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<第27回>「夢の国」のリーダー論

『ディズニーCEOが実践する10の原則』 
ロバート・アイガー著/関 美和訳(早川書房)

❶イントロダクション~ディズニーを再び創業した男

本書は2020年に発刊された、ウォルト・ディズニー・カンパニー会長・元CEO、ロバート・A・アイガー(1951年~/愛称はボブ・アイガー)の著作です。著者は1974年、ABCに入社。スタジオ雑務の仕事から昇進を続け、41歳で社長に就任。ディズニーによるABC買収(1995年)を経て、2000年にディズニー社長に就任した、まさに叩き上げの経営者です。ピクサー・アニメーション・スタジオ(2006年)や21世紀フォックス(2019年)を買収する一方で、「上海ディズニーランド」(2016年)を開業するなど、ディズニーを巨大なグローバル・エンターテインメント企業へ成長させたことで有名です。

では早速、本書の「プロローグ」から気になった部分を抜粋してみます。

"私にとってディズニーの経営は「世界一幸せな仕事」だ"
"私たちの仕事は楽しい体験を作り出すこと、しかし、ディズニーも営利企業である"
"毎日が変化と挑戦の連続で、次々と気持ちを切り替えなければ仕事はこなせない"
"スケジュール通りに物事が進むほうが珍しい"
"何かが起きない日の方が珍しい"
"この本は、私流のリーダーシップの原則を書いたもの、人や組織のいい面を育て、悪い面を抑えるような一連の原則が書かれている"

さて、著者の「ロバート・アイガー」という名前を聞いて、何をイメージされましたか。「上海ディズニーランド」の開業でしょうか? それとも、「オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット」の奪還(1927年に誕生したウサギのキャラクター。翌年、諸権利がユニバーサル・ピクチャーズの手に渡ったが、2006年に返還された)でしょうか?

ほとんどの人が、「そういえば、何やった人だっけ?」という感じではないでしょうか(苦笑)。
そもそも、ロバート・アイガーと聞いて「ディズニー」をイメージした人は、そんなにいないかもしれません(失礼ながら)。それだけ、ディズニーの看板は大きいんですね。

余談ですが、アイガー氏の半生、キャリアの歩み方は、ビジネスドラマとしてもかなり読み応えがあります。いまのディズニーは、アイガー氏がいなければ、ここまでグローバルな展開も成功もなかったに違いありませんし、そのストーリーが面白くないわけがないのですが……。

では早速、読み解いていきましょう!!

❷独断と偏見のお勧めポイント:ABCでの下積み時代

上司のいいところも悪いところも未来の糧に

本書は、テレビ業界の下働きからスタートした著者が、ピクサー・アニメーション・スタジオ、マーベル・コミック(2009年)、ルーカス・フィルム(2012年)、21世紀フォックスの買収を成功させたり、またディズニー映画の低迷を打破すべく、「アナと雪の女王」(2013年)をはじめ数々の大ヒットを生み出したりと、多くの偉業を成し遂げる半生が書かれています。
本書は2部構成で、前半はABCの下積み時代から、ABCエンターテイメントの社長に抜擢され、ディズニーCEO就任まで、後半はディズニーCEO退任までの話に分かれています。また、アイガー氏の半自伝として、キャリアの歩みを追体験することができます。

本書は、読み物としてもたいへん面白いのですが、そのなかでもオススメの下積み時代のエピソード、当時のABCスポーツのトップ、「テレビ界の帝王」と呼ばれたルーン・アーリッジ氏の下で働いていたころの話を紹介します。

このルーン・アーリッジ氏ですが、当時のTV業界の古いフォーマットをどんどん壊し、イノベーションを起こしていた敏腕プロデューサーです。しかし、性格はとても気難しく、さまざまな配慮にも欠けていたため、優秀な人材も「やっていけない」と、彼のもとを去っていました。
のちにアイガー氏は、部下の言い訳をいっさい受け入れず、仕事ができなければ誰でもバッサリ斬るルーン・アーリッジ氏のやり方を反面教師として、人と誠実に向き合い、すべての人に公平に共感をもって接することを心がけることにしたそうです。

人間は完璧ではありません。だからこそ、上司のよいところだけでなく、悪いところもすべて自分の未来の糧にする力が、いまのビジネスパーソンにこそ必要、と教えてくれるエピソードです。

❸深掘りの勧め:「リーダーシップの原則」とは?

本当の自分を見失わないこと

最後に、2005年にディズニーのCEOに就任したときのエピソードを紹介しておきましょう。

CEOになるにあたり、アイガー氏は三つの戦略的優先課題を定めました。
その理由は、リーダーが組織の優先課題を、誰にでもわかるように伝えることができないと、周りの人たちは何に力を入れたらいいのかわからず、お金と時間が無駄になる、と考えたからです。CEOの重要な役割として、社員と経営陣にロードマップを示すことを実践したわけですが、その三つとは、

⑴良質なオリジナルコンテンツを創り出すこと。
⑵テクノロジーを最大限に活用すること。
⑶真のグローバル企業になること。

そして、実際に行われたのが、世界的な大ニュースにもなった「ピクサー買収」です。

じつは、ピクサー・アニメーション・スタジオの買収については、取締役会や投資家たちからクレイジー呼ばわりされ、猛反対されています。しかしアイガー氏は、自分の認識力と判断力を信じ、買収を決断。失敗すれば、CEOに就任して早々、自分の立場が危うくなることはわかっていましたが、リスクを恐れていては成功はない、と考えたのです。

その後、ディズニー・アニメーションの立て直しに大成功したことは、ご存じのとおりです。

CEO退任後、アイガー氏は、「世界中から権力者だ、重要人物だと祭り上げられても、物事が単純だった子供のころの自分、本当の自分を見失わないことがリーダーとして何よりも難しく、何よりも重要な原則だ」、と振り返っています。

ほかにも本書には、買収劇の裏にあったさまざまなドラマや、初めての黒人ヒーロー映画「ブラックパンサー」(2018年)完成までの舞台裏、スティーブ・ジョブズとの関係など、読み応え抜群、一気読み必至の内容が満載です。
興味のある人はぜひ読んでみてください!

◆今回の名言◆

「夢見ることができれば、それは実現できる」
ウォルト・ディズニー(1901~1966年/実業家)

名言そのままですが(苦笑)、"Dreams come true"、夢は叶うのです!

★おまけ★最近読んでいる本

『多様性の科学』 
マシュー・サイド著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

名著『失敗の科学』の著者、5年ぶりの新刊です。CIAはなぜ9.11を防げなかったのか、一流の登山家がエベレストでなぜ遭難するのか、など、「多様性」であることとはどういうことか、を教えてくれます。さまざまなバックグラウンドをもつ人を集めていても、同じような意見をもつ人が集まってしまう「エコーチェンバー現象」の話など、自分の身近なところで思い当たる節のある話も満載。お勧めです。


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