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今日見るかもしれない夢をAIでビジュアライズ!? 近未来マシン「きょう、この夢を抱いて眠る」誕生までのストーリー

ChatGPTをはじめとする生成AIが一気に話題化した2023年、自社開発に積極的なピラミッドフィルム クアドラ(以下、クアドラ)も、生成AIを用いた開発に着手。それが、2023年6月28〜30日に行われた第13回コンテンツ東京にも出展された「きょう、この夢を抱いて眠る」(以下、「きょう夢」)です。AI技術によって、10の質問と、ユーザー(体験者)が提示した1枚の画像を基に、“あなたが今日見るかもしれない夢”を生成するという、ちょっと不思議な体験コンテンツ。

コンテンツ東京の出展にあわせて、テレビ東京系列のニュース番組「ワールドビジネスサテライト」に取り上げられたほか、2023年11月には、2023アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA「一般カテゴリー / インタラクティブアート部門 入賞」にも選出されるなど、完成以降、確実に知られる機会も拡がっています。

今回は、「きょう夢」開発や出展に携わったクアドラメンバー5名に、企画や開発から完成とその後の展望についてそれぞれの立場から語ってもらいました。


メンバー紹介

左上から、山口大地、濵銀
江藤楓、鵜飼陽平、高橋綾乃

江藤楓(えとうかえで)
プロデューサー
2019年新卒入社。Web制作を中心に担当し、2021年〜ジェイアール東日本企画に出向。代理店での業務経験と強みであるコミュニケーション能力を生かし、日々アカウント業務を行う。

濵銀(はましるば)
プランナー / ディレクター
2022年中途入社。前職では大手エレクトロニクスメーカーの製品プロモーションイベントや製品展示などを手がけ、企画から空間設計、制作まで幅広く携わる。現在クアドラでは前職での経験を活かし、インタラクティブコンテンツから、Webゲーム、プロモーションサイトなど多岐にわたる企画ディレクションを担当。

鵜飼陽平(うかいようへい)
インタラクションデザイナー
2016年中途入社。現状クアドラのプロトタイプを独りで切り盛り。視覚に頼らない体験を模索中。実装スタイルは使えるものはなんでも使う根無草スタイル。右投げ右打ちの右脳派。

高橋綾乃(たかはしあやの)
エンジニア
2013年新卒入社。Webを中心に活動しつつ、近年はUnreal EngineやUnityにも挑戦中。実装スタイルはスピード重視。興味の幅が広い文系。

山口大地(やまぐちだいち)
プロジェクトマネージャー
大学卒業後、商業空間の設計から施工を行う企業で約3年間従事。案件の企画・立案から施工までを担当。2021年4月より建築からデジタルへ活動の幅を広げるべくクアドラへ中途入社。プロモーションサイト、筐体制作などの制作進行を担当。

「きょう、この夢を抱いて眠る」とは何か?

━━最初に「きょう夢」の概要を教えてください。どういうことができる装置でしょうか?

鵜飼_専用の筐体「REM(Re-Dreaming Emulate Module)」と名づけた生成システムが、ユーザー(体験者)が今日見るかもしれない夢を生成する、という装置になります。ユーザーはREMで夢に関連する10の質問に答えて、最後にユーザーが直近で印象深かった写真(画像)を自分のスマートフォンから1枚選びREMに認識させると、それらを基にREMが夢のイメージを生成してくれます。

濵_REMの画面に映し出された10の質問に対してユーザーは、REMに用意された、返答するための物理スイッチ(ボタン)を回答内容にあわせて押していきます。ユーザーが一連の手順を経て生成ボタンを押すと、REMが約80枚の画像を書き出します。

鵜飼_それらを各画像をモーフィングで繋いだイメージとして生成し、ユーザーには画面で内容(イメージ)を今日見るかもしれない夢としてご覧いただきます。

江藤_夢イメージを生成する間に体験者が待ちぼうけとならないよう、画面には夢に関するTips、豆知識のような情報を映したり、「どういうイメージが生成されると、どのような夢になるか」という夢診断の内容を表示していました。ユーザーが質問に答えてから写真を選ぶところまでで約4分、イメージの生成時間が約1分になります。

