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あなたにおすすめのカレーの本13選【2022版】

ギーやココナッツオイルが固まり、イドゥリドーサ生地の発酵が厳しい季節となりましたがみなさまいかがお過ごしだろうか。気温が乱高下する秋もあっという間に通り過ぎ、そろそろ冬の訪れが近い。気温が10度を下回るようであればカレーリーフをそろそろ室内にしまおう。そして熱いカレーを作り、書物に親しもう。

僕は本が好きだ。特に物理的に手元に置いておける紙の本がやはり好きで、Kindleではなく紙の本をついつい購入してしまう。

以前、『2020年のカレー本 独断と偏見による10選』という記事を書いた。

前回は発刊された年代を問わず自分の好きな本を好き勝手に10冊紹介する内容だったが、今回はまだ紹介していないものの中から、比較的最近発刊されたものに絞って13冊を紹介してみる。

内容から大きく読み物レシピ本に分けている。どうしてもレシピ本が多くなってしまうがレシピ本にもある程度読み物要素は入ってくる。気になる書籍があったら是非購入していただき、インド食文化やカレーに触れるきっかけの一つとしていただけたら嬉しい。

読み物

MASALA LAB

いきなり英語で恐縮だが、一番おすすめなのでまず紹介する。インド人エンジニアによって書かれたインド料理の調理科学の本だ。

感覚的に料理をするイメージの強いインド人がきっちりサイエンスの視点に立って書いているというなかなか貴重な本。これからこの手のものは増えていくのだろうか。

インド料理やよく使われる材料やスパイスについて、科学的なアプローチで説明されている。平易な英語で書かれているので、この本の内容を理解できれば時短を目指しながらも味わいや香りを最大化することもできるようになるはずだ。

中身はこのように全部で8章に分かれている。

第一章:調理科学の基本となる物理・化学と、圧力鍋について
第二章:スパイスと香りについて、直感的に香りを最大化する方法や相性の良いスパイスなど
第三章:メイラード反応について。主に玉ねぎとニンニクの扱い
第四章:酸味の役割とpHについて
第五章:うま味をもたらすものとしてのアルコールやMSGについて
第六章:新たな調理法(電子レンジ、電気圧力鍋、燻製、低温調理など)について
第七章:レシピから離れて本質的に応用が効くような調理の知識について
第八章:ビリヤニについて

ビリヤニについてだけが独立した章になっているあたり面白いが、インド料理に特有のスパイスや材料についての有用な知識が得られると思うので、是非読んでみてほしい。


スパイスの科学大図鑑

その名の通り、ありとあらゆるスパイスの図鑑。

風味化合物に共通する特徴に応じて、スパイスを12種類の風味グループに分類している。そのグループ分けに応じて「異なるグループに属する同じ化合物を持つスパイス」をそれぞれ結びつけることで、調和する独自の新たなスパイスミックスを作り出すことができる。

もちろん全世界の代表的なミックススパイスやスパイスの使い方を網羅しているのだが、特にインド周辺は北インド、ヒマラヤ山脈地域、中央インド、東インド・バングラデシュ、西インド、南インド・スリランカと6つのエリアに細かく分けて解説されている。

冒頭に入るスパイス周期表もかっこいいし、このためだけにこの本を買っても良い。


THE PHILOSOPHY OF CURRY

ロンドン在住のフードライターが書いた「カレー哲学」の本である。カレーとは何か?「カレー」は 本当に存在するのだろうか?もしくは、それは複雑で多様な料理を過剰に単純化している不適切な言葉だとして拒否すべき言葉なのだろうか? というのが本書を貫く大きなテーマ。

イギリス人の視点から見たカレー、インド料理、植民地支配を含め、"Curry
"という言葉が背負っている歴史や重みも含めて捉えている。有名なカレーの歴史書である『インドカレー伝』の内容をフォローしながら、インド料理が古代から植民地時代まで歴史的にどう変化して行ったかもわかる。

「カレー」が一体何なのかわからなくなったらぜひ読んでみてください。


世界のカレー図鑑

『地球の歩き方』シリーズから発売された『世界のカレー図鑑』。

カレーとはなにか、カレーの基礎知識、カレーの歴史、スパイスの歴史、カレー&スパイス年表、スパイス&ハーブ百科など簡単に解説した上で、世界101の国と地域の「カレー」を写真付きで幅広く紹介している。

