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<第26回>「ほうっておいても成果を挙げる」部下をつくる法

『自分の頭で考えて動く部下の育て方』 
篠原 信 著(文響社)

❶イントロダクション~「指示待ち人間製造機」だった過去

本書は2016年に発刊された、国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」上級研究員、篠原信氏の初の著作です。著者は世界でも類を見ない技術である有機物由来の無機肥料製造技術や、土壌を人工的に創出する技術を開発し、2012年度「農林水産研究成果10大トピックス」を受賞されています。
執筆のきっかけは、著者の「なぜ人は指示待ちになってしまうのだろう?」という疑問の考察結果をtogetter(Twitterまとめサイト)にアップしたところ、瞬く間に40万人を超える閲覧があったこと。担当編集者の目にも留まり、書籍化が進んだそうです。


今回も、本書の「はじめに」から、気になった部分を抜粋してみます。

"本書は、上司になりたての方、やっている方で困っている方、これから上司になる方向けに考え方の基本の「型」となる「教科書」を提供できたら、と企画された"
"産業能率大学の調査によれば、課長の最大の悩みは「部下がなかなか育たない」"
"上司が違えば、私は業績を挙げられなかったに違いない。見事な指示待ち人間になっていただろう"
"「指示待ち人間」に悩む上司、そしてそうみなされて苦しんでいる部下が多い"
"私は元々、「指示待ち人間製造機」だった。悩んでいた時期が長かった"
"編集の方によると、従来のリーダー論からはちょっと信じられない内容らしい"

さて、著者は民間企業のビジネスパーソンではありませんが、所属する組織のなかではリーダーであり、まとめ役であり、いわゆる中間管理職です。研究員として自分の研究をしながら、組織のマネジメントや後輩の指導も行わなくてはならないポジション。そう、いわゆる「課長」職ですね。
「お役所の話なんか参考にならないのでは」と思われた方もいるかもしれませんが、内容は純粋な組織論、リーダー論です。民間企業のビジネスパーソンでも、すぐに実践できる内容ですよ!

では早速、読み解いていきましょう!!

❷独断と偏見のお勧めポイント:「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか?

「失敗」への対処の違いが分岐点

本書では、「指示待ち人間製造機」を脱する方法として、
・上司の考えに触れること
・自分(部下)で考えて行動すること
・失敗しても「しょうがない」とし、次回軌道修正してもらうこと
を挙げています。

著者は、とくに部下が失敗したときの対応が大切だと言います。
たとえば、よく怒る上司には話をするのも億劫になり、基本的に「言われたこと(指示されたこと)だけやろう」「勝手にやると怒られるから、確認しよう」となっていませんか?

はい、「指示待ち人間」が一丁できあがりましたね(笑)。

本書の内容は、自らの体験がもとになっています。じつは、「はじめに」にも書かれているように、「指示待ち人間製造機」だった過去をもつ著者は、その原因である自分を冷静に分析しています。そして、その理由に「細かい性格」を挙げています。

上司から細かく指示されれば、たしかに、何も考えずに作業として取り組むだけでよいのですが、ただ作業をこなすだけでは、部下は成長しないし、何も考えなくなってしまう、というのはご理解いただけるのではないでしょうか。

では逆に、上司は「大雑把」に指示をするほうがいいのでしょうか?
いわゆる「教えなさすぎ」ですが、これも結局、「指示待ち人間」になってしまう、と著者は指摘します。
※ちなみに、本書の上司と部下のやり取り例ですが、典型的な日本の会社のイメージで(どちらかと言えば、平成より前)、かなりイメージしやすく、「こういう人、いるなぁ」と、納得してしまうかもしれません。

大切なことは、「指示」はそもそも曖昧なものであるということを、上司が理解していることでしょう。
そもそも、曖昧なものなのに、正確に指示することなんて不可能です。

ちょっと考え方を変えて、自分の行動を見直してみてはどうでしょう?

❸深掘りの勧め:配属1日目~3年目までの部下を育てるには?

部下が仕事を憶える時間は絶対に必要だ

「じゃあ、実際の部下の育て方はどうするの?」という話ですが、本書では約150ページにわたり(本書の半分以上)、具体的な部下指導の心得から指導法まで書かれています。

今回は、そのなかから「仕事の習得期間」についてご紹介します。
部下が「一人前」になるには、どのくらいの期間が必要なのでしょうか?

著者は、1年という区切りには意味がある、と言います。
たとえば、4月には入社式、8月にはお盆休み……と、毎年同じようにあるイベントが仕事にもあるので、これを利用するのです。
新入社員も、2年目になれば、既視感をもって仕事に取り組めるはずです。とはいえ、1度しか経験していないので記憶はおぼろげですが、1年目よりも余裕はあるでしょう。
それが3年目ともなれば、忘れている点があっても概略は頭に残っているはずです。仕事の中身もわかっているから、仕事全体の流れをつかむこともできると思います。

以前は、「一度会社に入ったら、3年間は我慢して働け。そうすれば、希望の会社にも転職できる」と言われていた時代もありましたが、それに通ずるものがありますね。

「即戦力」が求められる時代においても、著者は部下が仕事を憶える時間、育つ時間は絶対必要であると言います。その時間を短縮させ、より成長させることこそが、上司の仕事なのです。

このほかにも、『三国志』の話や上司の戦略など、従来のリーダー論には出てこない内容が盛りだくさんです。
興味のある人はぜひ読んでみてください!

◆今回の名言◆

「いさめてくれる部下は、一番槍をする勇士より値打ちがある」
徳川家康(1543~1616年/江戸幕府・初代征夷大将軍)

いまも昔も、部下の話を聞くことは、出世をするためには大事ですね。

★おまけ★最近読んでいる本

『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』
正垣泰彦著(日本経済新聞出版)

サイゼリヤの創業者・正垣泰彦氏による外食経営の指南書であり、理系経営者ならではの論理思考も学べる本。『日経レストラン』誌連載の「土壇場の経営学」をベースに、書籍化されたものです。「儲かる店をつくる財務」「値下げの限界点を見極める」「人材の育て方」など、経営に携わる誰もが直面する課題についての解決策は、どれも「さすが」のひと言です。それに、"「よいものは売れる」という考え方は昔の天動説と同じ"と語るなど、いまだに自らを戒める姿勢は経営者の鑑。お勧めです。




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