「きょう、この夢を抱いて眠る」開発に至る経緯

━━開発への経緯を教えてください。

鵜飼_2022年後半から、国内外でChatGPTをはじめとした生成AIが騒がれ出して、2023年に入ってからも話題化の熱が続いていました。クアドラもAIを用いた自社開発がしたいと考える一方で、AIがらみの開発は“どうせ誰かがすでにやっている”とも考えていたので、「誰も作っていないもの」を開発したかったんです。

高橋_後でわかることですが、AI開発が(自分が想像していたより)「他ではやっていない」と気づいて、自分にはこの開発機会が幸運でした。

鵜飼_最初、「AIの企画だから、AIに相談してみるか?」と、何度か試しにChatGPTに質問を投げかけると、ChatGPTから「夢」というワードが返ってきて、これが「きょう夢」発想の源になります。「夢を予測する」「夢を生成する」みたいな発想が湧いてきて、「これが実現できるなら、面白そう」となったわけです。

でも、この時点では夢について詳しく知らず(苦笑)。夢のこと、夢がどう生成されるのかを調べていきました。そこで知ったのが、直近にあった記憶やインパクトの強い記憶と過去の記憶との結びつきなどが、夢の生成と関連性が高いことです。

濵_年明けから企画の検討を始めつつも、本格的に開発に向けて着手できたのが2023年3月過ぎで、完成が6月でした。そもそも夢のメカニズムがはっきり判明していない中で、ユーザーに納得できる体験を提供する必要があったので、「どういうロジックで夢を生成して提供もできるのか?」が、プロジェクト初期の大きな課題でした。

夢のイメージをどう提供する?

━━課題の「夢を生成するためのロジックづくり」はどうしたのでしょうか?

濵_「夢を見る仕組み」として、「きょう夢」では熟慮を重ねて「直近の記憶の整理」を生成する起点としました。並行して、最終的に生成した夢のイメージをどう提供しようか、という課題も浮上していました。画像で? それとも動画? もっと違った形があるのかも含めて、技術的なフィジビリティ(実現可能性)と、体験時間という制約を含めて検討を重ねました。

━━なるほど、技術的に実現できても、時間がかかるとユーザーの負担が大きいですしね。

濵_技術的に可能でも、10分以上かかる体験なら、やってくれる人が減ると考えました。出展の有無を問わず、成果物として体験時間はもちろん、待ち時間も考慮した設計が必要です。1人あたりの体験時間が長くなるのは避けるべき仕様だったのです。

━━当然、夢を生成する時間も限られます。

濵_実際の出展を想定し、ユーザーが体験したくなる仕様を1人あたり長くても5分ほど、としました。5分のうち、生成だけに使える時間(体感で許容される範囲)は1分くらいでしょう。技術や時間制限の観点以外にも、生成の中で「断片的な記憶の各シーンが整理されていく過程の表現がいいのでは?」と考えて、動画よりも画像と画像をつないだようなモーフィングのイメージを提供することとしました。私たちが「きょう夢」を説明する際も、生成された“動画”という表現は避けて「モーフィングしたイメージ」と言っています。

モーフィングのイメージは、ユーザーが提示した画像を出発点にして、過去→現在→未来という順番でイメージが映し出される構成になっています。

モーフィングした夢のイメージ

開発過程の進め方について

━━設計や開発上で、特に意識したことは?

濵_目指していたのが、ユーザーが画面を見て直感的に迷わず進める状態です。コンテンツ東京の出展現場では、念のためアテンドを1人付けましたが、ユーザー1人で操作できるわかりやすさを意識していました。

江藤_本格的な動き出しが3月にずれ込んで、企画の方向性を1カ月ほどで固めて、そこから検証へと移りました。高橋さんには無理を言って、4月末から短期間で集中的に、本格的な開発に入る前の検証を行ってもらい、5月中旬前には裏づけのある形で開発を進めていきました。

山口_自社開発で、予算とスケジュールの両方が厳しい取り組みになりました。検証期間や開発期間を満足に設けられず、プロジェクトマネジメント担当としては心苦しい立場でした。

━━検証については、いかがでしたか?