この本で面白いと思うのは一般的なカレーの定義に加えて以下のようなものもカレーに加えて考えていることだ。

本書の拡張した「カレー」定義
・多種の香辛料を使用した、米やパン、芋などの主食と食べるおかず
・カレーパウダーを使った料理
・香辛料はトウガラシしか使用していないブータン料理
・多種のスパイスを使っているがおかずではないビリヤニなどの米料理やサモサなどのスナック

なんだか議論を呼び起こしそうな考え方だが、そう考えるとまだまだ世界には知らないカレーがあり、一生旅をし続けてもその探求は終わらない。そんな途方もない気持ちにさせてくれる本だ。


カレーZINE Vol.3

カレーに関する読み物を語るときに絶対に欠かしてはいけないのがこの本。すでにVol.1とVol.2が刊行されているが、今号は「カレーと遊び」をテーマに16名の寄稿者によるテキストやイラストレーションを収録。

我々はカレーで遊んでいるのか、カレーに遊ばれているのか。

・じょいっこ(スパイス系異国メシ愛好家)/刺激依存症の私が行きついた場所
・武田尋善(アーティスト・マサラワーラー)/遊びだから本気でゴー!
・h.b./一回だけ試してみない?みんなやってるよ
・比呂啓(映像ディレクター)/ニューヨークのパキスタンから北関東のパキスタンへ
・ボス(Spice & Dining KALA)/カレーと遊び〜スパイスと遊び〜
・トミー(too much india)/イッツ・ナイス・トゥー・ビー・アライブ
・西片あさひ(カレーリーマン)/カレーから学んだ「遊び」の大切さ
・マサラリーマン(ブロガー)/Curry Player Oneとしての遊び方
・三浦智輝(wacca)/カレー探求
・溶(東京マサラ部)/神聖と邪悪のカレー
・カレー哲学(東京マサラ部)/インドの作り方
・山本和則(余白製作所)/「趣味はカレー」といえなくて
・クニモチユリ(美術家)/再会
・上條素山(歌人)/遊び人とカレー
・福岡裕介/カレー遊びはカレー学び
・カレーZINE編集部/カレーZINEvol.2刊行記念イベントレポート

ご覧いただいて分かるように寄稿者の顔ぶれもいわゆるカレー関係者だけではなく歌人や美術家、映像ディレクターなどもいる。多角的な観点からカレーについて考えるきっかけになるのではないだろうか。

来年にはVol.4も刊行予定。テーマは「カレーと旅」になる。


スパイスカレー本

だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー

インドカレーってこんなに簡単だったのか!と誰もが驚くレシピを満載。エリックサウス総料理長の稲田さんは、「時短をすることでストレスフルな作業時間を減らし、ゆったり食事を楽しむ豊かな時間を増やす」というのが信念。
飲みながら何よりも楽しい食事の時間を引き伸ばすために、アルコール、ノンアルコール両方のスパイスドリンクを多数提案している。フォントや写真の見せ方もポップで、眺めているだけでも楽しいレシピ本である。

内容としては本格インド料理に根差しながらも家庭向けのレシピとして最低限まで材料や工程を削ぎ落とし、時短と本格を両立させている。ただ、フライパンひとつや電子レンジひとつにこだわっているのである程度家庭クオリティとなっている部分も否めない。こちらを踏み台にして更なるステップアップを目指すには良い本だと思う。


魯珈のスパイスカレー本

「SPICY CURRY 魯珈 」といえば新大久保にある言わずとしれたカレーの名店である。2016年のオープン以来多くのファンを獲得し続け、毎年の周年イベントの際にはそのカレーを食べるために前日から並ぶ猛者オタクも続出する。
コロナ禍の功か罪かわからないが、そんな名店がレシピを出してしまった。
基本的にお店のレシピとほぼ同じらしいが、たとえレシピを公開したとしても、絶対に他の人には同じ味には作れないという自信の表れらしい。

魯珈のカレーは、テイクアウトしたとしても強烈なアロマが噴き出してくるのですぐに分かる。 魯珈香とでもいうべきか、どうしたらそんなに香りを引き出せるのかわからない。

本書には約50種のレシピが載っている。あくまで基本は南インド料理に忠実でありながらも独自のアレンジが加えられ、カレーの幅も大変に広い。某名店再現の50倍ビーフ野菜カレー、スリランカ風、和風…。と大変に手数が多い。まさにカレーを創作する楽しみを全面に押し出したようなレシピがこれでもかと乱舞している。

