架空琉球の話 #1「着想に至る経緯」

今回から、最近制作を進めている「架空琉球」の進捗報告をしていこうと思う。初回となる今回は、この創作で表現したいものやコンセプトについてお話したい。

架空琉球とは?

本題に入る前に、まず架空琉球とは何かについてお話する。
架空琉球とは、私プロトファスマが制作している創作である。
架空琉球についての概要を簡単に表すと、以下の四点になる。

  • 琉球王国が現代まで存続

  • 那覇が国際貿易センターに

  • 那覇が80年代以降急速に発展し、都市圏人口400万人の大都市に

  • そこを走る鉄道はどのような姿なのかを考える

つまり、現代まで存続した架空の琉球王国を舞台に、鉄道、都市、経済、政治などに及ぶ社会の諸々について考えるといった趣旨の創作である。
さて、ここからは創作のコンセプトをお話するつもりであるが、
思いのままに書き殴っていたところ、一回に収まらないほどの分量になってしまった。そこでコンセプトについては何回かに分割して公開することにする。今回お話するのは架空琉球の着想に得るに至る経緯についてだ。
ということで暫く身の上話にお付き合い頂きたい。

着想の話

散歩中に気付いたこと

私は労働のない日に手持ち無沙汰になると、よく散歩に出かける。
散歩と言っても近所を散歩するのではなく、東京郊外の様々な駅に降りて、そこから沿線を観察したり写真を撮ったりしながら歩いていく行為である。
具体的に訪れた場所を挙げると、上井草、読売ランド前、ときわ台、永福町、自由が丘などがある。これらの場所に共通する要素は、東京都心から延びる通勤鉄道が通っている、駅前に駅ビルや商店街などの商業が集積している、非常に高密度な郊外住宅地が展開されているといった要素で、私はこのような首都圏郊外の鉄道沿線を愛好している。

▲読売ランド前

ある日、私は東武東上線のときわ台駅から大山駅までを散策した。そして、駅前や沿線を歩き、商業や住宅の景観を観察しながらあることに気づいた。それは、東武東上線という路線は元来人家の少ない田園地帯を走り、主要な都市と都市だけを最短経路で結ぶ、いわゆる「汽車鉄道(ヘビーレール)」であったのに、現代の姿を見ると沿線は住宅地で覆われ、駅周辺には日高屋、QBハウス、ドトール、成城石井、といった商業施設が集積し、通勤電車が高頻度で運行されているといった具合に、すっかり「通勤鉄道(ライトレール)」的に変貌しているということだ。つまり私は散策の過程で、元々人の住んでいないエリアを選んで通していたはずの東上線が、首都圏の世界史的な人口爆発に飲み込まれ、その過程で田畑が住宅地に変わり、汽車が電車に変わり、駅が増設され、駅前に商業が集積して行き、結果として汽車鉄道が通勤鉄道に転向してしまうという現象を感じ取ったのである。イメージとしては、広大な砂漠を横断していた川が、いつの間にかジャングルに飲み込まれて木々に覆われてしまうようなものだろうか。

▲時代が下るにつれて住宅地が拡大し、鉄道を覆ってしまう

東上線に見る首都圏の特異性

ところで、このような現象というのは世界的にも非常に珍しく、それが国内の至る所で発生したという意味では、日本特有の現象なのではないかと考えている。もちろん、世界史的な人口爆発が起こった地域は日本だけではない(中国、南アジア、中央アフリカなど)し、もともと汽車鉄道であった路線に通勤電車を走らせる事例も海外で散見される。しかし、いわゆる過剰都市化のような状態で低所得層が郊外に集住する形態ではなく、中所得層が首都圏ほどの密度で郊外に集住している形態は非常に珍しいと言え、その結果起こった、1km間隔以下に詰められた駅配置や、駅前への消費活動の接近までを考慮に入れると、他に類を見ない現象と言えるのではないだろうか。

423 131 und 423 123 beschildert als S4 nach Holzkirchen kurz vor Fasangarten

▲海外の郊外の一例(ミュンヘン郊外) 

Frederik Buchleitner氏の画像を引用

そういった特異な郊外と鉄道の関係性が現出した背景には、先述した人口爆発に並行して、日本を世界第二位へ押し上げる急激な経済成長と、それに伴った国民所得の増加が関連していると思われる。このように人口爆発と経済成長が同時並行的に起こる例は非常に稀であり、それを背景とした郊外化と生活水準向上双方の牽引役に、鉄道会社が選ばれたということもまた稀な例であると考える。そして、人口爆発+経済成長のエネルギーと鉄道が接触すると、東上線のような汽車鉄道でさえも、本格的な通勤鉄道へと変貌させてしまうということだ。

▲東武東上線 ときわ台駅付近。鉄道に郊外が覆い被さるイメージ。
▲巨大な商店街が隣接する東武東上線 大山駅。

架空琉球の着想を得る

さて、私は散策の傍らでこのような持論をこねくり回していたのであるが、そうしているうちに「首都圏的な郊外と異国の鉄道を混ぜ合わせた架空鉄道が作りたい」というアイディアが沸いてきた。このアイディアが架空琉球の構想の起点となる。とはいえ、この段階ではまだ舞台までは考えていなかった。舞台はなるべく日本と文化や環境が近い地域が望ましい。その方が日本的郊外を誕生させやすいだろうと想定されるからである。しかし、近隣の中国、台湾、韓国などは既に通勤鉄道が走っている。香港に至っては先述したような日本的郊外や日本的通勤電車の特徴の一部が確認できるほどである。そもそも、私は日本語以外の言語を読み書きできないのも大いにネックだ。そのようなことを考えていて、たどり着いたフィールドが「琉球王国」であった。現実では沖縄県となっているエリアが、琉球王国として現在も独立していたとしたら、そしてそこに日本とは異なる国から鉄道が輸入されたとしたら、更に首都圏で起きたような人口爆発が起こったとしたら。ここまで考えたところで、これを「架空琉球」として創作してみようと思った。


むすび

以上が、架空琉球の着想を得るに至った経緯である。
全体的には鉄道に比重が置かれているが、鉄道の背後にある社会についても射程に捉えた創作であることを感じて頂ければ嬉しい。
次回はこれを踏まえて、具体的にどのような架空鉄道が作りたいのかをお話したいと思う。

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