高橋_私が当時AIを用いた開発経験がなく、「AIでそもそも何ができる?」という自分なりの模索から始めました。AIに関するトークイベント動画等を見て、当初の“まるでわからない”状態から「やってみたらできた」ところまで検証を進めて、結果をチームに共有できました。

鵜飼_体験時間約5分を念頭に置いて、どこまでのことができるかを検証してもらいました。「モーフィングでイメージを作る」と言っても、実際にどう生成すべきか? 生成時間を短縮するにはどの程度のスペックを有するパソコン(以下、PC)が必要なのか、なども検証してもらいました。この検証段階で、かなりの高スペックPCが必要なことが判明し、今回はレンタルで手配しました。

開発で難しかったことは?

━━開発で難しかったことは何でしたか?

鵜飼_夢の生成のために必要な質問を決めることでしたね。試行錯誤を経て、最終的に揃えた質問内容が以下の10問です。

Q1:あなたの長所を教えてください。(回答選択肢:情熱的、ポジティブ、冷静、忍耐)
Q2:将来に対してどのような感情を抱いている?(回答選択肢:とても期待、期待、不安、とても不安)
Q3:今の体調はどうですか?(回答選択肢:とても好調、好調、安定、不調、とても不調)
Q4:今の気分はどうですか?(回答選択肢:よい、わるい)
Q5:今のあなたはどちらが好きですか?(回答選択肢:大自然、大都会)
Q6:昔のあなたがよく遊んでいたのはどれですか?(回答選択肢:猫、ロケット、ギター、サッカー など25個)
Q7:その場所は?(回答選択肢:水族館、川、ゲームセンター、子供部屋 など25個)
Q8:青春時代を過ごしています。何をしている?(回答選択肢:クラスメイトと部活にいそしんでいる、放課後友達と談話しながら歩いている など5個)
Q9:その季節は?(回答選択肢:春、夏、秋、冬)
Q10:今イメージしたことの雰囲気はどっちだった?(回答選択肢:静か、にぎやか)

濵_自らの記憶や心情を探るための質問を設定しました。でも回答して思い描くものが、人によって違うじゃないですか? 例えば「犬」を想像する際、想像する犬がチワワなのか、ダックスフンドなのか、ラブラトル・レトリバーなのかは、人それぞれですよね(笑)。そうした揺れを「夢だから」という理由もありつつ、納得できるものを提供して初めて完成、ですので、そのためにも最低限必要だったのが上の10問です。

鵜飼_自社プロジェクトには毎回携わってきましたが、今回は企画と開発の両方ともに重みがあり、「やりたいこと」と「できること」の擦り合わせにとても神経を使いました。

━━具体的にはどういうことですか?

鵜飼_濵くんが説明してくれた、ユーザーによるイメージのズレは、質問数や回答ボタンの数を増やすことで、さらに少しずつ絞り込んでいけます。ですが突き詰め過ぎると、盤面上のボタンが大量になるばかりだし、体験時間を長くするしかありません。

━━クアドラは、過去にも大型筐体の自社開発を幾度も経験済みでしたが、違った難しさがあったわけですね。

鵜飼_ユーザーが体験後に納得できるロジックをどう考えて、落としどころを判断するか? 今回はロジックの筋を通しつつ、実現を意識した割り切りもできたことで、出展の現場では並んで待つ方々が出るなど、好評を得られた要因だったと考えています。

しかも、中身の仕組みを開発するだけでなくて、筐体のすべてを自社制作しました。会社のレーザーカッターなどの機器をフル活用して作れた点は、数年にわたって自社開発を積み重ねた知見が活かされたと思います。

コンテンツ東京での「きょう夢」体験待ちの行列
コンテンツ東京での「きょう夢」体験の様子

濵_フィジカルな体験も組み込みたくて物理スイッチを採用しましたが、3日間あったコンテンツ東京の会期中、一切バグが出ないだけでなく、筐体の破損もなかったのは自信になりました。