興味を持ったら本書を参考にカレーを作ってみよう。もしかしたら本家を超える創作は型の習得から始まるのかもしれない。


インド亜大陸現地人直伝スパイスカレークックブック

インド料理本のカテゴリに入れるべきかとも思ったが一応スパイスカレーというタイトルなのでスパイスカレー本に分類した。ここでスパイスカレーと言われているのはいわゆる広義の「スパイスカレー」であって、インド亜大陸も含むスパイスを使って仕上げるカレー的な料理の総称、くらいに捉えておくのが良いと思う。

本書は「スパイスカレー」の本にしては珍しく、スパイスのネイティブたちに教わったインド亜大陸料理のテクニックをもとにレシピを紹介している。ここで紹介されているテクニックは8種類、レシピは18種類。それぞれを一つずつ習得していき、そのテクニックを組み合わせることで、さらに難しい料理にもどんどんチャレンジしていけるようになっている。

同人誌のため、購入はこちらから著者に直接問い合わせる形になる。


インド料理本

家庭で作れる東西南北の伝統インド料理

「スタジオペイズリー」主催、インド料理研究家、香取薫先生の新刊レシピ本。段々と解像度が上がりつつあるインド亜大陸現地料理への世の関心に対する、大御所のアンサーと捉えた。

「家庭で作れる」と銘打っておきながら所々マニアックな材料や調理法が登場する容赦のなさがあるが、「これがインド料理なんです」という突き放した感じが良い。

内容としてはインド料理を大まかに東西南北の4つに分け、それぞれの食文化的背景や地理的背景やよく使う油、料理の特徴などを解説した上でレシピをいくつかピックアップし、詳細に解説している。

いわゆる「カレー」的な料理以外にもパンやチャトニー、デザートや飲み物などのレシピも多数掲載している。誌面の都合上各地域で偏りがあり全てコンプリートとはいかないが、インド料理の特徴を東西南北でざっくりと把握するには良書だと言える。


チキンカレーultimate 21+の攻略法

ややマニアックな感のある本書だが、チキンカレーが好きであれば試してみても損はないのではないかと思う。

この本は単にチキンカレーのレシピを紹介する本ではない。インド料理の基礎を身につけていく上でチキンカレーを題材にしている、と考えるのが正しい。確かにチキンカレーほど練習に適している題材もなかなかないだろう。肉の手に入りやすさ、調理のしやすさ、嗜好性の高さなど、総合的にチキンカレーは作りやすいと思う。

この本のレシピをまずは手当たり次第作っていくことでインド料理の基礎とカレーの主要パターンが身に付く。目指せカレーマスター。


ミールス

フリーライターの玉置標本さん企画編集。「ケララの風Ⅱ(現在はケララの風モーニング)」オーナーシェフの沼尻さんが作るミールスのレシピをまとめた同人誌である。

品数は多いが一つ一つの調理は難しくない、ミールス各アイテム18の料理をレシピ化してある。ミールスの雑学講座やインド料理関係者による寄稿も充実しているので読み物的な要素も強い。

沼尻さんの普段の調理はインドよろしく目分量で行われているため、計量して再現性のあるレシピとしてまとめられるのは初の試みとのこと。

同人誌のため、購入はこちらから


西インド料理はおもしろい

インド料理の中でも地域を絞ったレシピ本が続々と刊行されている。

本書にはラージャスターン州、グジャラート州、マハラシュトラ州、ゴア州の西インド4州の料理レシピが100種類ほど詳細に載っている。

西インドは地理的にバラエティに富む。ラジャスターンの砂漠地帯もあれば、モンスーンで洪水になるほど水量豊かな土地もある。高原も海岸もあるため多様な気候がある。また、中央アジアからやってきたムガル勢力やゴアを始めとした西洋人の文化の影響が色濃く食文化に反映されている。

州としては4州なのだが民族や宗教などでさらに7つに区分されて語られている。インド料理の面白さは重層性と多様性だと思っている。同じ土地でも民族や宗教の違いで違う料理が食べ分けられていたり、混じり合って新たなものに生まれ変わっていたりする。地理的な制約や歴史的な背景の行き着く先が食文化であり料理なのである。 


ビリヤニ

日本で爆発的な人気の上昇を見せているビリヤニ。
本書はビリヤニ作り初心者や、とにかく色々なビリヤニを炊いてみたい人におすすめです。反対にすでに自分のビリヤニがある、という人にはあまり役立たない内容かもしれません。

ビリヤニに関してのレシピだけでなく、多くのビリヤニ関係者へのインタビューも多数掲載されているので多角的にビリヤニの理解を進めることができます。


【さらに詳しく知りたい方はこちら】それぞれの書籍について、ブログで紹介しています。

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