見出し画像

スーパードクターは死んだ~医療に変革をもたらすのは一体何か(PC版)

1)導入

医龍に仁、そしてドクターX、
いつの時代も医師を夢見る少年少女の先にあるのは、
どんな病気も治してくれるスーパードクター達だった。

そりゃそうだ、めちゃくちゃかっこいいんだもの!
他の医師が諦める患者さんも、
彼らにしかできない手術で助けてくれる。
医師を志すなら憧れない方が無理という話ですよね。

2)現代医療の現実

でも、実際どうなんだろう。
一人のスーパードクターが見れる患者には限度があり
救急医でもない限り、
一日1人、365人すらはるかに届かないのが現実です。

ここでは一年あたり100人と仮定しましょう。
少しでも効率よく、人材をうまく使うため、
その先生でしか救う事ができない、
そんな患者さん100人を日本全国から集めて治療する。
そんなこともあるでしょう。
非常に自然な考え方だと思います。

だが、これにはいくつかの矛盾点問題点が出てきます。

先生しか治せない患者さんが300人いたらどうするの??

そんな局面に置かれた時、
あなたならどのように対応していきますか?

患者全体を救える可能性を広げるため、
300人の中から状態の悪い患者さん100人をピックアップしますか?
それとも
治るであろう患者さんのより高い治療効果を求め、
300人の中から状態の良い患者さん100人をピックアップしますか?
どちらも正しく、そしてどちらも確実に
不幸な誰かが生まれる事になるでしょう。

また、一般的な感覚として、
腕の良い医者に診てもらいたくない患者さんなどいないはずです。
ですが、もしスーパードクターに診てもらえたかで、
本来予後のよい患者さんよりも治療困難で予後の悪い患者さんの方が
実際の予後が良くなってしまう逆転現象が起きてしまったらどうでしょう。
診てもらえなかった患者さんが
自分、あるいは大切な家族だとしたら
みなさんはどう思いますか??

そう、全体論で見た時、
スーパードクターという存在はしばしば解決しようのない
矛盾を生じさせてしまう
のです。

3)現代医療の構造

これら矛盾が生じさせず、医療全体の質を向上させるため、
現代医学がこれまでに歩んできた道のり、
それは
標準化」です。

多くの疾患に対するそれぞれの治療法などをガイドラインで規定し、
どの医師であっても」、「どの患者の治療」ができること。
これを目的とし、
診る医者による違い、
担当医師による個人差」を極力なくすことで、
より多くの患者さんの治療を高水準に行う事、
これを可能にしています。(下図)

エッセイ1

また、日本は世界トップクラスに標準化医療を実現させており
保険で定められた標準的な治療を、
金銭的負担少なく、誰もが受けることができます。
その結果、
日本は世界で一番格差なく、
超高水準の医療を受けることができる国
であり、
とても誇らしいことだと思います。


そう、現代医療において、
スーパードクターにしかできない治療、手術など
保険適用外な全額自己負担の自由診療になってしまいますし、
そもそもそんな物自体がなくなりつつあるのです。

4)何が新たに多くの人を救うのか

少し、夢のない話をしてしまったかもしれませんね。
しかしぼくが言いたいことはこれだけではありません。

これまで大学病院はもちろん、
町の診療所あるいは地域の訪問診療など、
いろんな医療を見る機会がありました。
これらを経て考えるようになったこととして、
医師が患者に与える影響はそんなに大きくないのかもしれない」、
医師の個人差など明確なミスでもない限り誤差なのかもしれない」、
この二点が挙げられます。

たとえば、
ほかの人よりも10分早く手術を終わらせられる。
あるいは、
癌切除で他の医者よりも3cmマージン少なく、
ぎりぎりまで正常組織を残すことが出来る。
これらにどれだけ違いが生じるのでしょうか?
正直あまり大きくないと思います。

やはり夢のない事を言っているかもしれません
しかしこれには続きがあります。
たとえば、
革新的な新薬や器具の開発が治すことが出来なかった病を治す、
 あるいは劇的に改善させる事を可能にする。

このことは紛れもない事実です。

そして一度これら開発の効果が認められ、保険適用にさえなれば
あとは標準化医療
全国の同じ病気を持つ人達全てがこれらの恩恵を受けることができ、
より多くの人を確実に助けることが可能になるのです

そう、不治の病「慢性骨髄性白血病」を治る病にした、
分子標的薬「イマチニブ」のように。

あるいは制度を変えることもまた、多くの人を助けることにつながります。
脳梗塞は一分につき、脳細胞190万個、
寿命でいうと3週間削っていく疾患です。
これらを重く受け止め、救急制度を整備する。
これもまた確実に、より多くの命を救うこと、
これを可能にするでしょう。

現在の日本には、
移植に救急、病理など、制度的に不十分な領域はたくさんあります
仮にこれらの制度を頑張ってすべて改善することができれば
新たに救う、改善できる人の数は年間100万人を超えるでしょう

これらのことを考えてしまうと、
一人の医師の力など小さなものに見えてしまいますよね
しかし、
「俺の頑張りは意味がない」と目の前の患者さんに全力を出さない事
は全く別の話、本末転倒以外の何物でもありません

何があっても目の前の患者のため、瞬間瞬間に全力を出す、
そんな医師でありたいと僕は思います。

5)まとめ

研究と制度改革
標準化が進んだ現代医療において、
より多くの人を救うこと、これを実現することが出来るのは
一人しかいないスーパードクターなどでなく、
これらであることは確かだと思います。

そしてお分かりの方がいるかもしれませんが、
この二つ、
どちらも日本が苦手なこと二強ともいえる領域であります。
研究費や研究者の待遇はいつまでも抜本的な改善に至らず、
変えた後のことばかり議論し、誰かが責任を取るわけでもない。
結果としていつまでも進まない制度改革。
しかしこれら二つは、
今後の医療の未来を考えるなら、
絶対に国を挙げて力を入れなければならない領域

であることは間違いありません。
ですから
普段、研究にお金をかけることなどに対し疑問視している人も
これらの大切さを理解し、応援してあげてください。

確かにスーパードクターは死んでしまったかもしれません、
しかし、これらは医療がいい意味で成熟したことの証明でもあります。
そして今後、さらに多くの皆さんの健康を守るであろう大樹の芽、
それが何かを理解し応援していければと思います。

今よりもずっと、多くの人が研究、あるいは制度の整備などに興味を示し、
これらを志すようになる未来を願って結びとさせていただきます。

ミヤ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?