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掌編小説集

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長編、短編など、小説を文字数で分類する正式な定義はないそうです。ただ、一般的には、4,000〜5,000文字以内の短い物語を、掌編小説(ショートショート)と呼んでいます。 ここで…
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2023年9月の記事一覧

成仏の宴(#毎週ショートショートnote)

成仏の宴(#毎週ショートショートnote)

(本文410文字)

 死んだら土に還る……それこそ、生命の本質のはずだ。魂がどうのこうのって話は、人間が死への恐怖を和らげる為に創った寓話で、本当は動物の死体は自然に分解され、土に還り、植物を育み……と、生命の循環に取り込まれるべきだ。
 成仏なんてものも、人間が描いた空想を具現化しようとする愚かな概念だ。もしそんな理想が実現するのなら、死んだ肉体は自然界の養分になってこそ、成仏と呼ぶべきではな

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ボスが言ったから(#毎週ショートショートnote)

ボスが言ったから(#毎週ショートショートnote)

(本文410文字)

「いいか、なるべく動物園に見せ掛けるんだぞ」
 ボスは、そう言い残して立ち去った。

 なるべく動物園に見せ掛けろ……いつもは、自殺に見せ掛けろと指示されるのに、ちょっと意味が分からない。考えろ、考えるんだ!

「動物園で殺れ」ということか、いや、動物園での事故を装えという意味か……違う、動物園に見せ掛けろ、と言ったのだ。ボスが間違えるはずがない。よく分からないが、言われた通

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読む時間は15分よ(#シロクマ文芸部)

読む時間は15分よ(#シロクマ文芸部)

(本作は1,192文字、読了におよそ2〜3分ほどいただきます)

 読む時間は一日に15分と決めているの。こう見えてもね、毎日忙しいのよ。人生って、いつまでも休む暇なんてないのね。
 夫に先立たれてね……これ言うと、不謹慎と思われるかしら? でも、本当の話なんだけど、これでやっと自分の時間が出来ると思ったわ。でもね、半分は正解だけど、半分は違ったようね。確かに、一日中、自分だけの時間にはなりました

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カフェ『4分33秒』にて(フルバージョン)

カフェ『4分33秒』にて(フルバージョン)

#毎週ショートショートnote 用に書いたものを、もう少し長い話に書き直してみました。
一応、掌編小説という体裁を取っていますけど、前半は実質的にエッセイです(汗)

オリジナルはこちらです。

以下、本文になります。
よろしくお願いいたします。

(本作は4,918文字、読了におよそ8〜12分ほどいただきます)

 ピアノソロの演奏会では、ピアニストは暗譜で演奏するのが当たり前のようになっている

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カフェ『4分33秒』にて(#毎週ショートショートnote)

カフェ『4分33秒』にて(#毎週ショートショートnote)

(本文433文字)

 一楽章は1/4拍子、♩=1.82、三十秒のtacet。私は演奏に集中する。三十秒間、音を出してはいけない(tacet)指定だ。店内の音に聞き耳を立てる。そして、そのまま第二楽章に突入、♩=0.375、二分二十三秒のtacetだ。超スローなテンポの無音の音楽を奏でていると、客の雰囲気が訝しげに変わっていく。そんな中、女子高生の笑い声が響く。この調和こそ音楽だ。
 そして、最終

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挨拶に代えて(#毎週ショートショートnote)

挨拶に代えて(#毎週ショートショートnote)

「えぇ、新郎も新婦も私の部下でして、まぁ、社内恋愛ってやつですな。昔は考えられなかったけど、今は自由と言うのか、良い時代になったものですな。新郎の佐橋君は、なかなか有能でして、ゴマをするのが上手いというのか、お調子ものというのか、弄られキャラ? まぁ、よく言えばムードメーカーですな。失敗しても、彼なら許せるというのか、実際、何度も助けてあげましたな。新婦の仁美さんは、完全なマスコットキャラですな。

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