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読む時間は15分よ(#シロクマ文芸部)

(本作は1,192文字、読了におよそ2〜3分ほどいただきます)


 読む時間は一日に15分と決めているの。こう見えてもね、毎日忙しいのよ。人生って、いつまでも休む暇なんてないのね。
 夫に先立たれてね……これ言うと、不謹慎と思われるかしら? でも、本当の話なんだけど、これでやっと自分の時間が出来ると思ったわ。でもね、半分は正解だけど、半分は違ったようね。確かに、一日中、自分だけの時間にはなりましたわよ。
 言いたいのはね、単に夫の為に費やす時間が無くなっただけってこと。食事の準備、お片付け、洗濯に掃除にお買い物……靴下が破れているのにも気付かないし、新聞は読んだらそのままだし、トイレもお風呂も掃除したことないでしょうし、今日着る服も私が揃えないと何がどこにしまってあるのか、何も知らないのよ。保険証も通帳も見つけられないし、何もかも、私がやっていたわ。
 だから、確かに自分の時間は出来たわ。でも、決して暇になったわけじゃないの。夫がいてもいなくても、やらないといけないことは大して変わらないしね。夫の存在って何だったのでしょう? いなくなっても、私は何も変わらない。ただね、確かに少しだけ時間は出来たわね。15分。それを読書の時間にしたのよ。読書なんて、ホント何年振りかしら!
 今読んでる本がね、すごく面白いのよ。しかもね、冒頭部からハラハラドキドキの連続でね、いきなり心を掴まれて目が離せなくなるのよ! 朝ごはんを食べると、もうすぐに本を開くわ。貴重な15分の始まりよ。
 あれ、そう言えば、今日は朝ごはんまだだったわね。私はね、一人になっても食事は手抜きしないわ。お味噌汁もね、キチンと出汁から取るのよ。一人前でもそこは譲れないわ。朝ごはんの後には、読書の時間が待っているんですもの。それぐらいは頑張るわよ。
 今読んでいる本は、本当に面白くてね。早く続きを読みたいんだけど、冒頭部がすごく面白くてね! えぇと、どんな感じだったかしら? そうね、今日はまた頭から読んでみようかしら。なかなか登場人物が覚えられなくてね。
 毎日ね、朝ごはんの後が読書タイムと決めているの。一日に15分だけなのよ。夫がいなくなっても、なんだかんだと毎日忙しいのよ。だってね、私は食事だけは絶対に手抜きしないと決めているの。お味噌汁だって、ちゃんと出汁から取るのよ。いりこの頭を取って、背中から開いて、ハラワタを取り除いてね。カツオも入れるわよ。頑張った後には、読書タイムだから!
 あ、今日は朝ごはんがまだだったわね。私ね、食事だけは手抜きしないの。夫がいなくても、キチンと手間暇掛けてるわ。ご褒美に、読書の時間を取ってるのよ。15分だけだけど、今読んでる本が面白くてね。えぇと、どんな話だったかしら? そうだ、今日はまた頭から読んでみるのもいいわね。
 あら、もうこんな時間? やだ、私ったら、まだ朝ごはんの支度が出来ていないわ。でもね、食事だけは手抜きしない主義なの。


#シロクマ文芸部  久しぶりにショートショートでも参加いたします。


間に合った……