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10年目に向けて。(Re:)を携えて。

fromH、来年で10周年になります。どうも、神山です。

fromHは批評誌invertを発刊する批評・評論ユニットである。

結成秘話

大学生になった年のGW直前、ハラケーこと編集長・伊丹空互から、一通のメールがあった。…と、事実を確認すべく当時のメールを探したが出てこない。メールを受けた時の(現実なのか、後付けなのかわからない)記憶はある。その日のおそらく昼休み、大学生協前あたりで伊丹から文フリに出ないか、という内容のメールを受信したはずなのだ。どこかに遺っているメールの記録がもしかしたら夜だったり朝だったりするかもしれないし、大学にいないはずの土日だったかもしれない。実際はGW直前かどうかも記憶では定かではない。どこかに保管されているだろうと思うが、いつかfromH戦記を書くときが来たら、ノーエビデンスでも史実として書き残しておこう。

2013年、Googleドライブはあれど、今ほどGoogleアカウントを複数連携させてひとつのものをつくる、ということをやったことがなかった。高校生時分と同じように、fromHでひとつのアカウントを作ってメール下書きなどを用いて情報共有をしていた。今考えると極めて原始的な方法だったが、結局最終的な入稿の集約などを一人に任せるのではなく、編集部アカウントがあることで分業できていた気もする。していただろうか。

これまで書いた文章のこと

invert vol.1(2013年)のテーマは『若者と社会』、あの頃は自分たちが大学生になったばかりで、上の世代と自分たちの世代、更にその下の世代を接続する為の、単なる若者文化・サブカルチャーだけに収まらない批評・評論を目指したものだった。今読み返せば青い文章、青い本だった。自身の論考においてはテーマに据えたコンテンツや参考資料の読み込みも浅かったと(Re:)を読んで思った。

vol.2(2014年)のテーマは当初予定『イメージ』が紆余曲折あって『つながり』。アイドルの話、文学の話、映画の話、ジェンダーの話などが並ぶことに。一見ばらばらに見える様々なものが、実はゆるやかなつながりをもっており、1コンテンツ、1カルチャーに特化することより広い視点をもっている方がよい、みたいなことを考えていた。ここで書いたはやみね論は、技巧こそ稚拙だが、現在のはやみねワールドの展開にも耐えられるものになっていると自負している。今後も設定や展開を考察する文章ではなく批評として、作品が読者に、社会に、世界にどのように影響を与えているかという視点から、はやみね作品を捉える文章を書いていきたい。

vol.3(2016年)のテーマは『心技体』にひとつ加えて『心技知体』に文系の話、理系の話、街歩きや映画鑑賞、相撲といった身体性の話がそれぞれ呼応したりしなかったりする本。ゲストを多く取り入れ、雑誌性の高いものとなっていた。掲載論考は小説『天帝のはしたなき果実』について。vol.1とvol.2の論考を混ぜ合わせたような形式で、作家である古野まほろや、『うみねこのなく頃に』という別作品を通して検討するというものだった。vol.1のものより遥かに広範なテーマだったこともあり、風呂敷を拡げ切ることも、畳み切ることも出来てないな、というのが(Re:)で読み返した感想。それぞれをバラバラの論考として出したのちに、補助線を引くなどの方法で書き直したい。

少し体制を変えたvol.4(2017年)のテーマは『遺書』。これまで伊丹・神山が行っていたコンセプト編集と書面編集を堀・高で行うというもの。理由としては就職という若者らしいもので、これ以降全員がそれぞれの人生を過ごしている為invertの発刊が出来ていない状況である。この時に書いたものは批評や評論というよりはエッセイに近く、極めて局所的に流行していた『恋人を喪った安田短歌』という二次創作短歌ムーヴメントを主題としたものだった。手癖で書いてはいるものの、シン・ゴジラと君の名は。をセンター試験の問題を介しながらアクロバティックな方法で接続した。

Re:探偵を実装する

これらについて、ぼくは何を目的として書いているのか。

それぞれ、小説やゲームなどの作品・コンテンツ、キャラクターや探偵という概念、それらの現実社会へのフィードバックについて書いていたといえる。今読み返すと粗削りながら、どの文章もやりたいことは「(誰かの人生に)探偵を実装する」である。

自身を探偵に擬えたフェミニズム批評家は次のように述べた。

「犯罪者は創造的な芸術家だが、探偵は批評家にすぎない」という有名な言葉があります。たしかに、批評家はテクストを犯罪現場みたいに嗅ぎ回り、犯罪者、つまり芸術家がばらまいた手がかりを見て、ヘマを探し出そうとやっきになる探偵で、あまり独創性がないかもしれません。でも、この本に登場したミス・マープルのような名探偵は、何が何だかわからないカオスから正しいものを救い出してくるヒーローです。私は批評家にすぎませんが、ミス・マープルと同じような仕事だと言われるならばそれは光栄です。

〈お砂糖とスパイスと爆発的な何か/北村紗衣 あとがきより〉

北村が言う通り、カオスから正しいものを救い出してくるヒーローとしての探偵、をぼくは実装したいのだろうか。

ぼくの答えはNO。

確かにヒーローとしての探偵について思考したこともある。ウルトラマンと名探偵のようなことを書こうとしたこともある。しかし、世界の真相を看破し、秩序立てて整理をつけるということはあまりにも困難である。ぼくが実装したい探偵像は「傍若無人な名探偵」です。すなわち、各人が自らの技能を用いて、世界を解釈・改変するちからをもてるようになるということ。ここにおいて批評は正しい読解をすることではなく、むしろオルタナティブな作品や世界の見方にスポットを当てることだと僕は考えています。僕が語る、かつその時に限り成り立つ世界の在り様を共有したい。

それが、『探偵を実装する』という欲望です。

fromHの、invertの、これから

神山名義での同人誌出版自体は安田短歌本を2冊、月末読書会本を1冊というかたちで出している。劇場版スタァライト卒論合同誌にも、部分的に抄録としてしまったものの、批評をひとつ寄稿しており、10月には頒布が予定されている。一応、執筆はnoteも含めて継続しているのだ。

来年でfromH結成から10年という節目の年になる。それを見据えながら、個人的にinvert所収論考をnote用に体裁を変えたり、部分的な修正を施した(Re:)シリーズをアップロードし始めた。invertについてはvol.5以降にもやりたい企画がいくつもあったが、凍結したまま5年が経過してしまった。コアメンバー4人でリレー形式で書く評論などもそこにはあったはずだ。

再起動したいと思っていても、学生だったときのように動けないのが大人である。そういった大人と子供をめぐる物語は、はやみねかおるも、古野まほろも、HiGH&LOWも描いている。ならば、いろいろなかたちで仕事以外にも書き物を続けている自分から、再生を始めよう。

invert
Re:?


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