山口_過去の経験を踏まえて、運びやすい筐体に仕上がっています。「きょう夢」は、これまでの中でもっとも輸送コストを抑えた筐体でした。簡単にバラバラと解体できて、小さなトラック1台で搬入出が可能だったので。

鵜飼_最初から筐体にキャスターをつけて外部に運びやすくしておくなど、過去の経験が活きています。本来、大型の筐体を外部出展する場合、移動だけで相当に消耗しますから(笑)。これまで本当に苦労した搬送や保管について、先回りで配慮できた点は、知見があったからこそで、クアドラとして大きな進歩も感じています。

今後の展望やカスタマイズの可能性

━━2024年以降、このコンテンツをどう発展させていきたいですか?

鵜飼_企画・開発側の立場から言うと、もう少し突き詰めたいですね。例えば、夢を研究している学者の方と組み、生成するイメージが「本当に今日寝たら、夢に出てくるかも?」と心底思えるくらいまで完成度を高めたいです。

高橋_「きょう夢」は、画像生成AI「Stable Diffusion」を用いてモーフィングされたイメージを提供していますが、動画生成AIも出てきていますし、さらなる進化版を開発したいです。

濵_コンテンツ東京の出展後も、AIの技術が瞬く間に進歩していますよね。進化を取り入れながら、基本のシステムとしてREMを使って、幅広く展開したいです。「質問に答えて、イメージを生成する」という骨子を軸に、夢ではない別の目的に基づくイメージを生成したり。エンターテインメントも含めた、実現可能性を広げたいですね。

江藤_今の状態をさらにブラッシュアップすれば、確実にアテンドなくユーザーだけで楽しめるコンテンツとなるはずです。搬入出のしやすさも活かせるので、例えば、商業施設やイベントの一角にぜひ置いてほしい。もしくは、クライアントにあわせたカスタマイズ版を開発して貸し出し、といった展開に挑みたいです。

━━カスタマイズ版REMは、ぜひ見てみたいです!

江藤_クアドラでは、ボックス型体験装置「もし壁」をカスタマイズして、地方公共団体や各種イベントなどへの出展に応用できた前例があります。それに続けるような、応用がきく成果物として育てていきたいです。

━━このたびはありがとうございます!

取材・文:遠藤義浩


(実はこの記事・・・)

ここまで読んでいただきありがとうございます!
実はこの記事、公開までのちょっとした裏話があります。

「きょう夢」がAIを使ったコンテンツということで、「記事もAIを使って書いてみよう!」という試みをしました。そこで次のような流れで記事を作成。

・AIに質問項目を考えてもらう
・AIが考えた質問項目でインタビュー
(ただし、人の手を入れないという意味で深ぼってインタビューはしない。ただ質問を投げかけて回答してもらうだけ。)
・インタビュー内容を書き起こす
・書き起こしをAIに投げて記事を作ってもらう

結果はというと…違和感なく読めるものはできましたが、読みごたえとしては少し物足りないものに。

そこで、制作メンバーの想いや考えをもっと伝える記事にしたく、ライターさんに依頼させていただくことに。インタビューの録音データを基に今回の記事を書いていただきました。
録音データからは読み取り切れなかった情報を少し追加でお伝えしましたが、広報担当からお伝えできるレベルの内容のみで、制作メンバー5名に追加インタビューをすることなく、ここまでの記事にしていただきました。(やっぱりプロのライターさんはすごい!)

インタビューはただ用意した質問を聞くだけではなく、会話の中から面白いポイントや伝えたいポイントを深ぼっていくからこそ良い記事を作ることができる。記事にまとめる際も、話の意図を読み取りながら、より分かりやすい言い回しにすることで読者に伝わりやすい記事になるのだと改めて感じました。
やはりプロの方にお任せするのが一番良いということですね。

せっかく作ったので「AIで記事を書いてみたver」も公開中です。ライターさんに執筆の記事と読み比べつつ、ご覧いただければと思います!

(この記事の内容は2024年1月31日時点での情報です)


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