩やかな風が肌に優しい。

仕分け作業も大詰めを迎えた。

 

夜が明け、切り分けられた大鳥の肉は、さらに細かく選り分けられた。一部は即席の調理場で料理され、その場で振舞われる。倉庫からお酒が運び出され、歌い、踊る、感謝の祝宴が開かれる。

リックも彼らに交じり、歌い、踊り。満身の体で笑った。

太陽が頭上に達したころ、リックは意識を失った。

 

目を覚ますと、《茶色》のテントの中にいた。西日がテントを外から照らしている。皆が歌い踊り笑い合う声が聞こえる。離れた場所から、彼らの声を聞くのは初めてのことだった。リックは、満たされていた。力を出し切ったと体が答えていた。それが、たとえ一時的なことであったとしても。

彼らは、リックが目を覚ましたことに気付いたが、声はかけなかった。その代わり、変わらず歌い踊り。全力で、祭事を祝い続けた。彼らにとって、リックはもう客人ではなく家族だった。

リックは、食べ、飲み、歌い、踊った。そして、意識を失っては、テントで目を覚まし、また、踊った。

 

祝宴は、3日3晩続いた。

 

宴の始まった日の昼過ぎ。ちょうどリックが気を失った少しあとに現れた行商は、持ってきた商品と大鳥の羽との交渉を済ませると、2日目の昼頃まで滞在し宴に加わった。彼は宴のお礼に食材に選りをかけた料理を作り、珍しいお酒を振舞った。

 

祝宴の最中、リックは、胸の内で何かが叩き起こされたことを感じた。それは、徐々に失われていくモノとは全く別の、温もりを持った人の形をした塊のようなモノだった。

太陽は、しっかりと世界に弧を描き。入れ替わりに力を取り戻す月は、優しく自由に世界を眺めている。

 

 

肌に触れる風は温かく、大草原での生活は、二度目の春を迎えようとしていた。

 

 

夜明け前、星々が濃淡をつけながら、視界の果てまで続いている。

リックは、そっと入り口を開きテントの外へと出た。胸には、短剣を入れたホルダーを巻いている。

ヌエ達と生活を共にするようになったころから、リックは毎朝の走り込みと短剣の振り込みを自らに課していた。

 

走り込みを終え、短剣の振り込みに移った。始めたばかりに比べて、格段に体力が付いていることを実感していた。短剣も今ではリックの手に馴染んでいる。

左手の振り込みを終え、短剣を右手に持ち替える。
「ヌエ達とともにいなさい。」
「あなたの探している。彼らに会えるわ。」
最近は短剣を振るたびに、ハイビーの言葉が頭をよぎる。

言葉を頭から追い出すように、踏み込む足に力を入れた。

 

朝の日課を終えて戻ると、テントの外で《茶色》の奥さんが朝の段取りを始めていた。地平がうっすらと、白んできているが空には星が輝き、太陽はまだ地平よりも低い。

「おはようございます。」リックは、思念で挨拶をした。彼女は、こちらを見て「おはよう。精が出るね。」と言葉を返した。

テントに入ると、なかには《茶色》と、そして《灰色》がいた。彼らが他の家族のテントにいるのを見るのは、これが初めてのことだった。

 

この集落には、6人の家主がいる。リックは、彼らをそれぞれの羽織りの色から《茶色》、《青》、《水色》、《灰色》、《黄色》に《赤》と呼んでいた。

《灰色》はこの集団の「長」のようなもので、《茶色》は「副長」にあたる。リックが《茶色》のテントに住むことになったのも、《灰色》の決定である。

 

2人は、リックに視線を送り「おはよう。」と言葉を発した。リックも「おはようございます。」と答える。もちろん思念で。

リックは、短剣を片隅に立てかけ、テントを出た。

 

《茶色》の奥さんが、少し離れた場所にある共同の水桶から水を汲んでいる。

リックは、彼女に駆け寄り、水汲みを手伝いながら聞いた。「何かあったんですか。」「彼がテントに来るなんて。」彼女はリックの方は見ずに「何。移動の時期さ。」と言葉を返した。その様子からは「いつものことよ。」という雰囲気しか感じ取ることが出来なかった。

水汲みを終え、テントに戻ると2人の姿は無く、子供たちが朝食のための火起こしを始めていた。

 

朝食を食べ終わるころに、《茶色》がテントに戻って来た。

普段と変わりない一日が過ぎていく。

夜には、焚火を囲み、歌い踊った。

❖ ◆ ❖ ◆

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